経済社会研究所

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No.58 論文要旨

日本の中期CO2削減費用とモデル分析の課題 (566 KB)

The Cost of Mid-term CO2 Emission Reduction of Japan and the Issues on Model Analysis

[キーワード]
革新技術、エネルギーモデル、技術評価、電源構成、低炭素社会

永田 豊  森 裕子

 2009年6月、わが国の温室効果ガス排出削減の中期目標が政府により決定された。その決定過程において、内閣府に「地球温暖化問題に関する懇談会」が設けられ、様々なエネルギー関連モデルを用いた数量分析が行われた。電力中央研究所では、独自に開発した「日本版水素エネルギーモデル(J-HEM)」を用いて、2050年にかけてのCO2大幅削減に関する技術開発効果の分析を行ってきた。本稿では、同モデルを用いて2050年に至るCO2排出削減について分析するとともに、政府懇談会における結果と比較した。その結果、CO2の大幅削減のためには、電化の推進と発電からのCO2削減の組合せが重要であること、および、最終的に政府によって決定された2020年の目標水準を達成するために必要な限界削減費用として、政府懇談会とほぼ同水準の結果(16,000円/t-CO2程度)であることを示した。さらに、限界削減費用のモデル分析における課題として、積み上げ型モデルと経済モデルで限界削減費用の考え方に違いがあることや、特に、中期目標に関しては、着実な削減を担保するために、モデル分析では選択されないはずの、高価ではあるが開発済みの技術オプションを組み込まざるを得ないバイアスがあることなどを指摘した。

太陽光発電の普及による地域電力負荷および経済性の分析
-つくば市におけるケーススタディ-
(1.1 MB)

Analysis of Local Power Load and Economy by Spread of Photovoltaic Power Generation
-Case study in Tsukuba city-

[キーワード]
太陽光発電システム、電力負荷率、ピークカット、固定買い取り制度、つくば市

田村 聡  内山 洋司  岡島 敬一

 電力部門のCO2削減対策の1つとして、電力系統内への太陽光発電の大規模導入が検討されている。しかし、太陽光発電を大規模に導入する場合、太陽光発電を導入するにあたって必要な高いコストを誰がどのように負担していくかという課題が発生する。したがって、太陽光発電の普及に必要なコストを定量的に明らかにする必要があるが、太陽光発電量・余剰電力量は地域により異なる日射量・電力需要が影響する。そこで、地域性を考慮して電力負荷の変化や余剰電力の発生量を推計し、それらをふまえた上で経済性の分析を行う必要があり、本研究では、地理情報をもとに太陽光発電量・余剰電力量を推計する手法を作成し、茨城県つくば市を対象にして、民生部門の建物の屋根に太陽光発電パネルが設置された場合の電力負荷曲線を算出した。そして、余剰電力買い取り制度に着目し、電力需要のピークカット効果・余剰電力を考慮した場合の経済性を、PVを設置する需要家とPVを設置しない需要家それぞれの場合において分析した。その結果、地区の需要家分布の違いにより負荷特性の異なること、現状のPV価格のままでは今後の普及において手厚い導入促進政策が必要になること、PV導入により需要家に最大で1kWhあたり0.5円程度の負担増の発生することが確認された。

投資の調整費用 (1.0 MB)

Investment Adjustment Costs

[キーワード]
資本調整費用、非線形投資関数、スイッチング回帰モデル

嶋 恵一

 本稿の目的は、資本市場の不完全性、生産効率、エージェンシー問題に焦点を当て、企業属性の差異による調整費用の違いを構造的に明らかにすることである。資本市場の不完全性などに起因する投資を歪める要因と投資関数のqに対する非線形性との関連について若干の実証分析を行った。製造業種に属する上場企業623社をサンプルに用い、スイッチング回帰モデルを応用し、資本調整レジームの変化を許容して非線形投資関数を推定した。推定からは、企業属性の差異によって投資のqに対する反応が変化することが確認される。投資関数のレジームによって調整費用は変化し、資本市場の不完全性や生産性などの格差により最適な投資に顕著な違いが見出された。
 推定結果の要約は次の通りである。第一に、流動性制約と投資のレジーム変化との関係では、キャッシュフローが少なく、正味流動資産に乏しい企業は投資のqに対する反応の低いレジームに帰属する傾向にある。負債比率の増加には流動性制約を強める効果があり、反対に、配当を抑え内部留保を積み増すことにより流動性制約が緩和する効果が見られる。第二に、企業レベルの生産性や資本ストックから見た効率性の違いにより、投資のレジームは変化する。資本ストックの高齢化は、企業を投資の低いレジームへ導く傾向を持つ。
 また、TFPの高さや規模の大きさはそれぞれ投資のレジーム選択と正の関係にある。第三に、個人株主の比重が高いほど、企業は投資の低いレジームに帰属する傾向を示す。一方で、売上成長率と投資のレジーム選択との間には正の関係が見られる。最後に、調整費用関数の次数は2を大きく上回ることが確認される。本稿からは調整費用の二次関数による特定を支持する結果は得られず、したがってより高次の特定が望ましいことが示唆される。

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