エネルギー未来技術フォーラム

「地球環境とエネルギーセキュリティの両立を求めて―温暖化とポスト京都への対応― 」

第1部

温暖化に関する最新の科学情報

(財)電力中央研究所
首席研究員 丸山 康樹

(財)電力中央研究所 環境科学研究所
上席研究員 吉田 義勝

(財)電力中央研究所 環境科学研究所
上席研究員 筒井 純一


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丸山 ただいまご紹介いただきました丸山です。今日は第1部として、「温暖化に関する最新の科学情報」について3名でご報告いたします。

このスライドは、今日の発表の目次です。第1章では、私から気候変化とIPCC報告について、概要を紹介いたします。第2章では、将来の気候変化をよりよく理解してもらうため、吉田上席研究員から電中研の研究成果を中心に紹介します。第3章では、温暖化の問題についてはさまざまな疑問、懐疑論、あるいは誤解がありますので、筒井上席研究員から報告いたします。第4章では、再び私に戻って、結論として、では温暖化をこれからどう考えどう対応していけばいいのか、といった問題について、科学から見た解決の道を示したいと思います。それでは早速、「第1章 気候変化とIPCC報告」について概要を紹介します。


(ビデオ上映)

 

このように、現在、世界各地で気候変化が生じています。こうした深刻な気候変化については、皆さんご存じかもしれませんが、アル・ゴア前副大統領の映画、「不都合な真実」等によってよくご存じだろうと思います。ちなみに先ほども理事長からご紹介がありましたが、10月12日、アル・ゴア前副大統領もノーベル平和賞を受賞しました。しかしおもしろいことに、一方で英国の裁判所はこの映画について九つの間違いを指摘しています。私も判決の内容を詳細に検討してみましたが、全般的にはよくできた映画といえますが、いくつかの誇張、あるいは科学的に見た誤解も見られますので、裁判所が指摘するように、学校教育用などに使用するのは注意が必要だと思います。

さて一方、地球温暖化にはさまざまな懐疑論や異論があることも事実です。たとえばガイア理論のようにユニークな異論もありますし、地球温暖化は本当かといった疑問、あるいはデンマークのロンボルクさんの懐疑論など実にさまざまです。このため、世界の人々が信頼できる科学的知見が必要になります。

このような背景から、IPCCが1988年に設立されました。IPCCとは、気候変動に関する政府間パネルのことです。その役割は、国連気候変動枠組条約に対して最新の科学的知見を提供することです。IPCCはさまざまな政策オプションを例示していますが、たとえばEUの2℃抑制政策などの特定の政策を主張することではありません。IPCCの役割は、「政策には関係するが政治的には中立」というのが大原則です。これは一見無責任なようにも思われますが、これを踏み外すと科学的な信頼性を大きく損なうことになります。マスコミではこの点に誤解が見られて、IPCCがこうこう主張した、かのような報道が行われていますが、これはIPCCの中立性を損ない、一般の人たちから不信感を招きかねないので注意してほしいと思います。

さてIPCCは世界中の科学者、研究者および政府関係者からなるボランタリーな組織です。手弁当で参加します。IPCCは第1作業部会(WG1)から第3作業部会(WG3)の三つの作業部会から構成されています。濃度安定化に関する電中研の成果は第1作業部会、温暖化の科学的知見の報告書に反映されています。これについては、後ほど詳しく説明します。また、政策・制度に関する電中研の成果は、第3作業部会の気候変化の緩和の報告書に反映されています。緩和という言葉は、ちょっと難しい言葉ですが、英語でいうとmitigation、意味するところはCO2等の排出の削減です。緩和については第1部の終了後、第3部で杉山上席研究員から報告する予定です。

さて、2007年の上期、IPCCでは第4次評価報告書を発表しました。これは通称AR4と呼ばれています。IPCCではこれまで1990年の第1次評価報告書から約5年ごとに四つの評価報告書を発表しています。段階的に温暖化の現象が科学的によく理解できるようになってきたわけですが、2007年に発表されたAR4はWG1からWG3の三つの報告書から構成され、それぞれ1000ページ近い英文の大作で、われわれ専門家でも読むのが大変です。その要約版は日本語で訳されてウェブで見ることが可能ですが、その内容については新聞報道等により皆さんよくご存じのことと思いますので、ここではWG1の報告書、つまり温暖化の科学的知見について要点だけをごく簡単に紹介します。

最初に、21世紀末、つまり2100年、いまから100年後ですが、将来の気候変化についてどんなことが予測されているか、という点について紹介します。温暖化によって気温が上昇しますが、その予測値は2100年において、これは排出シナリオによって異なり、1.8℃から4℃と予測されています。これはいくつか幅があるうちのベストな推計値です。

また北極海および南極の海氷が縮小すると予測されています。降水量は温暖化によって全球平均では増加すると予測されていますが、詳しく見るとシベリア、カナダのような北半球の高緯度地域では降水量は増加し、反対に亜熱帯地域、言い換えるとスペイン、オーストラリア、カリフォルニア、南アフリカ等の地中海性気候の地域では降水量は逆に減少すると予測されています。これらの地域は皆さんおわかりのことかと思いますが、有名なワインの産地です。ここでは降水量が減少すると予測されていますので、ブドウ栽培への影響が心配されます。

また、熱帯低気圧、これは台風、ハリケーンと呼ばれていますが、その年間発生数は温暖化によって減少しますが、一度発生した場合、その強度、最大風速、降水の強度、つまり雨の強さは増加すると予測されています。東北地方ではりんご台風などで関心が高いと思いますので、温暖化と台風の関係については、このあとの第3章で筒井上席研究員から説明いたします。

また、CO2濃度の増加に伴い海がCO2を吸収するため、海洋表層の酸性化、これは炭酸の影響ですが、海洋表層の酸性化が進行するとも予測されています。それによる影響も大変懸念されています。これはAR4における新見解です。

次に、22世紀以降、2100年よりもさらに先というずいぶん遠い話になりますが、22世紀以降の濃度安定化の効果について要点を紹介します。

2100年に、国連気候変動枠組条約の長期目標のように、仮に温室効果ガス濃度を安定化できたとしても、数世紀にわたって温暖化や海面上昇が続く予測結果を示しています。これは実に驚くべき予測結果です。不思議なことにマスコミ等ではこういったかなり深刻な現象、あるいは予測についてはあまり報道されていませんので、ご存じない方も多いと思います。これは大変深刻な内容だと私どもは理解しています。そのため、次の第2章では、濃度の安定化の効果について電中研の研究成果を中心に詳細に説明します。

また、気温上昇が数千年間も続くとグリーンランド氷床は完全に消滅し、最終的には海面水位が約7mも上昇すると予測されています。これは大変な事態になるわけですが、ゴア前副大統領の映画では、今世紀中にも海面が数メートルも上昇するかのように誇張されています。しかし英国の裁判では、これは誇張であると指摘されていますので注意が必要でしょう。

さらに気候変化と炭素循環の相互作用のために、地球のCO2吸収量が減少する可能性があるとも指摘されています。これもAR4の新見解です。地球の吸収量については濃度を安定化するときに大変重要になりますが、これが減少するという指摘です。地球の吸収量の問題は、最後の第4章で再び触れることにします。

吉田 環境科学研究所の吉田と申します。私からは「第2章 電中研の温暖化予測研究の成果」について紹介させていただきます。

温暖化予測は文部科学省の「人・自然・地球共生」プロジェクトとして実施したものです。研究期間は2002年度から5年間、アメリカの国立大気研究センターNCARおよびロスアラモス国立研究所との共同研究として実施しました。

