社会経済研究所

No.62 論文要旨

総説:デマンドレスポンスの国内外の動向と当所の取り組み

A Survey of Demand Response and Research Activities at CRIEPI


キーワード:デマンドレスポンス、需要側資源、アンシラリーサービス、再生可能エネルギー、系統運用


浅野 浩志、永田 豊


需要家と協調して、電力の使い方を社会的に望ましい形に誘導するデマンドサイドマネジメント ( Demand-Side Management, DSM )の一形態として、デマンドレスポンス( Demand Response, DR )が、 2011 年の震災以降の電力供給不足の中で、新しい節電方法として注目されてきた。当所では、 1980 年 代から需要側研究を学術面で先導してきた。本稿では、欧米におけるデマンドレスポンスの導入状況、 国内のデマンドレスポンスの位置づけの変化、当所における研究の変遷、今後の展望を概説する。

論文:ピークタイム・リベートによる家庭用需要家の
デマンドレスポンスの効果
―北陸地域での実証データに基づく分析―

Residential Demand Response by Peak-Time Rebate
-Evidence from Pilot Program in Hokuriku Area-


キーワード:家庭用需要家、デマンドレスポンス、ピークタイム・リベート、実証試験


服部 徹、高橋 雅仁、坂東 茂、加部 哲史


2013年度から2カ年にわたって実施された北陸地域での家庭用需要家を対象としたデマンドレスポンス(DR)の実証試験では、これまで我が国で実証が進められてきたクリティカル・ピーク・プライシング(CPP)に加え、需要家の節電量に対して割引(払い戻し)を行うピークタイム・リベート(PTR)による需要抑制効果を国内では初めて検証した。その結果、PTRは、節電による経済的メリットが等しくなるように設計されたCPPと、ほぼ同程度の需要抑制効果を持つことが分かった。また、調査終了後のモニターへの意識調査からは、PTRの方がCPPよりも受容性が高いことも確認した。ただし、割引単価が高くなるほど需要抑制効果が大きくなるといった効果は見られなかった。なお、1年目と2年目の夏季の需要抑制効果を比較すると2年目の需要抑制効果は小さいことが分かった。

論文:テナント事務所ビルにおけるスマート節電実証試験

Field Test of Smart Load Shedding Strategies for Rental Office Buildings


キーワード:デマンドレスポンス、実証試験、テナントビル、ピーク需要抑制


高橋 雅仁、上野 剛、岩松 俊哉、坂東 茂、西川 雅弥、岩村 集


本研究では、テナント事務所ビルにおけるスマート節電の効果を明らかにするため、テナントビル6棟を対象に実証試験を行った。スマート節電では、就業時間中常時節電するのではなく、経済的インセンティブや空調制御装置を用いて、デマンドレスポンスのようにある特定のピーク時間帯のみ節電を行う。試験結果から、インセンティブを用いた間接制御は、テナント側の手動による節電行動を促し、確実なピーク抑制効果を出すためには,検討の余地が残り、夏・冬共にピーク抑制手法としては直接制御がより適切であった。テナント専有部に自動デマンドレスポンスを導入するため、テナントへのメリット還元や契約など何らかの制度の検討が必要である。

研究ノート:家庭部門における行動変容型ピーク抑制策
―見える化システムと料金体系を組み合わせた事例―

Behavioral Interventions for Peak Saving in Residential Energy Use
-A Case Study of an In-Home Display and a Rate Structure-


キーワード:節電、宅内モニタ、料金インセンティブ、ランダム化比較対照試験


向井 登志広、西尾 健一郎、小松 秀徳、内田 鉄平、石田 恭子


家庭部門のピーク抑制策として、緊急ピーク時料金やピークタイム・リベート等、価格インセンティブを極端に変化させて電気利用を抑制するような料金型アプローチへの認知度が高い。他方で、系統全体で節電効果を得るためには相応の適用世帯数を確保しなければならず、多くの需要家が受け入れやすい料金型アプローチ以外の仕掛けも選択肢となる。筆者らは、需要家の心理的負担が少なく、気軽かつ自然な節電行動を促す「行動変容型」のピーク抑制策について研究を進めてきた。本稿では、これら行動変容型アプローチについて関連研究を紹介する。特に、筆者らが実施した集合住宅での実証研究について、インタビューなどの新たな分析を交えながら、行動変容型ピーク抑制策への需要家の反応や留意すべき点について考察する。

