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2025年までの経済・エネルギーの長期展望

−なぜ長期展望が必要なのか−

1. はじめに

少子高齢化、デフレ長期化、財政破たん懸念など、日本経済は多くの難題を抱え危機的な状況下にある。今後日本経済がどのようにしてこれらの難題を乗り越え、持続可能な成長を達成していくのか、中長期的な将来動向を的確に見通すことが喫緊の課題となっている。

こうした課題に応えるために、当所では、独自に開発した長期経済予測システムを活用して、2025年までの長期展望を行い、日本経済・エネルギーの将来動向を明らかにするとともに、今後の政策課題を探った。 ホームページを借りて、この研究成果の概要を紹介したい。展望の対象が広範囲に及ぶため、今後、長期展望シリーズとして分野別・項目別に掲載していく予定である。

2. なぜ2025年までの射程が必要なのか

長期展望でも2025年までを射程としたのには理由がある。

第一に、電力業界の研究所として、電力需要やエネルギー需給の長期的な動向を見通す必要性があることである。電力会社が発電所を計画し建設するまでには、およそ10年以上の歳月がかかるため、中長期の需要見通しが不可欠である。当然だが、経営計画には予測精度の高い展望が要請される。

第二は、地球規模温暖化問題からの必要性である。京都議定書では、2008〜12年の間に温室効果ガス排出量を、日本は1990年比で6%削減しなければならないという国際公約が締結された。当然ながら、その期間の温室効果ガス、特に、二酸化炭素排出量がどれくらいになるかを推計することがまず重要な課題となる。この問題は電気事業だけでなく、産業界全般、さらには一般家庭を含む民生部門にも及ぶ。地球温暖化問題は2010年で終わることなく、世界的な規模で目標が達成されるまで引き続く長期的な問題なのである。

第三は、日本経済を巡るさまざまの潮流変化への対応からの必要性である。グローバル化、高齢化、高度情報化といった潮流が、21世紀初頭の日本経済を大きく左右する。これらの潮流は複雑に絡み合って、日本経済の構造に大きな影響を及ぼし、成長を促進したり抑制したりする。潮流とは時代の変化であり、その流れは数十年にも及ぶ。

第四は、財政問題への政策対応からの必要性である。財政危機といわれるように、日本の財政は国、地方政府ともにまさに火の車だ。よほど抜本的な政策が実施されなければ、財政が破たんし日本経済も破局を迎える恐れがある。将来の財政破たんの可能性を見極めるためには、数十年先までの経済、財政動向を総合的かつ的確に展望する必要がある。

3. 長期展望の対象分野、展望の視点

経済はあたかも網の目のような状態であり、さまざまの経済指標は相互に影響し合っている。人口は経済成長に、経済成長は財政に、財政は経済成長に影響を及ぼす。経済成長は産業構造に、産業構造は経済成長に影響を与える。経済成長や産業構造は地域経済やエネルギー需給に影響を及ぼす。
このため日本経済・エネルギーの将来動向を的確に見通すためには、経済の相互依存関係を踏まえた総合的な展望が必要である。

今回の2025年展望は、日本経済のほぼ全てを網羅している。人口から、マクロ経済、財政、貿易、産業構造、地域経済、エネルギー需給に至るまで、7つの広範囲に及ぶ分野を対象に、一貫した形で整合的な展望を行っている(下図)。


注)各対象分野の上段は展望の主要項目、下段は展望の視点を示す。

21世紀の潮流にはいくつかあるが、今回の展望では、先にみたようにグローバル化/世界大競争、少子高齢化、IT革命/高度情報化という三大潮流をとりあげている。これらの潮流と絡み合って、日本経済の成長を阻害する恐れのある四つの大きなリスクがある。すなわち、産業空洞化、少子高齢化、デフレ、財政破たんに伴うリスクである。

今回の展望では、これらリスクの発生要因や波及ルートなどを整理し、その経済的影響を分析することに注力し、また、エネルギーについては、地球規模温暖化問題との絡みで原子力発電停止の影響を分析している。

4. 主な展望結果

主な展望結果は以下の通りである。

(1)我が国経済は今後1%程度の低成長にとどまるが、一人当たりGDPでみると豊かさは着実に向上すると予想される。将来の財政破たんを回避するには、民間需要の創出と財政再建が必要になる。財政再建のためには増税が避けられず、国民負担率(租税・社会保障負担の対名目国民所得比)は現在の約40%から2025年には50%台へと大幅に上昇する。ただし、増税のタイミングは景気回復を待ってから行うべきである。

(2)低成長を受け、エネルギー・電力需要の伸びも低く、電気事業においては引き続き設備計画の見直しなどが課題となる。CO2排出量は減少局面に転じるが、2010年では依然として1990年水準を4%ほど上回るため、原子力発電の推進など幅広く温暖化対策を講ずる必要がある。

(社会経済研究所 研究参事 服部 恒明)

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