予測の前提条件となる温室効果ガスの将来シナリオについては、IPCCが用意した3種類のシナリオ、および、電中研独自のオーバーシュートシナリオに基づく予測を行っています。このオーバーシュートシナリオは、いわば気候の回復を目指したシナリオです。予測計算には世界最高速クラスのスーパーコンピュータである地球シミュレータを活用し、得られた成果はIPCC第4次報告に反映されています。なおこの「人・自然・地球共生」プロジェクトには、電中研以外に東京大学、国立環境研究所、地球フロンティア、気象庁気象研究所などが参加し、それぞれの役割分担の下、さまざまな成果が得られており、今回のIPCC報告にも大きく貢献することができたといえます。

ではまず初めに、温暖化予測の手順について簡単に説明します。出発点は世界の将来、人口や経済成長率等の想定です。これに基づき、将来のエネルギー需要、CO2等の温室効果ガスの排出量を予測します。ここまでが、排出シナリオと呼ばれるものです。

続いて簡易モデルを用いて、それぞれの温室効果ガスごとに排出量から大気中の濃度を求めます。こうして得られた大気中の濃度を入力条件として、スーパーコンピュータを用いて温暖化予測を行います。この結果として、気温、降水量、海氷、海面上昇等の将来の変化が得られます。

具体的に用いた排出シナリオはIPCCが2000年に発表した排出シナリオに関する特別報告書に基づくもので、通称SRESシナリオと呼ばれています。このSRESシナリオではグローバル化が進行するかどうか、環境の持続可能性が重視されるかどうかといった二つの軸によって区切られた四つのグループのシナリオが用意されています。それぞれには、A2やB1といった記号が名前としてつけられています。

このうち、今回はB2を除く三つのグループをそれぞれ代表する合計3種類のシナリオに基づいて、予測計算を実施しました。これはIPCC第1作業部会からの要請によるものです。排出量で見るとA2シナリオが最も高く、中間がA1Bシナリオ、最も低いのがB1シナリオです。以降、これらをそれぞれ高排出、中排出、低排出と呼びます。

次に各SRESシナリオで想定されている将来の1次エネルギー構成を見ていきたいと思います。まず、高排出A2シナリオの場合はこのようになります。上の円グラフは2030年、下は2100年の状態を表しています。このシナリオの特徴は、石炭に対する依存性が非常に高いことです。

次に中排出、A1Bシナリオはこのようになります。このシナリオでは、再生可能エネルギーの占める比率が高いことが特徴です。最後に、低排出B1シナリオの場合はこのようになります。特徴としては2100年までに原子力の導入が進むことが挙げられます。

以上がIPCCのSRESシナリオが想定している将来の社会像ですが、温室効果ガスの大気中濃度に関しては、一つ注意しておかなければならないことがあります。それは、CO2濃度と等価CO2濃度の違いです。温暖化予測では、CO2だけでなくメタンやN2OといったCO2以外の温室効果ガスも考慮します。

たとえば京都議定書では、6種類のガスが排出削減の対象になっています。このようなCO2以外の温室効果ガスによる温暖化の効果をCO2による温暖化効果に加えたものを、等価CO2濃度と呼びます。つまり等価CO2濃度とは、温室効果ガス全体の濃度の目安になります。

こちらの下のグラフは、1870年から2000年までのCO2単独濃度と等価CO2濃度を表しています。これら両者の差がCO2以外の温室効果ガスの寄与に相当します。2000年時点では、CO2単独濃度は370ppm、等価CO2濃度は430ppm、その差は60ppmとなっています。

以上を踏まえて、SRESシナリオで想定されている21世紀の温室効果ガス排出量と大気中の濃度を見ていきたいと思います。まず化石燃料・工業起源のCO2排出量はこちらのグラフのようになります。これを簡易モデルを用いて大気中のCO2濃度に変換したものがこちらのグラフです。

さらに、CO2以外の温室効果ガスを加算します。等価CO2濃度は、こちらのグラフのようになります。2100年時点での濃度は、たとえば低排出B1シナリオの場合、CO2単独の濃度は540ppm、等価CO2濃度は640ppm、その差は100ppmとなります。

安定化目標に関する議論においては、等価CO2濃度を使用する必要がありますが、マスコミ等においてもこの両者が混在している例もありますので、この点にはご注意ください。

続いて、実際の予測計算に用いた温室効果ガスの濃度シナリオについて説明しますGHGと書いてあるのはGreenhouse Gasの略で、温室効果ガスを意味しています。

21世紀に関しては、3種類のSRESシナリオを用います。次に2100年以降については、温室効果ガス濃度がそれぞれのシナリオにおける2100年時点の値で固定されると仮定します。これはIPCC第1作業部会の要請によるものですが、仮に2100年時点で大気中の温室効果ガスの濃度が安定化されると仮定して、濃度安定化後の気候変化について調べることが目的です。

ここまではIPCCからの要請によるものですが、これに加えて、当所では独自にオーバーシュートシナリオに基づく予測計算を行っています。これについて少し説明します。

こちらでは、縦軸に温室効果ガスの濃度を、横軸に時間を取ります。濃度安定化の目標は、こちらの青い破線のレベルとします。オーバーシュートシナリオでは、温室効果ガスの濃度が安定化目標より高いレベルまで一度上昇します。その後排出削減が進む、もしくは排出削減の効果が遅れて現れてくることによって、安定化目標が達成される。一度行き過ぎてから戻ってくる形のことを、オーバーシュートと呼びます。

具体的には、中排出A1Bのレベルまで一度上昇したのち、100年間で低排出B1シナリオのレベルまで低下するケース、高排出A2シナリオのレベルまで上昇したのち、100年間で低排出レベルまで低下するケース、同じく高排出A2シナリオのレベルまで上昇したのち、今度は200年間で低排出レベルまで濃度低下するケース、以上の3種類のシナリオに基づく予測計算を行っています。これらのオーバーシュートシナリオでは、温室効果ガスの濃度が低下した場合の気候システムの回復に着目することが目的です。

以上のような濃度安定化シナリオおよびオーバーシュートシナリオに基づいて、25世紀の半ば、2450年までという超長期にわたる予測計算を行った点も、当所の温暖化予測研究の重要な特徴です。

冒頭で述べたように、温暖化予測計算には地球シミュレータを活用しました。これがその写真ですが、海洋研究開発機構の横浜研究所にある世界最高速クラスの並列スーパーコンピュータです。

それでは、予測結果を見ていただきたいと思います。まず気温上昇の予測結果です。計算の開始時点である19世紀末を基準とした温度上昇をアニメーションにしてあります。温度が上昇するにつれて、色が黄色からオレンジ、そして赤に変わっていきます。それでは、アニメーションを開始します。

(アニメーション上映)

いま停止したところが今年、2007年の様子です。温暖化が徐々に顕在化してきており、地球が全体的に黄色がかってきています。

(アニメーション上映)

いま停止したところが、2120年の状態です。温暖化が相当に進行した様子が描かれています。当然ですが気温上昇は高排出の場合が最も大きく、低排出の場合が最も小さくなっています。

気温上昇の空間パターンに関しては、まず海洋よりも大陸上における気温上昇が大きいことが一つの特徴です。もう一つの特徴は、北半球の高緯度における気温上昇が非常に大きいことです。これらの特徴はすべてのシナリオに共通しています。

ご覧のとおり、北極海においては気温上昇がとりわけ著しく、シナリオによっては15℃以上もの気温上昇が予測されています。これは北極海における海氷の融解、およびその周辺の陸上における積雪面積の縮小によって太陽光の反射率が下がり、局所的に温暖化が加速されることが主な原因です。

