社会経済研究所

No.63 論文要旨

●第1部 東日本大震災前後の電力需要の変化要因をどうみるか

研究論文:東日本大震災後の電灯需要変化の分析

Analyis of Factors Affecting Residential Electricity Demand After the Great East Japan Earthquake

キーワード:東日本大震災、電灯需要、構造変化、要因分解

加部 哲史

東日本大震災以降、電灯需要は未だ減少傾向にある。本稿では震災後の減少要因を明らかにするため電灯需要の変化要因について分析を行い、各要因が電灯需要に与えた影響について考察を行った。さらに各要因の影響について震災前後で比較を行った。その結果、震災前は世帯数の増加と共に電灯需要も増加傾向にあったが、震災以降、世帯数の影響は相対的に弱まり、減少要因として価格要因、習慣要因、気温要因が大きく寄与していたことが分かった。

研究論文:東日本大震災前後における産業用電力需要の構造変化
―時系列分析によるアプローチ―

StructualChanges of Industrial Power Demand after Great East Japan Earthquake
―An Approach Based on Time Series Analysis ―

キーワード:大口電力需要、電力需要関数、時系列分析、構造変化分析

間瀬 貴之、林田 元就

本稿は、2000年1〜3月期から2015年1〜3月期までの大口電力需要データに時系列分析の方法を適用し、東日本大震災後で電力需要関数に構造変化が生じたかどうかを検討したものである。構造変化テストを行った結果、大口電力需要関数の構造変化時点は業種により異なり、大口合計と機械は震災後の2011年7〜9月、素材は2008年1〜3月であった可能性が示唆された。また、個々のパラメーターの有意性検定によれば、それぞれの構造変化時点を境に、生産弾力性の値は、素材では0.94から1.10(+0.16pt)へ上昇、機械では0.60から0.40(-0.20pt)へ低下した可能性があることが分かった。

研究トピックス紹介:産業・業務部門での東日本大震災以降の電力需要の変化要因

人見 和美、星野 優子

本稿では、産業・業務部門における震災以降の電力需要の変化がどのような要因によるものであるのかについて、理論モデルを基にした分析を含め、当所での研究から明らかになったことを中心に、主に以下の2点について整理した。(1)震災以降の産業・業務部門の電力需要の減少には、資本設備あたりの電力消費量(電力・資本係数)の低下が大きな影響を与えたこと、特に卸小売サービス業など業務部門でその傾向が強かった。(2)長期的には、エネルギーコストの上昇が資本設備の更新に影響を与えることで、今後、仮に将来的にコストが安定化しても、そこで得られた省エネ効果は、一定程度定着する可能性がある。

●第2部 将来の電力需要をどう見るか

研究論文:家庭部門の電力需要における人口・世帯構造の影響
―先行研究の整理と課題―

Effects of Population and Household Structures on Residential Electricity Demand
– A Literature Review and Future Research Agenda –

キーワード:人口・世帯構造、少子高齢化、単身世帯化、住まい方、ライフスタイル

中野 一慶

本稿では、人口・世帯構造が家庭部門の電力需要に及ぼす影響を整理し、今後の課題を展望する。高齢者の在宅時間が長いために、高齢化は需要増加要因とされることが多い反面、平均世帯人員の減少を伴うことも指摘されてきている。平均世帯人員の減少は、世帯数の増加、世帯当たり需要の減少をもたらすが、家計消費における規模の経済を失わせることで、家庭部門の一人当たりの電力需要を増加させると言われている。一方、平均世帯人員の減少が集合住宅の比率を高める等、住宅特性の変化を通じた電力需要への影響も見逃せない。こうした影響まで考慮すると、高齢化が単純に電力需要の増加につながるわけではない。2010〜2030年の電力需要のシミュレーションからは、世帯数の伸びが2.5%に鈍化する中、平均世帯人員の減少や集合住宅へのシフトは世帯当たり需要を3.0%程度減少させ、その効果を無視すると、本来よりも需要を過大に評価することになると示唆された。

研究ノート:産業・業務用電力需要に対する産業構造変化の影響

Effects of Changes in Industrial Structure on Industrial and Commercial Electricity Demand

キーワード:産業構造、産業・業務用電力需要、地域経済

田口 裕史、浜潟 純大

本稿では、産業・業務用の電力需要と産業構造の関係性をデータから明らかにすると共に、将来の経済環境に関するシナリオが国内の産業構造と電力需要に及ぼす影響について分析した。1990〜2010年における国内の電力需要の変化要因の寄与度について分析した結果、国内の電力需要の伸び(年率1.2%増)のうち、経済規模変化(年率0.6%)と原単位変化(年率0.8%)が増加要因となった一方で、素材製造業の産出額構成比の低下と、機械や業務の産出額構成比の上昇という産業構造の変化(年率0.2%減)が、減少要因となっていた。しかし、地域別にみると、どの地域も機械、業務の構成比が高まる一方、構成比が低下した部門の違いにより、産業構造の変化が電力需要を増加させた地域と減少させた地域に分かれた。また、当所の2030年までの産業展望によれば、各地域において素材の産出額構成比の低下と、機械、業務の産出額構成比の上昇が続くため、産業構造変化は素材産業の集積が小さい沖縄以外の全ての地域で、電力需要の減少要因となることが見込まれる。

研究ノート:地域別エネルギー需要の実態把握
―「都道府県別エネルギー消費統計」による把握―

Findings of Regional Energy Demand
– Understanding by the “Energy Consumption Statistics by Prefecture –

キーワード:地域別エネルギー需要、都道府県別エネルギー消費統計、実態把握

大塚 章弘

本稿では、「都道府県別エネルギー消費統計」を活用して、日本の地域におけるエネルギー需要の実態把握を行った。その結果、日本全体のエネルギー需要は1990年代から2000年代にかけて増加しており、家庭や業務といった民生部門および運輸部門が牽引していることが分かった。地域別動向では、東京電力管内の都県がエネルギー需要の増加に大きく寄与しているだけでなく、東北といった大都市地域以外の地域内各県のエネルギー需要も着実に伸びていることが分かった。エネルギー需要の変動を、一人あたりエネルギー需要の変動と人口変動に分解して考察した結果、一人あたりエネルギー需要がエネルギー需要全体に与える影響が大きく、特に大都市地域以外の地域エネルギー需要の増加は一人あたりエネルギー需要の増加によってもたらされたことが分かった。

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