エネルギー未来技術フォーラム

 「地球環境とエネルギーセキュリティの両立を求めて ―温暖化とポスト京都への対応―」

第2部 特別講演(その2)

地球温暖化
 ―滅亡の原因は繁栄にあり!

科学ジャーナリスト 中村 正雄


皆さん、こんにちは。私はいまご紹介いただきましたように、もともと新聞記者で、第1部でお話があったような専門家ではありませんので、コーヒーブレークだと思って気楽にお聞きいただきたいと思います。

ゴアがノーベル賞をもらったりして、なかなか話題にはなりましたが、日本では、アメリカは温暖化にあまり熱心ではなかったというご意見の方が多いようです。私は1969年以来、ほとんど毎年アメリカに出かけて気象の研究所を回って記事を書いてまいりましたが、アメリカはこの分野においても日本で考えているよりはるかに奥の深い研究をし、センスを持ってきた国です。たとえば1970年にニクソン大統領のときに、環境保護庁と環境政策法をつくりました。世界で最初です。CO2の観測も世界に先駆けて3カ所に設けました。日本も三陸にCO2の観測所を設けましたが、これはニュージーランドよりも数年遅れています。別にニュージーランドをけなすわけではありませんが、国力から見るとニュージーランドよりは早くてもいいのではないかと私は思いました。

日本で温暖化について社会が関心を持ったのは、1988年6月ではないかと思います。この年は、アメリカでは4月から大干ばつ、ヨーロッパもそうでした。ヨーロッパではギリシャとマケドニア共和国の国境にあるドイラン湖という直径10kmの湖をめぐり、干ばつにより水争いが起きています。アメリカでも中西部を中心に4月末から大干ばつで、この年は小麦、トウモロコシ、大豆が平年のマイナス30%、ミシシッピ川がかなり干上がって、完全にではありませんが、水位が下がって、例のトム・ソーヤの船が行き来できなくなって日本に穀物を運んでくることが途絶えました。それで穀物の在庫が20日分に減ったことがあります。農林水産省はびっくりして、これが表に出たら大変だと大騒ぎになりました。だってニワトリや牛肉の業者がみんな1カ月分買い付けたら足りなくなるわけですから、大パニックが起きる心配があったのですが、幸いというか、われわれがサボっていたのか、知れずに済んだわけです。

この大干ばつの原因は何かということで、88年6月23日に米国上院・下院合同の天然資源とエネルギーに関する委員会にジェームズ・ハンセンというNASAの気象の研究所長が呼ばれて、原因は何だと聞かれ、いくつかあるけれども、そのうちの一つが地球の温暖化だ、これが有力かもしれないという話をしましたら、干ばつの犯人が見つかったということで、アメリカのメディアがワッと書いた。それを見て、日本のメディアもワッと書きました。

それからその1週間後にカナダのトロントで「チェンジング・アトモスフィア」という会議が開かれて、ここで2005年までにCO2の排出を20%減らそうというドラフトが配られました。これで役所も産業界も皆さんが飛び上がった。つまりCO2を減らすということは、産業活動を低下させるようなことになります。このときに35カ国から政府代表が出ていたのですが、日本政府代表は出ていなかった。つまり日本政府はこの問題について関心がなかったという感じでした。

私はアメリカの気象学会誌とか『サイエンス』とか『ネイチャー』などを読んでいると、ずいぶん前から、もう60年代からこの温暖化の問題が取り上げられていました。しかし日本では20〜30年前は『地球が冷える』という本がよく売れていました。こういう説を出したのはイギリスです。イギリスでは、その当時はいくらか気温が下がる傾向があったのですが、平均気温が2℃下がると穀物の生産が全然できない。そのときはどうするか。フランスと一緒になって海草を食べる。つまり日本は海草を食べている。だから小麦の代わりに海草を食べても生きていけるのではないかということで、海草の食料化にものすごく熱心だった。そういう影響を受けて日本でも根本順吉さんが『氷河期が来る』という本を書いてよく売れていました。

