経済社会研究所

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No.60 論文要旨

排出削減目標設定の影響評価と 応用一般均衡モデルの役割 (980 KB)

Estimation of Impacts of Emission Reduction Target-Setting and the Role of CGE Modeling

[キーワード]
気候変動政策、温室効果ガス排出削減、応用一般均衡分析、代替の弾力性

長屋 真季子  前田 章

 温室効果ガス排出削減の中期目標が具体的な数値として掲げられる昨今、そうした数値の経済的な影響 について多くのモデル分析がなされている。そこで使われるエネルギー経済モデルは、科学的根拠という点で政策形成にとって重要な役割を果たすといえる。 一方で、そのようなモデルには、恣意的なパラメータ設定が数多く含まれており、それらが計算結果を大きく左右する。本研究はCGEモデルのパラメータについて考察するものである。その主たる結論は、排出削減に伴うGDPの低下、および、そうした排出削減を誘導するのに十分な環境税率(あるいは排出権取引価格)の算定は、資本と労働から成る合成財と化石燃料の間の代替の弾力性の設定値に根本的に依存する、というものである。 こうした考察を通して、CGEモデルの振る舞いを透明化し、それに基づいて論点を明確にすることは政策形成上極めて重要なことであると考えられる。

国内製造業10業種のCO2排出量を考慮した生産性分析 (1.0 MB)

Productivity Analysis Considering CO2 Emissions in Japanese 10 Industrial Sectors

[キーワード]
生産性、二酸化炭素、指向性距離関数、国内製造業

藤井 秀道  馬奈木 俊介  金子 慎治

 本研究では国内製造業10業種を対象に、CO2排出量を考慮した生産性分析を業種別に行い、その分析結 果を比較することで、経済効率性を圧迫することなくCO2排出量の削減を達成している業種を明らかにすることを目的とする。 分析結果より、国内製造業では多くの企業で、経済効率性を犠牲にすることなくCO2排出量の削減を達成していることが明らかとなった。加えて、ゴム製品、化学製品、電気機器製品、自動車製造業の4業種で2006年から2008年にかけて、CO2排出量を考慮した生産性が大幅に改善している。 加工組立型では、効率的な 企業と非効率的な企業の両方で生産効率性の改善を達成しており、業界全体で効率性改善を達成している 傾向が見られた。一方で、化学製品製造業や繊維製品製造業では、フロンティアライン上の効率的な企業と非効率的な企業との間の効率性格差が拡大しているため、ボトムアップを促すような試みが重要であると言える。

電力価格のヘドニック法による分析 (1.0 MB)

Analysis of electricity price by hedonic model

[キーワード]
電気料金、電力自由化、品質

桑原 鉄也  木下 信  依田 高典

 日本の電力産業においては、1995年の卸売市場の自由化に引き続き、2000年には特別高圧(20kV以上) 供給の需要家への小売市場が自由化された。その後の電力料金単価の推移を見ると、小売自由化実施前 の1999年度から2007年度の間に、電灯・電力の平均小売単価で9%程度の下落が見られている。 日本における電力自由化は、価格の低減という当初の目標に対して一定の成果を挙げたと考えられるが、本稿では、 ヘドニック法の考え方を用いて、その価格下落がどのような要因によってもたらされたかを分析した。分析の結果、新規参入者のシェア上昇が小売自由化当初に料金低下に一定の影響を与えていること、その後は電力供給の限界費用にある程度の下落が見られるという示唆を得た。

生産性分析による電力自由化と安定供給に関する研究 (992 KB)

A study of electricity industry reform and security of supply with a Data Envelopment Analysis

[キーワード]
電力自由化、生産性分析、DEA(Data envelopment analysis)、パネルデータ分析

田中 健太  松川 勇  馬奈木 俊介

 近年、欧米諸国では規制緩和と電力の安定供給との関係性が議論されている。実際に欧米では生産性分析の手法を応用し、安定供給を考慮した電力産業の生産性の推計が行われている。 日本においても電力 産業の自由化前後における安定供給と経営効率化の双方を定量的に評価した指標を作成することは、電力会社の経営評価、及び今後の制度設計に大きな意義がある。しかし日本を対象とした安定供給と経営効率化の双方を考慮した経営状況の分析はなされていない。 そこで本研究では日本の電力産業を対象として経営効率改善と電力の安定供給の双方を考慮し、DEA(Data Envelopment Analysis: データ包絡分析)を応用した生産性の計測を行い、電力産業の生産性が規制緩和後の変化やその他の要因によってどのような影響を受けたのか、分析を行った。分析の結果、規制緩和後、電力会社の安定供給への努力が少なからずないがしろにされ、そのことが安定供給を考慮した生産性指標を低下させた可能性が示唆された。

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