全球平均した地上気温の時間変化がこちらのグラフです。21世紀の100年間、温室効果ガス濃度の上昇に伴って、気温は急速に上昇していきます。重要なのは、2100年における濃度安定化以降の挙動です。気温上昇の速度は遅くなりますが、その上昇自体はゆっくりと継続し、2450年に至ってもその温度上昇は止まっていません。「濃度を安定化しても数百年にわたって気温上昇は継続する」。これは、IPCC第4次報告における重要な科学的知見の一つです。

オーバーシュートシナリオの結果はこのようになります。いずれのケースにおいても、濃度レベルを低下させることによって気温は低排出シナリオのレベルまで低下する。すなわちオーバーシュートシナリオでは気温は回復するという結果が得られています。これは電中研独自の検討結果ですが、IPCC第4次報告の中でも大きく取り扱われており、重要な成果の一つということができます。

次に、海面上昇の予測結果はこのようになります。海面上昇は山岳氷河やグリーンランドと南極の氷床の融解によっても生じますが、このグラフは海水の熱膨張による海面上昇のみを表しています。この結果で重要な点は、海面上昇に関しては濃度安定化の効果が非常に小さく、海面上昇は非常に長い期間継続するということです。これは海洋の熱的な慣性の大きさが原因です。

オーバーシュートシナリオの結果は、このようになります。先ほどの気温の場合とは異なり、オーバーシュートシナリオの効果も限定的であり、海面水位は低排出シナリオのレベルまで回復しないという結果が得られています。これも海洋の熱的な慣性の大きさが原因ですが、海面水位の回復には1000年程度の非常に長い時間がかかると考えられます。

次に、北半球における海氷の予測結果をご覧いただきます。

(アニメーション上映)

青い色が海洋、グレーが陸地を表しています。こちらの下側が北米大陸、上側がユーラシア大陸、日本はここに位置しています。白い色で表示されているのが海氷の分布です。左側は1990年代、右側は中排出シナリオに基づく2090年代の予測結果で、海氷分布の季節変化をアニメーションにしてあります。

北半球の海氷は夏の遅い時期、9月にその面積が最も小さくなり、冬の遅い時期、3月に面積が最大となります。1990年代を見ると海氷が最も広がる3月には日本の北海道まで海氷が到達していますが、温暖化が進行した2090年代では、北海道までは海氷はやってこなくなっている様子がわかります。より顕著なのは夏の変化です。1990年代では夏でも北極海の大半の海域は海氷で覆われていますが、2090年代の予測結果では北極海から完全に海氷が消えてしまう瞬間があることがわかります。

先ほどは中排出シナリオの結果でしたが、高排出シナリオの場合はさらに深刻です。まずこちらが夏の海氷分布です。左側から順に、20世紀末、21世紀半ば、21世紀末の分布です。夏の場合、21世紀の半ばには北極海における海氷の大半が消失し、21世紀末までには完全に消滅してしまいます。これは中排出シナリオの場合も同様です。

一方、冬の海氷分布がこちらです。左から順に、20世紀末、21世紀末、24世紀末の分布です。21世紀末まではこの程度に海氷が残っていますが、高排出シナリオの高い濃度レベルで安定化された状態が続いた場合、24世紀末までにはこのように冬の海氷ですら大幅に減少してしまうという結果が得られています。

次に、永久凍土の予測結果を紹介します。

少しわかりづらい絵ですが、先ほどとは異なって青い部分が陸地、黒い部分が海を表しています。こちらが北米大陸、上側がユーラシア大陸で、日本はここに位置しています。白い色で表示してあるのが、地下3mにおける永久凍土の分布です。永久凍土はシベリア東部、アラスカ・カナダの北極域、チベット高原に分布しています。左側は計算開始時点である1870年の分布、右側は中排出シナリオに基づく予測結果です。

20世紀も半ばに入ると永久凍土は徐々に融け始めます。21世紀に入るとその融解が急速に進行します。このように、21世紀末までには地下3mにおける永久凍土は、シベリアやアラスカではほぼ完全に融けてしまうという結果が得られています。永久凍土の融解によって地盤が緩むと、その上の建造物には直接的な被害がもたらされます。また永久凍土によって閉じ込められていたメタンが大気中に放出されると、温暖化が加速されることも懸念されています。

続いて海洋の変化を見ていきたいと思います。温暖化によって氷河期が来るという映画があったのを覚えていらっしゃるでしょうか。3年前に公開された「デイ・アフター・トゥモロー」です。そのストーリーは、温暖化によって海洋の深層循環が変化し、その結果、氷河期のような寒冷な気候が到来するというものでした。もちろん映画ですから大げさな演出、デフォルメ等々がいろいろありましたが、温暖化による危険な影響の代表的な例としてしばしば取り上げられるのが、熱塩循環という海洋循環の変化です。

このスライドは、海洋のコンベアベルトと呼ばれる海洋の表層から深層までを含む地球規模の海洋循環の模式図です。このコンベアベルトは、1周するのに1000年、2000年といった非常に長い時間を要すると言われています。ここで注目する場所は北大西洋の北部です。この場所では南から温かいメキシコ湾流が流れてくることで、高緯度にもかかわらず温暖な気候が保たれています。ここで起きていることを説明します。

まず海洋表層を南から北に向かってメキシコ湾流が流れてきます。これは低緯度では大気によって温められますが、高緯度まで達すると逆に大気によって冷却されるようになります。これによって海水の温度が下がり、海水は熱的に収縮、密度の高い重い海水が形成されます。さらにこの海域では、海水が凍って海氷が生じます。このとき海氷の周りには、塩分を多く含んだ重い海水が形成されます。このような二つの仕組みによって形成された重い海水は、グリーンランド周辺の海域で沈み込み、この図のような循環、熱塩循環が形成されます。

ここで重要なのは、こちらの沈み込みです。これが生じることによって南から流れてくるメキシコ湾流を高緯度まで引っ張り上げる。これが北大西洋北部の温暖な気候の原因となっています。ところが温暖化が進行すると、まず大気による冷却が弱まり、海氷も形成されなくなります。これによって沈み込みが止まり、メキシコ湾流は高緯度まで引っ張り上げられず、北大西洋北部は寒冷化します。さらにはこのコンベアベルト全体が停止してしまい、現在とはまったく異なる気候状態に遷移するのではないかと懸念されています。

では、温暖化予測の結果はどうなっているでしょうか。こちらがその結果です。グラフの縦軸は熱塩循環の流量です。温暖化の進行する21世紀の間、熱塩循環の流量は徐々に減少、つまり熱塩循環は衰退していきます。高排出シナリオの場合、その流量は3〜4割程度減少します。しかしながら濃度安定化によって歯止めがかかり、それ以上には衰退しないという予測結果が得られています。

オーバーシュートシナリオの場合の結果は、このようになります。濃度の低下によって熱塩循環の流量は急速に回復するという結果が得られています。

このように、熱塩循環の停止による大規模かつ急激な気候変化は生じないというのが、モデルから得られた予測結果です。IPCCでも第4次報告では、熱塩循環は21世紀中に弱まるものの、大規模かつ急激に変化する可能性はかなり低いと言っています。ただしより長期の変化に関しては予測の信頼性が低く、今後の課題であるとされています。

最後に予測結果をまとめます。温暖化による危険な影響という観点から重要な結果は2点です。まず、熱塩循環は減少するが北大西洋は温暖化し、氷河期等の危険な影響は生じない可能性が高い。次に、北極海では海氷が融解する。中排出A1Bシナリオでは夏の海氷が消滅する。高排出A2シナリオでは、冬の海氷も大幅に減少する。

以上から判断すると、低排出B1シナリオが国連の気候変動枠組条約第2条の濃度安定化条件には最も近いと言うことができます。しかしながら、濃度を安定化しても気温上昇や海面上昇が継続するのは深刻な問題です。