アメリカでは、そのころこの電中研にも関係の深いNCAR、National Center for Atmospheric Research、大気研究センター、それからプリンストン大学、カリフォルニア大学のロサンゼルス校の三つがこの温暖化の研究を非常にやっていて、もともと温暖化の研究ではなくて長期予報の実現性を図るために研究をしていた。長期予報といいますが、よく外れます。だいたい北半球でこのへんの緯度は3週間で気流が地球を一周します。ですから初期条件が1週間もしないうちに崩れてしまって、カオスの世界で、運動方程式に乗せることが非常に難しい。

したがって長期予報は当たらないわけですが、しかしアメリカはご承知のように冬、氷点下20℃、30℃と冷えるところがあります。そういう大寒波が来ると道路も凍ってしまいますし、もちろん学校も会社も氷のような冷たさの中に閉じ込められる。暖房が切れたら終わりですから、大寒波が来ることがわかればあらかじめいろいろなところに灯油を置いておかなければいけない。しかしそんなに冷えないのに灯油を置いたら、これまた経済的には大空振りになりますので、長期予報ができれば非常にいいということで、アメリカは長期予報に熱を入れていました。

そういう研究をする一方で、アメリカでは1968年ぐらいからWeather Modificationに関心が出ていました。Weather Modificationとは何かというと、人間の活動によって天候が変わるということです。ウェザーをモディファイする人間が、起こすことの一つは都市気候です。雨の降り方が変わる、風の吹き方が変わる。これはセントルイスで20年間、政府のメテオメックスというプロジェクトがあって、われわれ人間活動によって都市の気候がどれぐらい変わったかという実際的な研究をやりました。それからもう一つのModificationは、人工降雨とか台風の洋上撃滅とか、意図的に天候を変える。これはロシアが非常に熱心でしたが、そういう両面の研究で、ロシアとアメリカが非常に熱心でした。ロシアにはブディコというレーニン賞を受けた有名な気象学者がいたので、ぜひその人に会いたいと思ったのですが、なかなか会うことができませんでしたので、私はもっぱらアメリカにしか行きませんでした。

日本でもWeather Modificationを研究しようじゃないかという委員会ができて、気象の専門家が集まって、私もどういうわけか仲間に入れていただきました。そのときにアメリカ政府が“Weather Modification”という報告書をつくっているので、まずそれを読むべきだと私は言いましたら、とにかくだれ一人読んだ人がいなかった。「その報告書はどこにありますか、中村さん」と聞きますから、「気象庁の図書館にありますよ」と言ったら、気象庁の幹部もびっくりしていました。それぐらい日本の気象研究者は、あまり仕事熱心ではないなと感じました。

アメリカでそのころ関心を呼んだことの一つに、SST、Supersonicですが、これは英仏が共同開発して大西洋を越えてニューヨークに飛んできました。ニューヨークからさらにアメリカ大陸を横断して、ロサンゼルス、サンフランシスコに飛ばせるかどうか議論になりました。そのときにアメリカのマサチューセッツ工科大学の人たちが、いや、とにかく天候に対する影響がはっきりするまで飛ばすべきではないと言いだして、研究をしてみようということでした。

空というのは、晴れた日に下から上をご覧になると、真っ青な空が見えます。ですから透明のように思うのですが、そうではない。地上から1万3000mぐらい上空に対流圏と成層圏の境があります。そこに目には見えない膜がある。何で膜があることがわかったかというと、米ソが大気圏核実験をやって、大気の中に放射能がたまったのです。当然、雨が降って水の循環で下に落ちてくると思ったら、いつまでたっても落ちてこない。つまり成層圏と対流圏の間には境があるということがわかった。

