EEトレンドウォッチ

PDF版

第29回 地球温暖化を考える(9) 地球温暖化と台風

大気・海洋環境領域
研究参事
筒井 純一

2020年7月3日

 

 地球温暖化によって、猛暑や大雨が激しく頻繁に起こることが懸念されている。当欄でも温暖化で雨の降り方が極端化することを説明し、気候レジリエンス(resilience=弾力性、復元力)に触れた(第19回、2018年9月)。気候レジリエンスとは、長期的に低炭素社会に向かう変革の中で、極端な気象に対処する社会・経済・環境システムの受容力を高めるという考え方である。現在においては、新型コロナに伴う社会変革もこの前提に加わるかもしれない。少なくとも今年は感染症と自然災害という複合リスクが高まっているわけであり、気候レジリエンスの向上は喫緊の課題でもある。

 これに関連して、最近、エネルギーインフラの面から関心を引く動きが二つあった。一つは2020年6月にエネルギー供給強靱化法が成立したことである。この法律にはいくつかの目的があるが、最近の激甚災害(2018年の台風第21・24号、北海道胆振東部地震、2019年の台風第15・19号など)が背景にあり、広い目で気候レジリエンスの向上に通じる。もう一つは2020年3月に産業構造審議会(経産相の諮問機関)の小委員会で送電鉄塔の健全性調査の進捗が報告されたことである。こちらは2019年の台風第15号による鉄塔被害に対応するものである。調査の結果、現行の設計基準(風速40 m/s)を超える風速が確認された一部の鉄塔に対し、必要な対策が講じられることになった。

 二つの案件は極端事象の代表格とも言える台風に関係する。どちらも温暖化への言及はないが、極端事象がより激しくなる傾向が台風にも当てはまるとすれば、2018–2019年の事象が温暖化の影響を受けたものかもしれないし、今後も同様の災害が頻発することも懸念される。現在の極端事象に備えるレジリエンス関連の取り組みは、進行しつつある温暖化への適応にもつながるという視点も加えておきたい。

 ただし、温暖化と台風の関係は大変難しい。現状の理解は日本の専門家による文献1)にまとめられており、ここでは表1に要点を示す。要約すると、これまでの観測に温暖化との関係を明確に見出すことはできず、将来の変化については限定的な見通しに留まるとなる。限定的な見通しと書いたのは、地球全体で台風等の熱帯低気圧の発生頻度が減る一方で、最大風速と降雨量は増加する可能性が高いが、地域別の予測の確信度は低い、といったことを受けている。頻度が減って強度が増すというのは興味深いが、対策の前提としては使いにくい。しかも地域別予測の確信度が低いとなると、対策を講じるのが躊躇されるだろう。

 難しい理由はいろいろ挙げられると思うが、基本的には、台風がそれほど頻繁に生じるものではなく、その活動が自然の変動に大きく左右されるということに尽きる。世界全体では台風に類する熱帯低気圧が年間で90近く発生するが、西部北太平洋で発生する台風はその1/3程度になり、そのうちの一部が日本に接近・上陸する。日本に顕著な災害をもたらすものは、さらにその一部となる。関心の高い顕著事象は稀にしか起こらず、稀であるために長期的な傾向を検出するのが難しくなる。人為的な温暖化による変化をシグナル(S)、自然の諸々の変動をノイズ(N)とすれば、低頻度高インパクトの事象ほどS/N比が低くなるとも言える。

 また、台風の変化といっても、発生数、通過頻度、移動経路、移動速度、中心気圧、最大風速、積算雨量、ピーク雨量といった多くの要素があり、これらの地域別の違いや季節変化の側面もある。日本への影響という点では、これらの要素が日本に接近・上陸する台風でどうなるかが関心となる。レジリエンス向上の取り組みでは、このようなきめ細かい情報が地域規模で必要となる。しかし、観測情報は期間と品質が限られ、気候シミュレーションは現状でニーズに見合うほどの精度はない。