研究ノート:スマートメータデータの活用方法

The Present and Future of Smart Meter Data Utilization


キーワード:電力需要、スマートメータ、家庭部門、省エネルギー、節電


小松 秀徳、西尾 健一郎


電力各社によるスマートメータ(次世代電力量計)の本格導入に向けた動きが加速している。メータから得られる時刻別データの有効利用が期待されているものの、活用目的およびその基盤となる分析技術について、知見の蓄積や体系化は十分になされてこなかった。そこで、スマートメータデータ活用に資する分析技術について、文献調査により動向や課題を整理する。さらに、家庭用需要家のエネルギー効率利用支援を進める上で重要となる、冷暖房使用傾向の推定等に着目して、需要分析技術の検証を行う。推定精度に改良余地はあるが、平日午後に在宅・エアコン多消費傾向にある世帯への選択的な節電アドバイス提示、デマンドレスポンス提案や、暮らしに役立つ新サービス提案等への活用も考えられる。これらの調査・分析を踏まえた上で、今後のスマートメータデータ活用における課題や、現在もなお広がりを見せるデータ利用価値の拡大の状況についても議論する。

研究ノート:太陽光発電大量導入時の電圧上昇対策に関する考察
―無効電力補償とデマンドレスポンスの比較―

Measures for Voltage Stabilization in Distribution Network with Large-scale PV Systems
- Comparative Analysis of Reactive Power Compensation and Demand Response -


キーワード:太陽光発電、配電系統、電圧安定化、無効電力補償、デマンドレスポンス


高木 雅昭、田頭 直人


太陽光発電(PV)からの逆潮流によって配電系統の電圧が上昇する問題に対しては、配電系統側における対策の他、需要側における対策も検討されている。需要側における対策は、制御対象や運用方法により効果が大きく異なるため、その経済性を評価することが非常に難しい。需要家端で実施可能な対策は、制御対象によって、大きく二つに分けられる。一つは、有効電力を制御するデマンドレスポンス(DR)、もう一つは、無効電力補償である。本稿では、それぞれの対策の経済性を評価した当所の既刊報告書を参照しつつ、両対策の結果を比較する。更に、DRによる対策と無効電力補償による対策の特徴を明らかにすることで、両対策の協調の可能性を検証する。最後に、両対策を組み合わせた場合、設備の稼働率に基づいて、それぞれの対策が経済的に棲み分けることが重要である点について言及する。

研究ノート:アンシラリーサービス型デマンドレスポンスの
日米における取組み状況

Current status of utilization of demand resources for ancillary service in Japan and the U.S.


キーワード:デマンドレスポンス、アンシラリーサービス供給、空調負荷


坂東 茂


周波数調整や瞬動予備力といった系統を安定に運用するためのアンシラリーサービスは、現在主に火力発電や水力発電によって供給されている。将来、不確実な出力特性を持つ再生可能エネルギーが電力系統に大量連系されると、アンシラリーサービスの必要量が増大する可能性がある一方で、火力発電の発電比率の減少により供給量が減少してしまうことが懸念される。これらの問題を解決するために蓄電池や再生可能エネルギーからのアンシラリーサービス供給が検討されているが、系統安定化コストは従来以上になると予想され、社会コストを最小化するためには電力消費機器等の需要側資源を活用する等、供給資源の選択肢を増やすことも重要である。本稿では、米国で先行する需要側資源を用いたアンシラリーサービス供給(ASDR)の現状や、日本におけるASDRの現状の取組みについても紹介し、今後ASDRを展開する上での課題について述べる。

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