社会経済研究所

No.61 論文要旨

容量メカニズムの選択と導入に関する考察
―不確実性を伴う制度設計への対応策―

On Choice and Implementation of Capacity Mechanism
-Coping with the Uncertainty associated with the Institutional Design-


キーワード:容量メカニズム、供給力確保、卸電力市場、制度設計


服部 徹


電力システム改革で創設が検討されている容量市場を含む容量メカニズムの制度設計は、電力の自由化や再生可能エネルギーの導入を進めてきた諸外国でも試行錯誤が続いている。本稿では、電力市場における競争の導入や再生可能エネルギーの大量導入に伴い、十分な供給力を効率的に確保する仕組みとしての容量メカニズムの必要性を巡る議論について振り返り、主に欧米で検討されてきた様々な容量メカニズムの制度設計の課題を整理する。どのような容量メカニズムを導入するべきかについては、期待されるメリットと注意すべきリスクのうち、何を重視するかによって絞り込むこともできるが、いずれにおいても、所期の目的を達成せず、かえって別の問題をもたらすリスクが大きいことを踏まえて、一つの仕組みから別の仕組みへの移行や廃止の選択肢を考慮に入れた柔軟な導入プロセスを提示する。

米国PJMエネルギー市場における市場支配力監視の設計と課題
―局所的市場支配力の緩和策と市場評価―

The policy design and issues of market power monitoring in the PJM energy market:
The mitigation of local market power and market assessment


キーワード:市場支配力監視,局所的市場支配力,Three Pivotal Supplier Test,入札上限規制


井上 智弘


規制撤廃後の卸電力市場において,低廉で安定的な電力供給を実現するためには,競争が機能しなければならない。そのためには,市場支配力の行使を防ぐ仕組みが不可欠となる。本稿では,競争的な市場と評価される米国PJMのエネルギー市場における局所的市場支配力の緩和策(Three Pivotal Supplier Testに基づく入札上限規制)と市場評価に注目し,その導入経緯と制度設計を調査することにより,市場支配力探知が直面する課題と,それに対する制度設計上の対応について調査を行う。それにより,市場支配力探知には過剰検出・過少検出のリスクが内在するため,適正な探知と緩和は困難な課題であり,制度設計には試行錯誤が必要となることと,それでも市場支配力の抑制が適正になるとは限らないため,継続的な競争評価が欠かせないということを明らかにする。

自由化後の電力長期契約をめぐる競争上の課題
EU競争法の適用事例を通じた検討

Competition Issues of Long-term Electricity Contracts in Liberalized Markets
- Studies of EU Competition Law Cases -


キーワード:長期契約,競争法,欧州連合 (EU),電力自由化


佐藤 佳邦


 本稿は,欧州連合 (EU) で電力長期契約がEU競争法上問題となった事例の検討や,同法を執行する欧州委員会の方針の評価を通じて,その競争上の課題について以下を明らかにした。
 (1)1990年代に蓄積された上流の長期卸契約に関する競争法適用事例の整理や,下流の長期小売契約を巡る2007年の審査指針の公表と大手電力会社等をめぐる審査事例の検討から,欧州委員会が,電力長期契約の審査において,ライバルの競争機会の確保と投資インセンティブの保護の適切なバランスを探っていたことがわかる。ただし,許容される契約期間や,考慮される投資の範囲等についていまだ不明確な点が多く,事業者の予測可能性を欠くとの批判がある。(2)電力長期契約が競争法上の問題となったEUの事例からは,自由化後も期待通り競争が進展しないリスクが示唆される。また,議論が比較的活発なEUにおいても電力長期契約の競争上の評価は定まっておらず,当事者が合意した契約に対して競争推進の観点から事後的に制約を課すことは,過剰な介入となるおそれがあり,事業者や需要家の利益が害するリスクがある。

電力の小売競争への規制介入の問題
―英国の差別価格の制限が競争に及ぼした影響―

The risk of regulatory intervention in retail electricity competition
-The effect of prohibiting the price discrimination on competition in the UK-


キーワード:小売全面自由化,競争政策,電気料金,差別価格の制限,市場差別


澤部 まどか


 小売全面自由化後の市場では,電気料金は原則として競争法に反しない限り,事業者が自由に設定することができる。電力の小売市場では,全面自由化によって競争が本格化することで,料金メニューが多様化することが期待される。一般的に独占状態では,同一の財・サービスについて限界費用を反映せず異なる価格を設定することは,差別価格として制限される。しかし,独占状態でない市場においては,差別価格を制限することにより,かえって価格上昇および社会的余剰の減少を招くリスクがあることが知られている。
 理論的には差別価格の制限によるリスクが指摘されているものの,わが国に先駆けて小売全面自由化を実施している英国では,差別価格を制限する施策が実施されている。本稿では,英国がそうした施策に踏み切った背景および市場に与えた影響について先行研究の定量評価を示しつつ,わが国で今後全面自由化を実施する際の料金メニューの多様化への対応の一助とする。

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