 このような科学的知見と現場ニーズとのギャップにどのように対処すべきだろうか。

 ギャップを埋める研究は粛々と続けるとして、筆者としては、もう一つ、双方の問題認識を共有して最善の方策を検討する活動を意識的に進める必要性を感じている。これに資すると思われる台風関連の論文2,3)が米国気象学会のジャーナルに発表されたので、ここで紹介しておきたい。

 この論文は、台風やハリケーンなどの熱帯低気圧と温暖化の関係について、専門家11名の見解をまとめたものである。この中で特に注目されることは、従来型の見解に加えて、リスク評価向けの見解を示していることである。台風に限らず、観測事実に自然変動と区別される形で長期的な変化が検出され、それが人為的な温暖化に起因するかどうかを、科学者は様々な証拠に基づいて慎重に判断する。従来型の見解というのはこのような慎重な判断に基づくもので、過大評価(統計学では第一種過誤)を避けることが主眼となる。一方でリスク評価向けというのは、見落し(統計学では第二種過誤)を避けることが主眼となり、従来型と比べて弱い証拠に基づく判断となる。

 一つ例を挙げる。論文では、台風の最大強度に達する場所が高緯度側にシフトする可能性をとりあげている。日本にとってはリスクが高くなる変化である。これについて、従来型の慎重な評価では多数の専門家が確信度が低いとし、リスク評価向けの弱い証拠では11名全員が検出可能とし、人為的な変化という判断も9名がくだしている。つまり、データの品質や量の制約があって変化の検出と原因特定を明確にできないが、専門家の大半はそのような変化があり得ると見ているのである。

 先に示した日本の専門家によるレポートも、一見すると温暖化と台風の関係は良く分からないとなるが、これも従来型の評価ではその程度にしか言及できないことによる。その一方で、レポートではいくつかの研究を紹介して、日本に来襲する台風の強度が増す可能性も示唆している。これらはリスク評価向けの情報と言えるかもしれない。

 このような専門家の「肌感覚」とも言えるような情報を非専門家が共有して、現場の問題に応用することは難しい。新型コロナに関する専門家の説明でも、明確に言えることだけでなく、明確にできないまでも適切な理解の下で広く共有すべき知見があるのかもしれない。どうすればこの状況を改善していけるか、当欄を通じてさらに考えていきたい。

参考文献

  • 1) 環境省・文部科学省・農林水産省・国土交通省・気象庁(2018)気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018 −日本の気候変動とその影響−
    https://www.env.go.jp/press/105129.html
  • 2) Knutson, et al. (2019) Tropical Cyclones and Climate Change Assessment: Part I: Detection and Attribution, Bulletin of the American Meteorological Society, 100, 1987-2007. https://doi.org/10.1175/BAMS-D-18-0189.1
  • 3) Knutson, et al. (2019) Tropical Cyclones and Climate Change Assessment: Part II: Projected Response to Anthropogenic Warming, Bulletin of the American Meteorological Society, 101, E303-E322. https://doi.org/10.1175/BAMS-D-18-0194.1

表1 観測と将来予測に見出される台風の変化傾向(文献1に基づく)

観測事実 世界 熱帯低気圧の活動度の長期変化(百年規模)は確信度が低い1970年代以降の期間については、北大西洋における頻度と強度が増加していることはほぼ確実
西部北太平洋、日本 発生数は1951–2016年の統計期間では長期変化傾向は見られない
最大風速33 m/s以上の強い台風の発生数は、1977–2016年の統計期間では変化傾向は見られない
将来予測 世界 地球全体での熱帯低気圧の発生頻度は減少、または基本的に変わらない可能性が高い
地球全体で平均した熱帯低気圧の最大風速および降雨量は増加する可能性が高い
地域によって異なる可能性が高いが、地域別予測の確信度は低い
西部北太平洋、日本 発生数は全般的に減少
最多発生域が現在のフィリピン近海から東方に移り、日本に接近する台風は減少・経路が変化する傾向
通過頻度は強度によらず減少傾向(不確実性小さくない)

©2020 電力中央研究所

トレンドウォッチトップへ戻る