SSTは飛ぶときに成層圏を飛びますから、成層圏を飛んだ場合に、特に排気ガスの中の水がたまると、これがいまでいう温暖化の原因になる。つまり水蒸気の量が5倍になると、今世紀末までに気温が2℃上がる。これは大変だということを言い出した人がいました。それでは本当かどうかやってみようということで、アメリカの運輸省は世界の1000人の気象学者に研究費を出して、3年間かけて研究をしました。

オゾン層がNOxで破壊して、これで穴が開いて240ナノミリの紫外線が地上に届いてがんが増える。今世紀末までに240万人の人が皮膚がんになるとか、そんな研究結果を出した人もありました。いろいろ大変になりましたが、結局、皮膚がんの可能性はほとんどないという結論が出たのですが、しかしSSTは飛びませんでした。それぐらい成層圏での光化学反応がアメリカでは非常に熱心に研究されました。

これをやったのはコロラド州のボールダーにあるEnvironmental Research Laboratoryですが、そこにヘッドクォーターがあって、各地の研究所でやりましたが、私が取材に行きましたら、ちょうど光化学反応の百元方程式を解くようなことをやっていました。ところが日本ではそのころ、東京の杉並の小学校で小学生が光化学スモッグで倒れたとか、東京の柳町で光化学スモッグが出たということが話題になっていて、光化学スモッグがいったい何ものかだれもわからなかった。横浜国大の加藤助教授、お一人だけが関心を持っていて、やっていることは中学生の実験みたいなことで、アメリカと日本と比べると大学教授と中学生ぐらいの差があると感じました。

そのぐらいアメリカのほうがはるかに前からいろいろなことに関心を持ってやっているということを申し上げたいわけですが、温暖化も含めてそういう気象の研究をする場合に一番重要なことは、大気と水の相互作用です。つまり地球は3分の2が水で覆われています。この海から水蒸気が蒸発して、先ほどの発表にもありましたが、大気に熱を運びます。大気と水の温度が違えば、大気は水に熱を与えますし、また与えても与えられなくても水は蒸発して、そのときに顕熱のほかに1gで600calの潜熱を奪って蒸発していって、上空は冷たいですから、そうするとそこで水蒸気が水か氷に変わるときに、1g、600calの潜熱を放出しますから、常に海から大気へ熱が供給されているわけです。

この供給量がどれぐらいか、水温が0.1℃上がるとどれぐらい変わってくるかということを調べなければいけない。計算ではできますが、計算どおりにいくかどうか。そこでアメリカのスクリップス海洋研究所は何をやったかというと、フリップという船をつくりました。細長い潜水艦のような、100m足らずの長さの船ですが、これを海の中にシュッと立てる。垂直に立って半分くらい水の中に浸かると少々波が高くてもこの船はびくともしない。これを使って海面からすれすれのところで水温がいくら、空気の温度がいくら、風向がいくら、湿度がいくらと1mごとに測る。それで風が吹くとまた蒸発が変わってきますから、風が吹くとそれがどれくらい変化するか。実際そういう船をつくって観測をしました。

私も乗りましたが、とにかく便所もベッドもキッチンも全部リバーシブルで、(笑)どちらでも通用するようにできているおもしろい船でした。船はあまり動き回るわけにはいきませんので、動き回って広い範囲を測定するのに、今度はエレクトラという四発のプロペラ機で、これは海面すれすれに飛びます。うっかりすると海の中に落ちかねないわけですが、すれすれにゆっくり飛んで、いまの大気と海の相互作用を測る。そんな機械をいろいろ発明して調査しました。そういう地道な現場での観測に基づいて、先ほどのような成果が出るわけです。日本は、アメリカがそんな苦労をしてやってくれた結果を利用して、カッコよくやっている。これでは日本がいい研究を出しても世界の最先端を走っていて、よくやったという尊敬はなかなか集められないのではないかと思います。

アメリカがそんなことをやっているときに日本はどういう研究をやっているかというと、たとえば東大に海洋研究所があって船を浮かべて太平洋の中の水温を測って回っている。2カ月ぐらいかかって、広い海面をあっちに行ったりこっちに行ったりしながら測るわけです。そして研究レポートを書くときには報告書を書く。何時何分何秒に全部一斉に測ったようにして温度分布の図を書く。(笑)その間に潮はこんなに入れ替わっているわけですから、漁師にいわせると大学の先生の話は全然役に立たない。それはそうです。そんなことをやって博士論文を書いて、博士も気の毒なことだと思います。以前は日本もそういう苦労をしたわけです。

マスコミはどうかといいますと、これがまた原子力の報道と同じように、もっと程度が悪い。このごろはテレビでも新聞でも10年近く前からキリバスなど南の島が沈没しそうだとか、いろいろなことを言っていますが、私が昔から入っていた太平洋学会というところでは、南の島の人たちといつも交流しています。20年以上前から彼らは温暖化のことを心配していました。

温暖化で沈没する前にも、温暖化して海面が上昇すると、たとえば30cm上昇すると、その3倍の高い波が来るようになる。ですから波が高いということは、それだけ削る力が強くなりますから、海岸の浸食が進みます。浸食されたあとに穴ができ、塩水が入って、まず井戸水が飲めなくなるのですが、そういうことをずっと前から訴えていました。

だから私は原稿や社説を書いたことがありますが、そんなことを書く人が日本にはほかに全然いなかった。NHKも朝日新聞も何も取材なんかしない。日本政府も何もしない。ただオーストラリアはそういう島でいろいろな観測をやり、いざというときには自分の国が引き取る。何しろ世界で34カ国、2000万人の人が温暖化によって島が沈没する、水が飲めなくなってボートピープルになる可能性があるわけです。マーシャル諸島のマジェロという島は、アメリカ政府が海水の淡水化装置を提供したりしていました。日本は利害関係のない島には何もしないということです。エコノミック・アニマルとはよく言ったなと思います。マスコミもそうです。

人類の歴史を考えてみると、環境破壊の歴史ではないかと思います。昔は燃料というと木を切るしかないわけですから、木をどんどん切った。再生能力の範囲内で木を切って薪にすればいいのですが、やはり人間が増えてくると切り過ぎる。アフリカなどでは根っこまで掘って燃やしてしまう。そうすると森は再生能力を失って、あとは砂漠になる。ギリシャ、ローマ、地中海文明のあとは真っ白くなっています。あのへんはだいたい石灰岩で、もともと白いのですが、しかしやはり文明が長いところは白い。中国は赤い。みんな砂漠になっています。

昔、フェニキアはレバノン杉というスギの産地だったと書物に書いてありますが、フェニキアは有名な商人国で、貿易のために船をつくってレバノン杉は切り倒して、ついに絶滅したといわれています。私たちはそういう歴史の中で生きてきたわけです。これからいったいどういうふうにすればいいか。

一番いいのは、やはり物価を10倍ぐらい上げて、みんなものを買えなくしてしまえば、環境問題は一気に解決するのではないかと思いますが、それはこんなにものがあふれかえっているときに物価を上げるなんてできません。それでは給料を下げればいい。給料を10分の1に下げると、社長さんもおいでになりますが、非常に経営も楽になって、われわれは何も買うことができませんからゴミは出ない。これもいいのですが、それは両方ともできない。何党が政権をとっても、こんなことを言ったのではすぐにつぶれてしまう。小沢一郎以上にひどい目に遭います。(笑)

できることは、私は人口が減ることだと思います。人口が減ればやはり使う物質やエネルギーも減るわけですから、環境にはいい効果が出ると思います。ところが日本は何をやっているかというと、少子化対策、つまり人口が減るのを食い止めようというわけです。専門家も政府もみんな人口が減らないようにしようとしている。だけど日本は狭いところにたくさんいる。

