社会経済研究所

社会経済研究所 コラム

PDF版 2022年5月2日

食行動変容(1)

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 木村 宰

 食システムから排出される温室効果ガス排出量は、世界の温室効果ガス総排出量の約3分の1に及ぶ。カーボンニュートラル達成のためには、エネルギーシステムだけでなく食システムの脱炭素化が不可欠である。その手段として、生産側だけでなく消費側、すなわち消費者の行動変容への注目が世界的に高まっている。本連載の第4回・第5回では、このような食の脱炭素化に向けた行動変容に関する電力中央研究所での取り組みを紹介する。

 最近、代替肉や培養肉に関するニュースを目にすることが増えた。ベジタリアン食の取扱いを始めた小売業者や飲食店も増えているようだ。このような動きの背景には、畜産物をはじめとする食料生産の環境負荷への認識の高まりがある。

 70億人を超える世界人口を支える食の生産・消費活動は、土地利用や水消費、生物多様性などさまざまな側面で大きな環境負荷を生み出している。なかでも食に起因する温室効果ガス排出量が大きいことは、エネルギー業界関係者にとっては意外かも知れない。

 確かに、世界の温室効果ガス排出量の7〜8割は化石燃料消費に起因するCO2であり、農業部門排出量は1割程度に過ぎない。しかし、世界では農地拡大のため主に熱帯地域での森林伐採が大規模に進行しており、そういった土地利用改変による排出量は大きい。さらに、食料の加工や輸送、調理、廃棄に伴う排出量も含めると、食のサプライチェーンに起因する排出量は全体の3分の1を占めることになる(図1)。

 食に起因する温室効果ガスのうち大部分は、家畜からのメタンなどエネルギー起源CO2以外のガスである。このため省エネ・再エネなどエネルギーの脱炭素化だけでは大きな削減は期待できず、食の脱炭素化のための対策が別に必要となる。

 食システムの脱炭素化の対策として重要なのは、まずは生産側の対策である。品種改良や集約化による資源効率化など、いわゆる農業部門での対策である。加えて重要となるのが消費側の対策、すなわち食行動変容である。具体的には、食品ロスの削減、食べ過ぎの抑制、カーボンフットプリントが大きい動物性食品の消費削減とそれが小さい植物性食品へのシフト(菜食化)である。

 食行動変容による脱炭素化のポテンシャルは大きい。英オクスフォード大学のスプリングマンらが2050年における農業部門の温室効果ガス排出量の削減可能性を分析したところ、食品ロス削減や生産側の技術革新による削減は重要であるものの、量としては限定的であり、「食行動変容」による削減余地が非常に大きかった(図2)。ここでの「食行動変容」とは、各国政府や世界保健機関(WHO)が推奨する食事ガイドラインに沿った食事の摂取と、肉や乳製品の大幅な消費削減(菜食化)である。

 このような行動変容が容易でないことは明らかである。食は多くの人にとって楽しみであり、嗜好や習慣といった要素が影響するので、簡単には変えられない。しかし、カーボンニュートラルという極めて野心的な目標を掲げた以上、ライフスタイルの大幅な変革に向き合うことは不可避であり、食行動の変容もまた不可欠になると思われる。それはエネルギー分野など他分野における極端な削減対策の必要性を減ずることにもなる。

 次回はこのような課題に対する筆者らの取り組みを紹介する。

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