また、電中研独自の検討からは、気候の回復にはオーバーシュートシナリオが有効という結果も得られています。この最後の2点に関しては、第1部の最後、第4章においてもう一度触れます。私からは以上です。

丸山 私からは「第3章 温暖化問題の疑問と誤解に答える」として、次の二つについて、説明してみたいと思います。第1の疑問は、地球は氷河期に向かっている、だから氷河期に向かえば温暖化も怖くはないという議論です。第2の疑問は、観測データでは南極の気温は低下している、温暖化は嘘だという議論です。

まず、地球は氷河期に向かっているという疑問について。気候変化を引き起こす原因は、四つあります。一つは太陽エネルギーの変化、言い直すと地球軌道の変化です。二つ目は、火山爆発です。たとえば江戸時代、富士山の噴火が冷夏と飢饉を引き起こしたことでよく知られています。三つ目は、CO2等の人為的な温室効果ガスの変化で、通常はこれが地球温暖化として問題になります。

四つ目は、森林伐採や砂漠化などで地球の表面が変化することによって気候は変わります。AR4によると、過去の氷河期は地球軌道の変化が原因であることがはっきりしてきました。この図は過去40万年の規則的な氷期・間氷期サイクルを示したものです。

横軸、図の左側が現在で右側が40万年前となっており、通常の時間軸とは異なるので注意してください。上段のオレンジ色の線は、CO2濃度を示しています。真ん中の赤い線は気温で、非常に規則的な変化を繰り返していることがわかります。下段の濃紺の線は、メタン濃度を示しています。

温暖化の懐疑論の一つに、いわゆるニワトリと玉子の関係を指摘したものがあります。つまり、この図のように、気温が何らかの原因、理由で変化したことによってCO2濃度が連動してこの図のように変化したのであって、CO2濃度が増加したから気温が変化したものではないという議論です。少しややこしいですが、CO2濃度と気温のどちらがニワトリでどちらが玉子かという議論です。

なるほど図を見ると上からCO2濃度、気温、メタン濃度がお互いに規則的に変化しており、こうした疑問も無理からぬところがあります。しかし、温暖化はCO2がニワトリ、つまり原因であることがはっきりしてきました。

少し横道に逸れましたが、改めて気温変化をよく見ると、いまから12万5000年前に温暖な時期があり、第3間氷期と呼ばれています。この間氷期と現在を見比べていただきたいのですが、これから起こる将来の温暖化に似ているとして、冒頭でも述べたようにIPCC、AR4でも特に注目されています。

ちなみに、この間氷期にはグリーンランド氷床が融解していたと推定されています。このような状態になると、グリーンランド氷床が溶けるかもしれないという懸念です。

1930年代の有名な科学者、ミランコビッチによると、地球の軌道が円軌道から楕円軌道に変わる周期がほぼ10万年で、この図のように温度変化の周期とよく一致しています。このミランコビッチサイクルから類推すると現在から将来にかけて図のように気温が下がるはずで、これが「将来は寒冷化する」という説の根拠になっています。

AR4では氷期・間氷期サイクルの研究が格段に進歩し、氷河期の始まりはこの図のように北半球の暖かい冬、涼しい夏の組み合わせが原因であることがわかってきました。図のように地軸が傾いていると、北半球は冬になります。想像してみてください。この図では、地球の位置が太陽に近い近日点にあるとしているので北半球は暖かい冬になり、海からの蒸発が多く、北半球に雪が多く降ることになります。

1年間で1周するわけですがさらに地球が公転して反対側になると、太陽から遠い遠日点になります。この結果涼しい夏となり、夏でも雪が溶けない。万年雪の状態になることによって、北半球に厚い氷床が成長するというメカニズムがわかってきました。ちなみに、氷河期では海面が100m以上低下していたこともわかっています。

この図は2万1000年前の氷河期の再現計算を示したものです。電中研と米国のNCARとの共同研究成果で、電中研のスパコンを利用した結果です。この表のように、1990年の現状と2万1000年前の氷河期の再現計算を行い、両者の差を取ったものがこの図です。

全球平均では、表の右下のように、現在、1990年より約6.4℃気温が低かったことになります。空間的に見ると、ヨーロッパや北米では厚さ2000m程度もある氷床、アイスシートが広い範囲で発達していました。厚い氷床の上では高度が高いこともあって、現在より40℃程度も気温が低かったことが計算結果からわかります。

しかし、赤道の近いところを見ていただくと、意外なことに現在より3℃程度しか気温が低下していなかったことがわかります。ちょうどハワイのような気候で、珊瑚礁も十分に元気だったと推測しています。人類は約100万年前に誕生したと言われていますが、2万1000年前、古代の人々はもしかすると赤道近くで海水浴を楽しんでいたかもしれません。

このように最近の研究によって、過去の気候変化の意外な特徴がわかります。氷河期というとマンモスとか毛皮を着た古代人の絵がありますが、それとはずいぶん違う様子が見えます。ある部分では森林が枯れたわけですが、そういった大規模な気候変化と生態系あるいはエコシステムの応答の問題が急速に解明されつつあります。目が離せない状況と言っていいと思います。

さて、氷河期の疑問への回答をまとめてみます。氷期、間氷期サイクルは地球の気道が楕円軌道であって、かつ2万年周期の歳差運動、すりこぎ運動のある組み合わせが原因だということがわかってきました。現在の地球軌道は円運動で、楕円軌道ではありません。このため約2万年周期の歳差運動との組み合わせでは、先ほど示したような条件が現れず、今後3万年にわたって氷河期は来ないと予測されています。難しくて、私もこれ以上質問されると答えられません。

さらにこれに人為的な温室効果ガスの影響が加わるので、温暖化は相当長期間、継続することになります。つまり、温暖化が氷河期で相殺されることはありそうもないということです。最後の第4章で詳しく述べますが、この長期の温暖化によってグリーンランドの氷床融解が生じる危険性が一層高まります。

次に、第2の疑問である、観測データでは南極の気温は低下している、温暖化は嘘だという点について説明します。この図は再解析データと呼ばれる一種の観測データで、左上の電中研・気象庁共同研究のデータ、右上の欧州のデータ、左下の米国のデータを示しています。

地球上の各点においてグリッド上でたくさんのデータが得られていますが、1979年から2001年までの各点のデータを用いて、専門的になりますが線形フィッティングあるいは回帰分析により、10年あたりの気温変化率を算定した結果がこの図面です。

赤い色ほど気温上昇の変化率が大きいことを示しており、青いところでは逆に気温が低下したところを示しています。たとえば北半球の高緯度地域では、10年間に約1℃のスピードで気温が上昇していることがわかります。これは、100年間にすると10℃も気温が上昇するスピードであるとわかります。ちょっとびっくりしますが、第2章で述べたように、温暖化予測の結果ともよく一致しています。これは観測値です。

また、特に太平洋や南半球では赤いところと青いところが入り交じっており、気温の変化率は地球上で一様ではないこともよくわかります。しかしながら、いずれの場合も南極周辺では青い色になっており、気温が逆に低下していることがわかります。この原因は複雑ですが、どうも南極周辺におけるオゾン層の減少が原因だということがわかってきました。

ところで温暖化の理論が正しいとすると、気温変化パターンには明確な特徴がなければなりません。まず、地表気温が上昇するはずですが、これはさまざまな方法、温度計等で観測されており、否定のしようのない事実です。さらに温暖化理論が正しいならば、地表から約10kmまでの対流圏において、中間にある温室効果ガスが温まるため気温が上昇するはずです。

さらにジェット旅客機が飛行する高度10km、10000m以上の成層圏では、この図のようにその下の温室効果ガスが太陽エネルギーを閉じ込めてしまうため、気温は反対に低下するはずです。

