原子力技術研究所 放射線安全研究センター

HOME > 電中研報告(生物影響) > 放射線ホルミシス効果検証プロジェクト

放射線ホルミシス効果検証プロジェクト

本ページは、1990年代から2000年代前半にかけて、放射線ホルミシス効果の検証を目的として実施したプロジェクトの概要を紹介しております。ただし、現在のホルミシス効果に対する当所の見解は「放射線ホルミシス効果に関する当センターの見解」の通りであり、ホルミシス効果を人に対する低線量放射線の影響として一般化し、放射線リスクの評価に取り入れることは難しいと考えております。

低線量放射線研究センターが設立される前の1993年から、東北大学、東京大学、東邦大学、京都大学など14の研究機関の参加を得て、放射線ホルミシス効果を検証するプロジェクトを実施しました。

放射線ホルミシス効果検証プロジェクトの立上げ

その後、外部の大学医学部。薬学部などに赴き、当所のこれまでの研究結果を説明し、放射線ホルミシス効果を検証するプロジェクトへの参加を呼びかけた。

1993年には、東北大学、東京大学、東邦大学、京都大学など、14の研究機関の参加を得て、

(1)老化抑制効果
(2)がん抑制効果
(3)生体防御機構の活性化
(4)遺伝子損傷修復機構の活性化
(5)原爆被災者の疾学調査

の5つのカテゴリーに、合わせて17の研究課題が設定され、4年間のスケジュールで放射線ホルミシス効果を検証するプロジェクトが開始された。

このプロジェクトにおいて、当所は、

(1)SODの活性化によって余分な活性酸素が消去されるならば、それは「老化抑制」に
(2)リンパ球(T細胞)の活性化が生じるならば、それは生体の免疫力を高めて「がん抑制」に

それぞれつながるとの予測をたて、これらを検証する研究を提案・実施することにした。

放射線ホルミシス効果検証プロジェクトの概要

このページのTOPへ

老化抑制効果(その1)細胞機能の活性化

活性酸素は老化と深い係わりをもつ。生物はこの活性酸素の影響を受けて、細胞膜の過酸化脂質量を増やし、加齢とともに細胞膜の流動性を低下させ、細胞膜の柔軟性を徐々に失いながら老いていくと言われている。

このような老化の現象が、低線量照射によってわずかでも抑制されるのかどうか調べるため、いろいろな週齢(生まれてから経過した週を意味する)の健常なラットに、低線量照射した時、

(1)過酸化脂質量
(2)膜の流動性
(3)活性酸素の消滅する酵素(SOD)の量

のそれぞれが、どのように変化するか実測してみた。

その結果、生まれてから7週間目の若いラット(7週齢)に対して、65週間目(65週齢:人間でいえば約50〜60歳に相当)のラットは、

(1)過酸化脂質量は大
(2)膜流動性は低
(3)SOD量は小

の関係にあることが確認された。

しかし、65週齢のラットに、約50センチグレイの低線量放射線を照射すると、上記の(1)〜(3)の特性は有意に改善され、若いラットの値に近づくことがわかった。

低線量照射によるラット大脳皮質細胞の改善効果の事例

このページのTOPへ

老化抑制効果(その2)糖尿症状の発症抑制

活性酸素の影響を受けて起こる病気は「活性酸素病」と呼ばれている。低線量照射によって酵素(SOD)が増えることから、低線量照射が活性酸素病を抑制する可能性を期待できる。

活性酸素病の一つに糖尿病がある。ここでは糖尿病に注目し、低線量照射がその発症を抑制するかどうか調べてみた。

実験には健常なラットを用い、これに特殊な物質(アロキサン)を投与して糖尿病を生じさせる手法を使い、低線量の放射線を照射したラットと非照射のラットの血糖値を分析・比較することで、低線量照射が糖尿病の発症を抑制するのかどうか調べてみた。

その結果は期待通りであった。ラットのアロキサンを投与する前に、約50センチグレイの放射線を照射しておくと、血糖値は健常なラットに近い状態を維持して糖尿症状の発現が抑制された。

低線量照射による血糖値の上昇抑制効果の事例

このページのTOPへ

がん転移と腫瘍増殖肥大の抑制効果

低線量の放射線によってリンパ球(T細胞)が活性化することは既に述べたとおりである。このリンパ球の活性化によって免疫機能が昂進し、外部からの病原菌、あるいは体内の異物(がんなど)を排除する力が高まる可能性が期待される。

本プロジェクトにおいては、がん転移と腫瘍の増殖肥大に注目し、これらが低線量の放射線によって抑制されるかどうか調べてみた。

実験には健常なマウスを用い、

(1)扁平上皮がん由来の腫瘍細胞を大腿部皮下に移植して肺に転移する状況(東北大学との共同研究により実施)
(2)乳がん由来の腫瘍細胞を大腿部皮下に移植して腫瘍が増殖肥大する状況(産業医大により実施)

を分析・評価した。
その結果、

(1)がん転移については、15センチグレイの低線量照射を一回行うことで、がん転移率が約40%下がる
(2)腫瘍の増殖肥大については、1回当たり4センチグレイの低線量照射を週3回、4週間にわたって行うことで、腫瘍の増殖肥大が有意に抑制される

ことがわかった。
がん転移と腫瘍増殖肥大の抑制効果

このページのTOPへ

低線量放射線の全身照射によるがん治療へのアプローチ

放射線を使ったがん治療といえば、通常、約6000センチグレイの高線量放射線を、30回に分けて患部に局所照射し、がん細胞を殺す方法がこれにあたる。

東北大学医学部では、この局所照射の方法に加えて、10センチグレイの低線量放射線を週3回の割合で全身に照射し、これを5週間にわたり継続して行う方法を併用する新たな試みを行った。治療は、局所腫瘍が発見された時点で、すでに他所に転移している可能性の大きい悪性リンパ腫を対象とし、他の治療法が試行されていない患者について行われたそうだ。これまでに30例を越える症例の治療が行われており、高線量の局所照射を単独に行う場合に比べて、治癒率が有意に向上したと報告されている。

低線量放射線の全身照射によるがん治療の試み

このページのTOPへ

放射線ホルミシス効果のその他事例

当所が中心となって推進してきた「放射線ホルミシス効果検証プロジェクト」では、生体を構成する「分子レベル」において、

(1)抗酸化系酵素活性
(2)タンパク誘導合成
(3)細胞情報伝達系の関与

さらに「個体レベル」においては、

(1)制がん・抗がん作用
(2)活性酸素病に対する効果
(3)放射線抵抗性の獲得
(4)中枢神経系への刺激作用
(5)ヒトの疫学的効果

というように、実に多くの放射線ホルミシス効果を見つけることに成功した。
これまでに検証された放射線ホルミシス効果の事例

このページのTOPへ

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry