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海外生産と貿易の展望:拡大する対アジア貿易

1. はじめに

 日本企業の海外進出や輸出入の動向は、経済成長や産業構造に大きな影響を与える。2025年までの日本の海外直接投資や貿易動向を展望するためには、急速な成長を続ける中国経済や日本企業の活発な海外進出の長期的な影響なども見極める必要がある。

2. 引き続く海外生産の拡大

 中国をはじめとする東アジア地域での日本企業の海外生産は、今後、最終製品の組立にとどまらず、資本財や中間財部門にも徐々に広まっていくとみられる。2025年までを展望すると、日本企業の着実な海外進出を背景に海外生産比率はほぼすべての業種で上昇し、製造業全体では2000年の12%が2025年には23%へと現在の欧米並みの水準に達すると予想される。業種別では、化学、一般機械の海外生産比率はアジアでの中間財、資本財の現地生産拡大によって高い伸びとなる。また、北米を中心に早くから海外生産の進んでいた輸送機械では、海外生産比率の伸びは今後は緩やかとなるものの、2025年では34%となり、3割強を海外で生産することになろう(図1)。


図1 海外生産比率の展望
(現地法人売上高/国内外売上高)

3. 商品別では電気機械貿易が拡大する

 日本企業のグローバル化やアジア経済の成長などを背景に、日本の貿易構造は大きな変貌を遂げる。まず、輸出を商品別にみると、製造業では化学、一般機械、電気機械がシェアを拡大するのに対して、一次金属、輸送機械はシェアを低下させる。特に輸送機械は2000年時点の輸出シェアは13.9%で第2位であったが、2025年時点では11.4%と一般機械に次ぐ第3位に後退する。一般機械や電気機械ではアジア地域での需要増から輸出が伸びるのに対し、輸送機械では、海外の需要増の多くに現地生産の一段の拡大で対応していくため輸出の伸びが弱い。輸入においても、アジアからの海外生産品の逆輸入の増加などによって、電気機械のシェアは2000年の25%から2025年には37%にまで拡大する。

 このように電気機械は、アジアを中心とした国内外の生産ネットワークの発達とともに、IT関連機器を中心に国内生産の高付加価値化が進み水平分業が高まるため、輸出入ともにシェアが拡大する(図2)。


図2 主要品目別の実質純輸出比率
(純輸出/輸出入合計)

4. 地域別では対アジア貿易が拡大する

 次に地域別にみると、今後、日本の貿易に占める対アジア貿易の比重は益々大きくなる。実質輸出入の貿易相手地域別のシェアは、2000年から2025年にかけての推移でみると、中国、NIES、ASEANのアジア9カ国合計では、輸出が40%から64%へ、輸入が40%から54%へと上昇し、対アジア貿易は2025年になると日本の貿易額の約6割を占めるまでに拡大する。こうした対アジア貿易の急拡大は、アジア経済が引き続き堅調な成長を続けることや、日本企業のアジア進出に伴う現地法人との取引が活発化するなど日本を含む東アジア地域での生産・流通ネットワークの発展が見込まれるためである。日本経済が持続的成長を遂げるためにも、今後、アジアとの貿易・資本交流が一段と重要性を増すことは確実である。

 特に対中国貿易は伸びが著しく、輸出では6%から23%へ、輸入では14%から27%へとシェアは大きく拡大し、日本の貿易額の約1/4を対中国貿易が占めるようになる。また、輸出から輸入を差し引いた純輸出は、対中国では徐々に黒字化へ向うとみられる。これは、世界の工場として目覚しい経済成長を続ける中国が、今後は巨大な輸出市場として拡大していくためである(図3)。


図3 貿易相手地域別の実質純輸出比率
(純輸出/輸出入合計)

5. おわりに

 海外生産の拡大による産業空洞化で、国内の製造業の雇用縮小や賃金低下が懸念されている。また、中国の急速な経済成長に対しては、日本が呑み込まれてしまう、といった中国脅威論がしばしば聞かれる。しかし、国際分業が深まるなかで、中国の経済成長は長期的にみるとアジア域内の貿易や投資を活発化させ、アジア全体の持続的な成長をもたらすものであると肯定的にとらえ、対応することが重要と考えられる。

(社会経済研究所 主任研究員 星野 優子)

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