実は軌道計算が間違っていたみたいですが、これまでの衛星観測データでは処理方法に問題があり、このような気温変化パターンを確認することができませんでした。大声では言えませんが、温暖化は嘘かもしれないと、われわれ専門家の間では冷たい論争がありました。

ところが衛星データの最新の処理結果では理論どおりであることが確認でき、最近、論争に結着がつきました。少しほっとしています。この結果はNASAの最新の成果で、地上5kmの対流圏はほとんど赤くなっており、温室効果ガスが温まるため気温上昇が確認されました。また、地上18kmの成層圏では、反対に気温低下が確認されました。これによって温暖化理論が証明されたわけです。

しかし、南極は明らかに例外です。対流圏の場合でも地上と同様に気温が低下しており、これは明らかに温室効果ガスの増加が原因ではありません。おそらくはオゾン層の破壊が原因だと思います。また、成層圏では温度が逆に上昇しており、これは突然昇温という複雑な現象が原因だろうと思います。このように南極では、全球的な温暖化に加えて非常に複雑な現象が重なっていることになります。

確認のため、先ほどお見せした全球データを平均することにしました。まず、先ほどのように電中研気象データなど3種類のデータの月平均値を示します。この上の図です。このように横軸の1979年から2005年にかけて、月平均気温は複雑に変化していることがわかります。さらに月平均値に1年間の移動平均をかけると気温変化はなめらかになり、最近の気温上昇が明らかです。

この傾向は電中研・気象庁のデータ、欧州のデータ、IPCCの代表的なデータでも、驚くほど同じ結果になります。つまり、このような処理をすることによって、温暖化は明らかに検出することができるということです。

さて、南極の寒冷化の疑問への回答を整理してみます。衛星観測データの最新の処理によると、温暖化理論どおりの気温変化が確認されました。一方、南極は例外で、オゾン層破壊と突然昇温が影響しています。したがって、南極だけ見れば「温暖化は嘘だ」という説もあながち間違いとは言えません。しかしそれは断片的な見方であり、地球全体では先ほど示したように気温が上昇していることは間違いないと言えます。

筒井 電力中央研究所環境科学研究所の筒井と申します。引き続きまして私からは 「第3章 温暖化問題の疑問と誤解に答える」の後半として、「予測モデルの精度は向上したか」、「日本付近の予測精度は向上したか」、「台風・ハリケーンの強大化は温暖化の影響か」という大きく三つの話題に触れたいと思います。その最後に、より一般的なことについても若干触れて見解を述べさせていただきます。

最初の話題は、「予測モデルの精度は向上したか?」。ただいま吉田からスーパーコンピュータを使った予測結果をご紹介させていただきましたが、その気候の予測は地球全体を細かい箱に区切り、その箱の一つひとつで気温や風速などの時間変化を時々刻々計算して100年先、200年先を予測するというものです。ご覧いただいているのは、その箱のサイズが解像度ということになりますが、1990年の第1次評価書から2007年の第4次評価書まで、それぞれの時点での主要なモデルの解像度で日本付近の地形を表したらどんなふうになるかを表しています。

ご覧のように最初の第1次評価書の時点では日本列島が五つか六つぐらいの箱でしか表現できなかったところが、最新のモデルでは日本列島がそれなりのかたちを持って表現できるようになってきた。残念ながら温暖化の予測には海の底まで細かく計算する必要がありますので、そのような本格的なモデルの場合はまだまだこの程度の解像度ということになります。

解像度が向上しましたが、それと同時に気候のプロセスそのものの計算精度も向上しています。将来を予測するためには過去の気候がどのように推移したか、きちんと再現できることがモデルの性能として必要になってきますが、そのあたりの過去の気候の再現性も最近のモデルは飛躍的に向上したといえます。

ご覧いただいているのはIPCCの報告書から引用したもので、1900年から2000年ごろまでの地球全体の平均気温の推移を表しています。黒い太い実線が各観測値です。色のついた線が上と下の両方にありますが、たくさんのモデルでいろいろな研究がなされているので、それがたくさんプロットされているわけです。下のほうはモデルの計算条件として、太陽活動とか火山噴火などの自然の原因のみを考慮した結果です。それに対して上のほうでは温室効果ガス等の人為的な変化も含めて計算した結果です。

ご覧のようにその両方を考慮することによって、黒い実線で表された過去の気候の推移が、ほぼ満足できる精度で表現できるようになりました。さらにはこの二つを比較することにより、最近の急激な温暖化に関しては、自然の原因のみでは説明できないというIPCCの主要な見解の根拠になっています。

さて将来の予測に関しても、精度は向上していますが、地球温暖化によって、たとえば雲がどのように変化するかという非常に複雑な問題がまだ解決しておりませんので、その表現の仕方によってはバラツキが出てくる。ただし、そのバラツキの度合いも2001年時点でのあるシナリオの下での100年間の予測で、4℃ぐらいの開きがあったのが、最新のモデルを使うと、そのバラツキが半減している。ここでもモデルの信頼性が高まっているといえます。ただ、この段階で科学者はかなり慎重ですので、この段階で依然として高い予測を出すモデル、低い予測を出すモデルも、まだ完全にはその可能性を排除できないことになっています。

精度の問題を簡単にまとめますと、解像度は飛躍的に向上した。これはスーパーコンピュータの性能に負うところは大きいわけですけれども、それによって過去の気候の再現性も大幅に向上した。しかし予測モデルの数が増えてきて、中には品質の低いモデルの結果も含まれるため、その可能性も否定できないということで、バラツキは依然として第三次報告書の時点と同程度になっています。ただし主要なモデルに限れば、将来予測の信頼性は確実に向上しているともいえます。

さて次の話題としては、このようなモデルの信頼性が高まってきて地球規模の温暖化が得られるようになってきた。日本付近はどういった情報が得られるかということについて申し上げたいと思います。

まず一般的な話としては、解像度が高くなっているモデルからは地域ごとの詳細な予測情報も得られていますし、一つひとつのモデルには少なからずバラツキがありますが、多数のモデルを総合することでそれを補正することも可能になっております。

さらには日本付近だけを注目して、そこを詳細に分析することも可能になりました。

たとえば、これは先ほども出てきた日本付近の地形を異なる解像度で表したものですが、海の底まで計算するような大気海洋結合モデルでは現状この程度ですが、大気だけを取り出して100年後のある瞬間だけをより詳しく計算するという目的では、大気だけを解像度を高くして計算する。

その場合には、20km解像度で計算することも可能になっています。したがってこの程度まで解像度を高くすると、たとえば東北地方の地形もそれなりに表現できて、日本海側と太平洋側の気候の違い、今日あたりもそのような大きく違った天候になっていると思いますが、そのあたりもきちんと表現できるようになります。

以下、大規模な大気海洋結合モデルからの予測情報をまず東アジアに注目してIPCCの成果を簡単に紹介します。

ご覧いただいているのは、IPCCでまとめられている地球上をいくつかの区分で区切って、その領域ごとで中程度の温暖化、A1Bシナリオで予測される100年後の気温の変化を領域ごとに比較したものです。細かいところは触れていませんが、ここでは緑で表されているアジアの中で日本が位置する東アジアを星印で表しましたが、そこのレベルがだいたい3.3℃、ほかと比べてどの程度かということにまず注目してください。

海の多いところでは比較的2℃とかそれぐらいの予測ですが、北半球の陸地の多いところと比較すると、東アジアの気温変化は高くもなく低くもなく、といったところです。地理的な位置関係を確認してみると東アジアと同程度のところを緑で表し、それより大きな温暖化を示すところはオレンジ色、緩やかな温暖化は青色で表したところ、北半球の高緯度で非常に大きな変化があり、その中で東アジアは中程度といった変化になります。