中国は13億いて、中国がエネルギーをジャンジャン使うようになったら、みんなが車を持つようになったら大変だとよくおっしゃいますが、中国は、人口は日本の10倍ですが、面積は25倍です。日本は中国の2.5倍の人口密度がある。ですから中国は人間が多すぎて大変だといいますが、向こうの人にいわせれば、日本人は本当に人間が多くて大変だ、あれが環境を破壊するのだと言うかもしれません。ですから私は日本の人口が減ることは大事なことだ、むしろ少子化傾向が出たことは神の配慮ではないかという気がします。しかしこれは神様の思し召しですから、上げるにしろ、下げるにしろ、なかなか難しいことです。

もう一つ何をしたらいいかというと、やはりスピードの見直しということがあるかと思います。1日はどんなに優秀な人でも24時間しかありません。どんなに努力しても1人24時間より増えない。そこで人類は何を考えたかというと、スピードを上げることです。大阪まで1泊2日の出張だったのが、軽く日帰りができるようになってきた。そういうふうにスピードを上げる。それにコンピューターとかエネルギーとかいろいろなものが役に立っているわけですが、スピードを上げることによって生産力を増やす。それ以外にないわけです。ですからガンガン、ガンガン、スピードが上がっています。そのためにわれわれは精神的に非常に疲れて、自殺者が出るなど、いろいろなことが起きていますが、このスピードが上がるということはいいことかどうか。

たとえば昔の汽車は、窓からいろいろな景色を見ることができて旅行は楽しかった。ところが新幹線ができると、何も見えない。飛行機に乗るとなお見えない。ですから速いということは必ずしもいいことではないと思います。私は新聞記者でしたので、どこかに行くとそのへんを見て回ったのですが、車で回ったのではだめです。タクシーで回ったりすると何も頭に残らない。やはり歩くと、あそこにああいう人がいた、地べたに座って何か食べているけれどもあの人の表情は非常に豊かだなとか、いろいろなことがわかってきます。あそこのめし屋はうまそうだとか、しかも安そうだとか、そんなことは車で回ったのではわからない。ですからゆっくり回ることが非常に重要ではないかと思います。

今日の読売新聞の朝刊に出ていましたが、パソコンで文章を書くと非常に速くて、楽ですが、ペンで書くほうがよほど頭の働きは活発になるということを脳科学者の東北大学の川島教授が実験で確かめたということが出ていました。実験で確かめたわけですから間違いないでしょう。同じ字を書くのでも、ペンでゆっくり書くほうが頭の働きがずいぶん活発なのだそうです。やはりゆっくりというのは意味のあることだと改めて思ったわけですが、しかしゆっくり社会にいまから戻ることはなかなか難しいことではないかと思います。

そこでどうすればいいかというと、やはり歴史を振り返って、歴史に学ぶということが大事ではないかと思います。いまから5000年前に、いま戦場になっているイラクにシュメール文明が生まれました。シュメール文明はどうやって生まれたかというと、アメリカで当時の降雨量を調べてみたのですが、0〜200mmぐらいで、非常に雨が少ない地域だった。

しかし山に雨が降りますからチグリス川とユーフラテス川には水が流れていて、その水を使って灌漑をつくった。太陽はいっぱい、土地はいっぱい、それに水をかけると作物がたくさん穫れた。穫れ過ぎて人間の力では運べない。そこで荷車を発明した。食べ物が増えると人間の数が増えてきますので、秩序がいる。秩序を維持するためにはやはり役所をつくらなければいけない。役所を維持するためには税金をとらなければいけない。そのためには文字がいる。ということでくさび形文字が発明され、また今日台所で使われているようないろいろなものが発明されました。自動的に種を一定間隔にまくような機械まで発明したそうです。

そのシュメール文明は右肩上がりでずっと成長していったわけですが、ある日大麦が枯れだした。なぜかというと、太陽がいっぱいの土に水をジャンジャンまきますと川の中に含まれている塩分、これはNaClではありません。炭酸カルシウムとか炭酸マグネシウムとかいろいろな塩分が川の水には溶けていますが、水が蒸発してその塩分が土の中にどんどんたまってくる。塩分がたまると土は水を離すまいとする力が強くなる。

