社会経済研究所

社会経済研究所 コラム

PDF版 2022年5月9日

食行動変容(2)

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 木村 宰

 カーボンニュートラルのためには、エネルギーシステムだけでなく食システムの脱炭素化が必要である。そのためには生産側の対策だけでなく、消費側の対策、すなわち食行動変容が不可欠とされる。脱炭素のために食行動を変えるというのは簡単ではないが、世界的にベジタリアン食・ビーガン食への関心は高まっており、代替肉を利用する人も増えるなど機運は高まっている。今回は、食行動変容についての電力中央研究所での研究を取り上げる。

 食の脱炭素化を考えるには、まず食の温室効果ガス排出量について正確に把握することが重要である。前回、世界の食のサプライチェーンに起因する温室効果ガス排出量は、全体の30%程度を占めることを紹介したが、日本ではどの程度だろうか。

 このような消費活動の環境負荷を検討する際には、「消費ベース」の視点、すなわち製品やサービスの生産から消費・廃棄に至るライフサイクル全体での排出量(いわゆるカーボンフットプリント)で評価することが重要である。そこで当所で産業連関表(2015年)を用いて推計を行ったところ、日本の消費ベースでの温室効果ガス排出量は約15億トン(CO2換算、以下同様)であり、そのうち食に起因する排出量は17%(約2.5億トン)を占めた(図1)。これは、家計消費に伴う排出量の中では「住」すなわち家庭でのエネルギー消費や上下水道利用に伴う排出量に次いで大きな活動である。ライフスタイルからの温室効果ガス排出において、食が大きな割合を占めることがわかる。

 また、食品別の重量当たりのカーボンフットプリントを産業連関分析により推計すると、特に大きいのが牛肉(約14kgCO2/kg)、豚肉・羊肉やチーズ(4〜7kgCO2/kg程度)などの畜産物であり、大豆類や野菜類(0.3〜2kgCO2/kg程度)の数倍であった。ここでは土地利用に伴う温室効果ガス排出量を考慮していないため、それを考慮するとこの差はより大きくなると考えられる。したがって、栄養確保を前提としつつ、カーボンフットプリントの大きい畜産物からそれが小さい植物性食品へのシフトを進めることが有効な脱炭素策となる。

 このような食と気候変動の問題について、消費者はどのように認識しているのだろうか。実は日本では食と地球温暖化の関係はあまり知られておらず、欧米よりも認知が低い。当所が昨年に実施した環境意識に関する国際比較アンケートにおいて、「地球温暖化防止のためには肉消費量を減らす必要があると指摘されていることを知っているか」と尋ねたところ、米国・カナダでは「知っていた」が3割程度、「聞いたことがある」も含めると7割を超えたのに対して、日本では「知っていた」が9%、「聞いたことがある」を合わせても40%に満たなかった(図2)。まずは食の環境影響や気候変動との関係について、認知を高めることが重要と思われる。

 本連載では、5回にわたり食に焦点を当てた電力中央研究所の取り組みを紹介した。食や農は、カーボンニュートラル実現に向けて大幅な脱炭素化が求められる分野であると同時に、電気事業者にとって新たな事業機会を生み出しうる分野でもある。電力中央研究所は総合力を活かして、このような新規分野にも挑戦していく。

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