気温も場所によって大きくばらつくわけですが、降水量に関しても大きな違いが出ます。平均的には温暖化によって降水量は増えますが、このように中には先ほども話がありましたが、温暖化によって乾燥化するところもある。同じくアジアの中の東アジアに注目してみると、東アジアはだいたい年間を通じて9%ぐらい増えるという予測結果になっており、世界の中でも割と標準的な変化を示すところであるといえるかと思います。

地理的な位置関係を確認してみると、温暖化によって降水量が増えるところは緑、季節によって減るところはオレンジ、年間を通じて減るところは茶色で表していますが、減るところは地中海のあたり、あるいはオーストラリア、中米、全体的には中緯度で減少する地域がある。東アジアも中緯度に位置するわけですが、その中ではこういった乾燥化の危険性は比較的少ないといえるかと思います。

この全球のモデルから得られる中程度のシナリオに限っていうと、気温の変化は東アジア平均でだいたい3.3℃、全球平均よりは若干高めです。これはあくまでも長期的な平均的な変化ですが、年によって暖かい年、寒い年いろいろありますが、たとえば現在の極端に暑い年に注目してみるとそれでも100年後は現在のように極端に暑い年は普通になってしまうという規模の変化といえます。東アジアの中で日本は若干低めですが、南北に細長い列島ですので、北に行くほど大きいといった地域差はあります。

降水量は年間を通じて9%増加ですが、申しましたようにほかの中緯度の地域に比べると渇水の危険性は比較的小さい。ただし自然の変動の代表格ともいえるエルニーニョ等の変化が現状ではよくわかっていないこともありますので、温暖化によってこの自然変動がどう変化するかによっては予測結果にも多少変化が生じる可能性はあります。

大気だけをより細かく分解して計算した結果から得られることとして、たとえば梅雨明けの遅れ、西日本の降水増加の可能性などが指摘されていますし、平均的には雨が増えるといってもその降り方が極端になるということも指摘されています。具体的には、たとえば渇水が続いたあとに台風による大雨が降るとか、あるいは2年前には12月に記録的な豪雪がありましたが、そのような自然の極端な現象は自然変動として起こるわけですが、それが温暖化によってより極端化するということも指摘されています。

次に3点目の話題として、極端現象の代表格ともいえる台風・ハリケーンについてお話しします。これについては2005年に『Science』、『Nature』という著名な学術誌で過去30年間の熱帯低気圧が強大化しているという観測データに基づいた研究ですが、そういう指摘がなされています。この一部についてはIPCCでもそれを支持する言明がなされています。

ここでまずご注意いただきたいことは、この点に関しては科学的な論争が引き起こされて、その論争がいまだに続いていることです。

まず第1点の反論、疑問点は、強度の推定手法に過去の観測記録の中で一貫性があったかどうかという点です。台風の強度は、中心気圧や最大風速で表されますが、現在はこのような人工衛星からの画像に基づくある種のパターン認識で推定しています。もちろんその推定手法は、きちんとマニュアル化されていて、訓練を積んだ予報官がやればだれでもほぼ同じ結果を出すものですが、問題はそういったやり方が過去30年の期間において一貫性があったかどうか。これに関しては少々疑問符がつくことになろうかと思います。

それから30年間で強度が増しているといっても、それはもっと大きな自然変動の一端をとらえているに過ぎないのではないかという疑問も当然あります。ここに示した図は西部北太平洋の熱帯低気圧、すなわち台風の発生数を1950年からプロットしたもの、そのうち日本に上陸したものがいくつあったかをプロットしています。全体的には年によって多い年、少ない年がありますが、それに加えて20年から30年ぐらいのスケールで変動しているという傾向も見えますし、それとは関係ないところで上陸数も変動していることも理解されるところです。このように自然の変動が大きくて温暖化の影響の検出が困難というのが二つ目の疑問です。

一方、事実としては熱環境、海面水温などが変化していることもほぼ確実です。個々に表した図は1850年から2000年までの熱帯の気温の変化を表していますが、古い時代は多少信頼性が低いところがあって影がついていますが、特に最近の30年に限れば一方的に増加していることも事実です。30年で0.6℃ぐらい上がっています。

そういったことから専門家の共通認識としては、特定の台風・ハリケーン、つまりハリケーン・カトリーナみたいなものですが、その現象を温暖化と関連づけることはできないとされています。ただし全体的には熱環境の変化が影響しているだろうというのがこれまでの共通の認識ということになります。

ここで熱環境ということが出てきましたので、若干専門的にはなりますが、熱環境が台風強度にどのように影響するかという点をご説明します。

ご覧いただいているのは、台風の中心を通る断面を横から模式的に表したものですが、中心を取り巻く非常に強い渦巻きと同時に、エネルギーの流れとしてはこのような二次的な循環が重要になってきます。すなわち海面付近の吹き込みの過程で暖かい海洋から熱エネルギーを吸収し、それが水蒸気の潜熱というかたちで蓄えられて上空に持ち上げられ、冷やされたところで凝結して熱を出し、それが台風の中心の上空に暖気核といわれる周辺より気温が高い状況をつくり出します。気温が高くなれば空気が軽くなる。それが地上付近、海面付近で見た場合には気圧が下がることに対応します。

したがって周囲と比べてどれくらい暖かい空気の塊ができるかということが、どこまで気圧が下がるかということに結びつけられるわけです。気圧が下がればさらにこの循環が強まり、より多くのエネルギーが供給されます。

このような台風の発達の概念を数式で表して、現状気候の海面水温と上空の気温、さらには将来の気候の海面水温と気温の状態を入力すると、たとえば温暖化して海面水温とともに上空が暖かくなったときに、どのような暖気核が形成され、中心気圧がどこまで下がるかということを計算できるわけです。

重要なことは、水温が上がってエネルギーが供給されると同時に周囲も暖かくなりますので、この暖気核があまり目立たなくなるというところがポイントです。計算してみるとその結果を海面水温とどこまで気圧が下がるかということで整理してみると、まず現状気候でいろいろな場所、いろいろな季節で計算してみると、当然ながら水温が上がると気圧が下がって発達するわけですが、それが1℃で約30hPaと見積もられます。

温暖化した気候がこの延長線上にあると非常に大きな変化ということになるわけですが、幸いなことにそれとは違ったところに位置してきます。すなわちこの平均的なところだけにちょっと注目してみますと、今後30年間で予測される変化としては、水温の変化は0.7℃ぐらい、それに対応する気圧の変化は6hPaぐらいと私どもは見積もっています。これは中心気圧ですが、風速に換算すると毎秒約3mになり、これは過去の観測記録から検出するのはなかなか困難であろうという感じです。ただし潜在的には温暖化によって強度がじわじわと増しつつあることは確実であろうといえます。

いまのはある意味、理想的な場での計算でしたが、現状、台風がどこで発生して、どういう経路をたどるかということは、それこそいろいろなパターンがあって、より詳細な分析をするためには過去の観測記録を細かく見る必要があります。ここでは2004年7月下旬から9月上旬にかけての気象の変化を表しています。海面気圧とカラーで表した水蒸気量の変化を表しています。ときどき台風の経路がこのようなかたちで出てきます。台風の動きに合わせて非常に湿った空気が低緯度から中緯度のほうに運ばれて日本付近で大量の雨を降らせることがご覧いただけるかと思います。

これはご記憶の方もいらっしゃるかもしれませんが、2004年は日本に上陸した台風が10個に達する。そのうちのいくつかは東北地方にも影響を及ぼしましたが、そういった特異な年の状況を示しています。