一方植物は、浸透圧で水を上げるわけですが、植物が水を上げる力と土が水を離すまいとする力がバランスした点で、まず大麦が枯れ、次いで小麦が枯れ、野菜が枯れて、みんな枯れて食糧がなくなって、お互いに殺し合いをやって、3500年前にみんな死んで砂漠しか残っていない。それをサダム・フセインが復興したということなのでしょうけれども、結局、灌漑をつくって繁栄をしたことが滅亡の原因になった。

その点からいくと、日本の水田はすごいなと思います。延々と2000年を超えて、なおかつ日本の食糧を支えています。これは塩分をみんな流してくれるからです。ですから日本はすばらしい国だと思います。

アラル海は湖のような池です。ここにはアムダリア、シルダリアという天山山脈の水を集めて二つの大河が流れ込んでいますが、これがいまから100年くらい前にロシアがこの水を利用してコットンの栽培を始めました。コットンは即ドルになるので、ゴールドの植物だといわれてみんな非常に熱心に栽培しました。そのために何が起こったかというと、アラル海に流れ込む水が減りました。小学校で使う地図をご覧になっても、その灌漑は出ているぐらい非常に大掛かりなものです。

アラル海に流れ込む水が減ったために、アラル海では水が濃縮されて、魚が棲めなくなって、そこで漁をしていた人たちは全部だめで、その漁船が墓標のように並んでいる写真が新聞に出たこともあります。水が干上がって、いろいろな肥料とか農薬が流れ込んで濃縮されて、それが風によって吹き飛ばされて、周辺の農地に飛散して、それがまた害を及ぼしているということです。私はアラル海には行ったことがありませんが、行ってきたうちの後輩がそういう話をしていました。これもやはりアラル海に流れ込む水を利用して、非常に収益性の高い農業をしたために、アラル海の周辺はマイナスを受けたわけです。これも繁栄が滅亡の原因になりかねないという一例です。

いままさに地球規模で起きているのが温暖化による問題だと思います。温暖化が起こるとどういうことになるか。先ほどの説明にもありましたが、やはり雨の降り方が非常にむらになる。降るところは降りすぎる。降らないところは降らない。そうなると人間の水の利用効率は非常に悪くなってきます。

アメリカの研究者のすごいところは、たとえば大気中にほこりがある。このほこりはどのぐらい地球の気候に影響するか。ほこりは昔から火山が爆発すると太陽をさえぎって冷害のもとになるといわれていますが、いまは工場の煙がその太陽の光線をさえぎって、それで地球を冷やすと主張した学者もいます。これを“Human Volcano”とアメリカの学者は名づけていました。人間による火山と同じ太陽をさえぎる冷却効果だというわけです。

ではそういう細かなほこりは全部太陽をさえぎるだけか。そんなことはない。ワイクマンという研究者によれば、丸いほこりと角張ったほこりでは効果がまるで逆だといいます。それからそういうほこりは陸の上にあるのと海の上にあるので、また効果が全然違う。そういう研究もやっていました。

その結果、温暖化はなかなか結論が難しかったのですが、プリンストン大学の真鍋さんは早くから温暖化だと言っていましたし、NCARには笠原さんという日本人もいましたが、オレオ・ワシントンというすごい研究者がいて、この人は70年代の初めから精力的に大気大循環の研究をやっていましたが、観測誤差を計算に入れて計算してみると、温暖化しているはずのこの地球が、観測誤差を少し入れただけで温暖化と同じ効果が出てくる。したがって、温暖化とは必ずしも言いにくいということで、非常に慎重でした。いろいろな研究者がいました。しかし今日ではほとんどの研究者が地球の温暖化は間違いないとおっしゃるようになってきました。

