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産業構造展望:拡大するIT型情報関連産業

1. はじめに

 グローバル化、情報化、少子高齢化、規制緩和の進展など、産業界を取り巻く国内外の経済社会環境は近年著しく変化し、国内産業は大きな変革期を迎えている。こうした変化の影響は、既に一部が顕在化しており、今後の産業構造にも大きなインパクトをもたらすと予想される。今回は、持続成長シナリオ下における2025年の産業構造の展望結果を紹介する。

2. 2025年の産業構造

 マクロ経済動向を反映し、国内産業の実質生産額は、2000〜2025年間では90年代よりやや低い1%程度の伸びにとどまる。90年代には情報化が追い風となって、情報関連産業である電子・通信機器、通信・放送サービスや対事業所サービス業が唯一堅調で国内産業をリードした。これらの産業は、伸び率こそダウンするものの、好調を維持し今後も産業のリード役を果たす。また、高齢社会によって需要が見込まれる医療産業も引き続き堅調に推移する。

 90年代に成長率が大きく落ち込んだ建設業では当面は低迷するものの、2010年頃からは民間設備投資が増加に転じることからマイナス傾向に歯止めがかかる。

第三次産業全体では0.5%ポイントのシェア伸長にとどまり、サービス化のテンポは全体としてみると緩やかである。これは、持続成長シナリオで2006年以降に想定した消費税増税による消費低迷が大きく影響していると考えられる。家計所得の伸び悩みが財・サービス需要へのマイナス要因として働くなかで、高齢化や情報化によって医療費・通信費には依然として強い需要が見込まれる。このため、通信・放送、対事業所サービスなどの情報関連産業と医療・保健衛生が堅調にシェアを拡大する。このほか、対個人サービスや電力・ガス産業も安定した成長を遂げる。一方、金融・保険や卸小売、運輸はマイナス成長となるほか、教育・研究も伸び悩む。


図1 産業構造の変化

3. リーディング産業

 リーディング産業とは成長が著しく、また雇用や他産業の生産活動への幅広い波及効果を持ち、それによって日本経済を牽引する力を有する産業である。日本におけるリーディング産業は、かつての繊維産業から鉄鋼、自動車へと、時代とともに変遷してきた。「産業シェア」と「成長率」の2つの指標がともに高い産業は、電子・通信機器、通信・放送、対事業所サービス、医療・保健衛生であり、これら4つの産業が今後の「リーディング産業」である(図2)。このうち、医療・保健衛生は高齢化対応型産業、それ以外の3業種はいわゆるIT型情報関連産業として特徴づけられる。

 4業種の中で最も高い伸びとなるのは通信・放送であり、2000〜2025年間に3.6%の成長を遂げる。情報化の浸透で産業部門、家計部門ともに通信ニーズが高まり、同産業の急速な成長を促進する。

 通信・放送は高成長を遂げるといっても2000年時点でのシェアが3%未満で、国内産業への影響力はそれほど強くない。その意味では、6%を超えるシェアを持ち、平均3.3%の成長を遂げる電子・通信機器は、今後の国内産業の牽引役を担うといえる。電子・通信機器の強みは、国内市場に強い需要が見込まれることである。ネットワーク社会の到来で携帯電話の普及は一段と進むほか、一般家電製品にも通信機能を搭載した高付加価値製品が汎用化するなど、今後も電子部品への強いニーズが予想される。

 対事業所サービスでは、高度情報化時代を迎え、情報処理サービスやソフト開発のアウトソーシングが成長を後押しする。このため、産業部門からの中間需要が2%程度同産業の生産拡大に寄与する。

 医療・保健衛生の今後の動向は、家計消費に大きく依存する。高齢化の影響で、家計の医療サービスへの需要は今後ますます高まる。消費税増税や社会保障給付抑制の影響で家計の可処分所得が伸び悩み、消費の選別が進むが、医療サービス部門には今後も強い需要の伸びが見込まれる。


図2 リーディング産業

図3 産業別就業者数の変化(2000〜2025年間)

4. 就業構造変化と雇用流動化

 就業構造では、製造業などで就業者数が減少する一方、サービス業従事者は大幅に増加する(図3)。持続的な経済成長を達成するためには、このように激変する就業構造に対応した雇用対策が不可欠である。

 これまでは、長期的雇用慣行の下で入職者の過半数を新規採用者が占め、労働移動の割合は限られていたため、就業構造変化のほとんどは新規採用と定年退職によって吸収されていた。少子化によって新卒労働者が減少していくと、従来の雇用調整では就業構造の大幅な変化に対応できない。このため、今後は中途採用の果たす役割が大きくなり、就業者の他部門への配置や転職がより活発になる。このような雇用調整には、出向や労働者派遣などのソフトな調整から、解雇を伴うハードな調整まで様々な方法が考えられ、今日では企業の経営立て直し方策の一つとして日本でも一般化しつつある。雇用はもはや「聖域」ではなくなり、企業が必要に応じて人件費を見直し雇用調整を行う時代を迎えている。

 雇用流動化に伴い、転職によって生じる経済的損失を最小限にとどめる社会システムの改革が課題となる。例えば、転職による影響の少ないポータブルな年金・退職金制度の導入などが有効な方策となろう。また、雇用ミスマッチへの対応も求められる。既存の産業を離れて他の業種に職を求める雇用者と、労働需給の逼迫により新たな雇用者を求める企業との間に雇用ミスマッチが発生する可能性は高く、特に中高年層の雇用ミスマッチをいかに解消させるかは喫緊の政策課題である。

5. おわりに

 わが国の産業が、時代の変化に対応して新たな発展段階に入るためには、いくつかの課題がある。第一に、情報関連産業における新規事業の育成支援・需要開拓が挙げられる。ブロードバンド等のインフラ整備、放送デジタル化など、政府がイニシアティブをとり、民間の動きをまとめていく役割が期待される。第二に、環境問題への対応がある。今後導入される環境政策が国内製造業、なかでも貿易産業に不利に働かないよう、政策の舵取りが必要である。また、環境ビジネスを新たなビジネスチャンスとして拡大するような施策も求められる。第三に、先にみたような雇用政策が挙げられる。雇用ミスマッチを未然に防ぎ、雇用不安への適切な措置を講じる必要がある。

(社会経済研究所 主任研究員 若林 雅代)

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