これはその台風10号を取り出したものですが、この10号は四国に上陸して中国地方を縦断して、非常に多くの雨を降らせたという事例です。日本に近づいてくる台風は、多かれ少なかれかたちが崩れていて、その崩れ具合によって非常に強い雨が思わぬところで降る、あるいは竜巻を引き起こすということがいわれています。それをいま上空の風と合わせて見ているところです。いろいろな角度から分析して、その構造の変化、あるいは強度がどこまで維持されるか、将来の変化した熱環境でそれがどう影響するかということに注目して調べているところです。ちなみにこれは気象庁と共同で作成した「JRA25長期再解析データ」と呼ばれるものを使って分析した結果です。

以上少し長くなりましたが、台風の変化は、まず北緯30度から低緯度のあたりに関しては潜在的には強度の変化が起きている可能性がありますが、いまのところ観測データからきちんと検出できるレベルではない。日本にどのように影響するかということは、太平洋高気圧のふちを通るように移動してきますので、そのあたりの位置、強弱の予測が関係してきて、現在では定量的な予測は困難です。ただし、中緯度のあたりでも熱環境は大きく変化していますので、接近・上陸する台風への影響も懸念されます。

以上、大きく3点ご説明しましたが、地球温暖化の問題はいろいろな立場で、いろいろな疑問、あるいは誤解があることも事実です。温暖化の原因が本当にCO2なのかどうか疑う立場もあります。その中には太陽活動が関係しているのではないか、あるいは氷河期や間氷期のサイクルが重要なのではないかという話もあります。

さらには地球の温暖化がそもそも起きているのかどうかということにも疑問を投げかける場合もあります。ここではその詳しいことについては申し上げませんが、科学者の見解としてこれらの疑問・誤解に対して非常に丁寧に説明された文書がインタネット上で公開されていますので、このあたりをご参考にいただければと思います。

われわれ自身もこの地球温暖化に関する科学的知見の向上に努めており、報告書、あるいは論文の出版、IPCCへの引用というかたちで科学的知見に貢献しています。

丸山 このように温暖化が将来どうなるのか、どんなことが起こるのかといった大変恐ろしげな話は、もう皆さん耳だこかもしれません。一方、それではこういうことがわかったら、我々はどうしたらいいんだという質問、あるいは不満が皆さんにおありだろうと思います。もちろんこれは人間が賢くないという点が本質なのかもしれませんが、科学的な視点から見て、解決の道を紹介してみたいと思います。

それでは「第4章 科学から見た解決の途」を紹介いたします。まずビデオですが、これは私がグリーンランドに行って自分で撮影してきたものです。

(ビデオ上映)

第2章で詳しく紹介したように、仮に国連条約、これは京都議定書のもとになっているわけですが、その国連条約の目標である濃度安定化を達成できたとしても、気温等は高いままで温暖化を完全に防止することはできません。その結果としてグリーンランドの大規模な氷の塊、氷床と呼んでいますが、これが融解する危険性があります。

このビデオは本年6月に私が撮影したものです。この日はグリーンランドの気温は暖かく、めったにないようですが、雪ではなくて雨が降っていました。大変暖かかったというのが印象に残っています。

第1章で述べたように、AR4では気温上昇が現在から数千年間も継続するとグリーンランド氷床は完全に融けて海面上昇は約7mとなり、これは12万5000年前の間氷期に匹敵すると指摘しています。もっともこの数千年の間では化石燃料が完全に枯渇する、あるいは使い尽くすはずですから、気温上昇が数千年も続くかという点については当然異論もあります。しかしこの問題は、数百年の時間スケールの温暖化が数千年の時間スケールの現象のトリガーをひいてしまって、取り返しがつかなくなるかもしれないという科学的な懸念です。

もう少し詳しく説明します。この図はグリーンランドと世界遺産のイルリサット氷河です。先ほど言いましたように今年、2007年6月に北極圏視察団に参加してこの様子をじっくり見てきました。ここはヤコブスハウン・アイスフィヨルドと呼ばれる場所で、フィヨルドですが、氷がたくさん密集しているところです。イルリサット氷河の厚さは、2000〜3000mに達しますが、この厚い氷床がゆっくりと移動し、海に達したところで先端が割れて、たくさんの巨大な氷山がフィヨルドをゆっくりと移動しています。これはアイスフローと呼ばれています。日本ではまったくなじみのない現象だろうと思います。

京都議定書以降の温暖化防止の削減目標では、皆さんご存じのように、依然として議論が割れていて不透明ですが、科学的な観点からは、長期目標ではグリーンランド氷床融解などの危険な影響の回避がまず第一に重要です。

図に示した氷の流れ、氷床がスリップして海に達し先端が割れてできた氷山の流れですが、これが実際に撮影した写真です。このように氷山が密集状態になっています。これをアイスフローと呼びますが、IPCCが指摘するように、私も行ってわかったのですが、これは非常に複雑な現象です。フィヨルドの出口の水深が浅いので、流れ出た本当に巨大な氷山が座礁して、ワインの栓のようにアイスフローの流れを抑えています。温暖化でこのあたりの海水温が上昇し、この氷山が融け、栓が抜けると、アイスフローの速度が増加して海面上昇が急速に速まる。その結果として7mもの海面上昇が懸念されています。

また、IPCCの海面上昇の予測値を見るときには注意が必要です。つまりその中にはこの複雑なアイスフローの影響は予測できないので含まれていないという但し書きがありますので、注意してください。ちなみに、先ほどお見せしたビデオは私が船に乗ってこのあたりを撮影したものです。

では、今後の温暖化問題はどうすればよいのでしょうか。温暖化を簡単に生活習慣病にたとえてみます。私もちょっと太っていますが、肥満は、食事量が代謝量を上回っていることが原因です。したがって、やせるためには食事量を代謝量以下にすればよいわけですが、私も場合もそんなに簡単ではありません。

地球にはもともと森林や海洋などがCO2を吸収していますが、これが代謝量に相当します。現在、大気中の濃度が急激に増加していますが、これはCO2排出量を吸収量以下に削減すれば、この図のように大気中濃度が減少し、やせられて健康になるはずです。

もう少し説明してみましょう。この横軸は時間で縦軸は大気中の濃度を示していますが、体重に相当します。排出量を減らせば大気中濃度が低下することを模式的に説明してみます。排出量が吸収量を超えると、当然ですがこのように大気中濃度は増加します。たびたび触れましたが、国連条約では排出量を吸収量と等しくすることが目標です。しかしこの場合、グリーンの線ですが、このような条件では大気中濃度は一定になるだけで温暖化は防止できません。そこでさらに排出量を削減して吸収量以下にできれば、大気中濃度も低下するはずです。

こうした科学的な知見を踏まえて、今後の温暖化問題の基本的な考え方をまとめてみました。

国連条約第2条のように、CO2等の排出量を削減し、温室効果ガス濃度の安定化を目指すことが何よりもまず重要です。さらにそこで一休みせずに削減を継続し、排出量を地球の吸収量以下に抑制し、最終的にはゼロ排出世界を目指す。これによりグリーンランド氷床融解等の危険な影響を回避できる可能性があります。つまり大幅な削減、緩和ですが、これが温暖化問題の解決には当然のことながら不可欠です。

一方で、温室効果ガスの削減効果が現れるには、地球は非常に大きな物体ですので、100年以上もの長期間を有するため、不可避的な気候変化に対してその影響を軽減する適応策を講じることが重要です。

この図は日本のゼロ排出の構想を示したものです。時間の関係で詳しくは触れませんが、のちの第3部で詳しく紹介いたします。日本の優れたエネルギー技術、あるいはシステムをアジア諸国に普及できれば、2100年以降ではゼロ排出も夢ではないと思います。