この温暖化は、私は繁栄が生んだものだと思います。この調子で人類がどんどん、どんどん繁栄を続けていくとどうなるか。ダーッと経済成長を続けて上昇一方だとどこかでパンクするだろうと私は思います。もし人類がこれから100年、200年、500年、1000年と長続きをするものであれば、どこかでやはり下降しなければおかしいし、続かないと思います。だから人類が続くためには上がるだけではなくて、下降ということも必要条件ではないかと思います。

ですからいまの温暖化がこのまま続くと、やはり人類を滅亡させる方向に働く。だから少しブレーキをかけなければいけない。そのためには経済が下降するのもやむをえないというのが神様の配慮かなという気もします。しかし経済を下降させるというのは、私たちが失業したり社会保障費が減ったり、いろいろと非常に不便なことですので、それを積極的にやることは到底難しい。それにだれしもいまの豊かな暮らしが下がるということはいやですから、豊かな暮らしを続けながら、しかも環境と両立するためにはどうすればいいかということを考えなければいけないと思います。

原子力を反対してきたグリーンピースの親玉のパトリック・ムーアが経済と環境の両立には原子力発電しかないと言うような世の中になってきました。ですから世界的に原子力は進むだろうとは思いますけれども、しかし原子力だけやってもなかなかそうはいかないと私は思います。われわれは日常のビヘイビアがもうちょっと変わる必要がある。そのためにはどうするか。そのいい答えを出さなければいけない。つまり人類がバカかどうかが試される時期が来ているのではないかと思います。

私はニューヨーク・フィルハーモニーとかウィーン・フィルハーモニーとか、ああいう存在をこれから増やしていくべきではないかと思います。すなわちニューヨーク・フィルにしても初めから利益を目的にしているわけではない。演奏している人は非常に演奏が好きなのです。うれしく働いているし、いやいや働いて金をもうけているわけでは全然ない。それからお金を払って聴く人も、ニコニコしながら非常にいい気持ちになって聴いている。やっている人も聴いている人も両方が気持ちがいいわけです。私はこういうことはこれから大いに増やしていくべきだ、これを第四次産業と名づけたらどうかと思います。

電力中央研究所のような研究は、まさにこの第四次産業ではないかと思います。結果的にもうかるようなことも出ますが、しかしもうけるためにぎすぎすやっているわけではない。そういう研究をすることが非常に好きで、喜びを感じてやっていらっしゃる。周りの人も大いに研究をしてほしいと思って支援をしている。

音楽だけではなくて、たとえば日本には茶の湯があります。秀吉のころに非常に盛んになりましたが、この茶の湯の世界はつまらない湯呑みが一つの国と交換をするぐらい値打ちが出たり、大名の首が飛ぶような存在であったりするわけですが、このお茶をたしなむためには茶室が要ります。茶室はやはり凝った建築をしたがります。部屋が立派だけではなくて、そこに掛け軸があって、掛け軸に何か書いてあることを主人がお客様に説明をしなければいけない。教養がないと説明ができないので勉強しなければいけない。それから茶室の周りにきれいな庭を設ける。お金のある人はそういうことにいくらでもお金をかける。お金のない人は、ススキがボウボウ生えているところでやっても、これもまた風流なわけですから、金があるなしにかかわらず非常にたしなみができます。

これはやはり経済を維持することにも役に立っている。10円か20円の茶碗が、何百万円にも化けるわけですから。絵も同じことです。演劇でも、小説もそれに近いかもしれません。そういうふうな産業、その代表的な例が研究ということではないかと思います。ですから私はこれから研究という第四次産業は、大いに発展をさせなければいけない。研究のトップを切っているのがこの電力中央研究所で、電力中央研究所だけが張り切ってもだめで、ここにおいでになるような皆様方がニューヨーク・フィルやウィーン・フィルの切符を買ってくださるのと同じように支えて下さることが重要です。

本日は大変ありがとうございました。これで失礼させていただきます。(拍手)


(財)電力中央研究所広報グループ