さて、危険な影響を回避し、最終的に気候を回復する方法として、先ほど第2章で吉田のほうから紹介しました電中研の提案であるオーバーシュートシナリオの考え方を応用し、2150年にゼロ排出世界を達成するというコンセプトを紹介します。縦軸のCO2の排出量ですが、まず基準としてはこの赤い線のようにEUの削減政策を考えます。この例では2010年の排出量を基準として、2050年にその半減を仮定しています。驚くような削減量であることがわかります。ここでは私どもの政治的な中立性を維持するために、このEU削減政策が現実的かどうかについてはあえて触れないことにします。

次に第2章で紹介したように、これは低排出のB1シナリオですが、このB1シナリオの削減をここで一休みせずに、さらに削減を継続して2150年にゼロ排出を達成できるとします。これをゼロエミッション・コンセプトということにします。

この例では、2100年くらいから地球の吸収量を排出量が下回ることが期待できます。なおゼロエミッション・コンセプトは考え方ですので、当然この両者のシナリオの間にもさまざまな排出経路を考えることも可能です。

この図は、先ほどの二つの排出量から簡易モデルによってCO2の大気中濃度を概算した結果です。図の縦軸が大気中濃度です。EU削減ではCO2濃度がずっと増加して2035年にほぼ450ppmの値で安定化できます。またこれは見落としがちですが、等価CO2濃度では約550ppmとなります。皆さんも英国のスターンレポートをご存じかと思いますが、その安定化目標はこのEU安定化政策とほぼ同じです。

一方、B1+ゼロ排出シナリオでは大気中のCO2濃度は一度上昇しますが、その後ゆっくり低下して、2200年ごろには同じ450ppmの値にまで低下することがわかります。つまり、濃度安定化にはEU政策のような方法と違う経路があるということです。450ppmをオーバーシュートしながら、もう一度450ppmのところに戻るという方法があるということです。これがゼロエミッション・コンセプトのねらいです。

この二つのシナリオを入力条件にして、電中研の高速のスーパーコンピュータを用いて高度な予測モデルにより気温変化を予測しました。EU削減政策では、図の赤い線のように、実現できるかどうかは別にして、科学的には工業化以前からの気温上昇をほぼ2℃以下に抑えることが可能だと予測されます。一方、B1+ゼロ排出シナリオでは、2100年からゆっくり気温が下がってくるのがおわかりだろうと思います。気温は一度、2℃を超えますが、2100年から徐々に低下して、2200年ころには2℃を下回ることがわかります。

この二つのシナリオは、先ほど紹介したようにCO2の削減量には大変大きな違いがありますが、気温に関しては意外なほどその差が少ないことがおわかりだろうと思います。しかしいずれの場合にしても気温が高い状態が数百年以上も続きますので、この気候変化への影響を軽減するための適応策も同時に考えておくことが必要です。これについてはまた後ほど詳しく説明いたします。

この図は先ほどの電中研のゼロ排出の予測の結果から、グリーンランド地点の気温変化だけを抜き出したものです。同時に赤いカラーで氷床融解の閾値、4.5℃±0.9℃の範囲も示しています。EU削減政策では、確かにこのグリーンランド氷床融解の限界値を超えずに、このような気温で推移することがわかります。

一方、B1+ゼロ排出の場合、2100年以降閾値の中に一度突入しますが、次第にこの閾値を下回ることがわかります。グリーンランド氷床は非常に大きいものですから完全に融けるには数千年かかります。この程度の比較的短い期間の閾値オーバーであれば、おそらく氷床の完全融解を食い止めることができるかもしれません。一部の人たちは京都議定書以降の長期目標として、EUの2℃の代わりに3℃という単純な主張をする方もおられますが、もう少し科学的、かつ慎重に検討してほしいと思います。

ところでオーストラリア、つまり豪州のグレートバリアリーフなど、世界のサンゴ礁は1980年以降の海水温の上昇によって全体の約30%が影響を受けています。B1+ゼロ排出シナリオでは21世紀以降、気温がゆっくりと低下しますので、一度ダメージを受けたサンゴ礁でも回復が期待できるかもしれません。

またこの図は、豪州の研究者が大麦生産への温暖化の影響を検討したものです。これまでの研究ではCO2濃度が単純に増加したと仮定した場合、品種A、品種Bの大麦とも収量が増加すると予測されています。これはCO2の肥料効果と呼ばれており、農業ではよく使われる方法の一つだろうと思います。このためほんの数年前までは、温暖化によって食糧生産はむしろ増加すると考える研究者が多くいました。しかし最新の研究によるとCO2が増加をするだけでなく気温も上昇し、しかも降水量も減少するといった複合影響を考慮すると、大麦は50%近くもの大幅減収になると予測されるようになってきました。

この図は近年の豪州の降水量変化を示したもので、図のように現在でも豪州では干ばつが深刻で、さらに温暖化によって将来大幅な降水量減少が懸念されています。日本はこれとは違ってずいぶん恵まれていると私は思いますが、わが国では豪州からたくさんの農産物を輸入していますので、将来の温暖化による影響が大変心配です。サンゴ礁の白化現象の防止・回復、あるいは農業生産への影響の軽減といった点において、今回提案したゼロエミッション・コンセプトが有効かどうかについて、広大な大陸であり、一次生産比率が高い豪州の研究者と共同で研究を開始したところです。その結果については、いずれまた報告する予定です。

今後このように深刻化する温暖化問題に対して、電中研では本年7月、地球温暖化対応の総括プロジェクトを発足しました。このプロジェクトでは、IPCCの活動と合わせながら、3〜4年のPDCAサイクルを重視しています。つまりPlan & Doでは将来のいろいろなシナリオを検討して、それを実現するための必要な削減技術開発に取り組みます。Checkでは、予測モデル等を用いて削減効果の予測や影響評価を行います。さらにAction、ここが一番大事ですが、Actionでは不可避的な気候変化への適応策を検討する予定です。具体的には図のように人間・自然システムが温暖化によって変化した場合に備えて、社会・経済システムをどのようにうまく適応させていくか、という検討が重要になります。

この図のように、CO2削減コストが大きければ、将来の適応のためのコストは小さくなると期待されます。反対に削減コストが小さいと、将来の適応コストは大きくなると予測されます。

総括プロジェクトでは、削減と適応のベストバランスを検討して、最終的には不可避的な気候変化について社会全体の回復力の向上を目指しています。仮に気候変化によるダメージを受けても、すぐに回復する力を高めることがねらいです。たとえば東北地方では、米作やリンゴ栽培などの農業もさかんですが、温暖化のマイナス影響を心配するだけではなく、気温上昇を生かす農業のあり方などを検討することも重要になると思います。

温暖化対応総括プロジェクトでは、電中研の多くの研究所のポテンシャルを結集し、総合力を発揮する予定です。これにより社会や電気事業の温暖化問題、つまり緩和と適応のベストバランスの問題の解決に応えていく予定です。

最後に、第1部の内容をまとめます。IPCC、AR4により、温暖化予測の科学的信頼性は向上しました。電中研はオーバーシュートシナリオコンセプト等で、これに貢献することができました。また等価CO2濃度の550ppm程度での濃度安定化だけでは、グリーンランド氷床融解などの危険な影響の防止は不十分です。したがって最終的には、世界全体でゼロ排出を目指す必要があると思います。今後、深刻化する温暖化問題に対応するため、電中研では今年7月、総括プロジェクトを発足し、社会や電気事業のニーズに的確に応えていく予定です。

続いて第2部、第3部では、電気事業を取り巻く諸問題について報告いたします。長々とご清聴ありがとうございました。

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(財)電力中央研究所広報グループ