1. はじめに
少子・高齢化が進む中で、各地域の人口は遅くとも2008年までには減少局面に入る。労働力や消費者が減っていく時代に、地域経済は今後も成長を維持することはできるのか。成長維持のために何が必要なのか。こうした問題意識に立ち、需要と供給の両面から地域経済の将来の姿を探った。
2. 各地域の経済成長率と就業者数の変化
2000〜2025年の経済展望結果では、地域計(=全国)の総生産成長率は、年率で0.9%となる。日本経済の成長率が0.9%と低迷する中で、それぞれの地域経済の動きは異なり、首都圏、中部、関西の3地域が1.0〜1.2%と相対的に高い成長率を達成するのに対して、北海道、東北、北関東、北陸、中国、四国、九州・沖縄の7地域の成長率は0.2〜0.8%にとどまる(表1)。
低成長による労働需要の低迷と労働供給の元となる人口減少によって、各地域の就業者数は減少していく。2000年時点では地域計で6,348万人が就業していたのに対して2025年の就業者数は5,960万人となり、388万人の減少となる(表2)。同期間中の就業者数の変化を地域別にみると、すべての地域で就業者数は減少しているが、減少数が最大となるのは首都圏で83万人、次いで東北の57万人、中部の45万人、関西の39万人と続き、就業者数の多い首都圏、中部、関西では減少数が大きくなる。
しかし、2000年の就業者数に対して何%減少したかという変化率でみると、最大は四国のマイナス0.5%であり、次いで北海道、東北ではマイナス0.4%、北関東、北陸、中国ではマイナス0.3%、首都圏、中部、関西、九州・沖縄の4地域はマイナス0.2%である。もともと就業者数の大きな首都圏、中部、関西の3地域では減少数は大きいものの、変化率では最も影響が少ないグループに属している(表2)。
3. 生産性の地域間格差
各地域で就業者数は減少するものの経済が成長するため、総生産を就業者数で割った労働生産性は上昇する。ただし地域別の労働生産性を比べると、2000年から2025年にかけての各地域の労働生産性の順位は大きく変わっていないものの、2000年で労働生産性が最大の首都圏と最小の九州・沖縄との差は227万円であったのに対して、2025年時点ではその差は451万円へと拡大している。平均的に生産性が上昇する中で差が拡大しているといっても平均値に対する割合が変わらなければ、相対的な格差は拡大していないとみることができる。最大と最小との差の地域計での労働生産性(2000年:762万円、2025年:1,019万円)に対する割合は2000年の25%から2025年の44%へと上昇しており、労働生産性の地域間格差は拡大していく(図1)。
4. 労働生産性格差拡大の要因
労働生産性を上昇させる要因は、就業者1人当たりで利用可能な機械や道具などの資本量(資本装備率という)の増加と、生産工程や設備の使い方の改善、ノウハウの蓄積、生産技術の改善などがある。後者はひとまとめに総要素生産性の上昇といわれ、広義の技術進歩を示している。
2000〜2025年間の各地域の労働生産性上昇率について、資本装備率上昇の寄与と総要素生産性上昇の寄与の2つに分けると、総要素生産性上昇の影響は北海道、東北、四国、九州・沖縄では他の地域と比べてかなり低く、北海道ではマイナスの影響を及ぼしている(図2)。労働生産性上昇率が最大であるのは首都圏で、労働生産上昇率34.6%のうち、17.3%が資本装備率上昇によるものであり、残りの17.3%が総要素生産性上昇によるものである。反対に北海道では資本装備率による生産性上昇分は17.2%あるものの、総要素生産性の寄与はマイナス2.1%であり、労働生産性の上昇は15.1%にとどまっている。
労働生産性上昇率のうち総要素生産性の変化に依存する割合を示した寄与率でみると、最大は首都圏の50%であり、以下、中部の44.4%、関西の42.0%、中国の41.5%、北陸の41.2%、北関東の35.3%、九州・沖縄23.0%、東北の14.3%、四国の10.4%、北海道のマイナス13.9%と続く。 これらの順位は労働生産性上昇率の順位とほぼ同じであり、労働生産性の地域間格差が拡大する主因は総要素生産性上昇の地域間格差であることが分かる。
5. 地域経済成長のカギ
総要素生産性は労働生産性上昇率から資本装備率の上昇率を差し引いた残差として計算されるものだから、技術進歩だけでなく消費や投資などの需要の影響を受け、好景気の時は総要素生産性が高まる傾向がある。そこで、2000年と2025年の2時点での各地域総生産の成長率を消費や投資などの個々の需要項目の伸びに要因分解すると、首都圏を除く各地域では総生産成長率に最大の寄与をしているのは民間設備投資であることが分かる(図3)。首都圏は人口減少のテンポが鈍く消費の伸びが期待できることから、総生産成長率34.6%に対して、民間消費の成長寄与度が14.5%と、民間設備投資の寄与度13.6%をやや上回るが、民間設備投資の寄与度自体も高い。このように、今後の地域経済では民間設備投資が牽引役を担うわけだが、これは民間消費や公的固定資本形成などの他の最終需要が伸び悩むことの裏返しでもある。財政再建のための歳出抑制は公的資本形成の停滞をもたらし、消費税率引き上げは民間消費にマイナスの影響を及ぼす。
6. まとめ
マクロ経済(日本経済全体)の動きを反映して、各地域の経済成長率も2000〜2025年間では年率0.2〜1.2%にとどまり、全体的に低調なものとなる。低成長の中で、地域の経済成長率は最大の首都圏と最小の北海道では1%ポイントの差がつく。その結果、今後も経済成長率の低い地域から高い地域へヒト、モノ、カネが移動することは避けられないだろう。
今後の地域経済では、投資需要のみならず、投資の結果として蓄積される資本ストックの増強を通じて、経済の活力を需給両面で増進させていくのは民間設備投資である。地域の各自治体の目から見れば、地域経済の活力を高めるためには自地域により多くの民間設備投資を誘導する必要があるということだ。
現在では、地方分権の流れのなかで、産業クラスター構想や特区制度など、各地域が活力の源となる投資誘導策を施すための自由度は広がりつつある。今後、地域をさらに豊かな社会とするためには、制度的自由度の増加を背景に、失敗の可能性に躊躇することなく積極果敢に自地域の可能性にトライしていく、そうした取り組みが求められているのではないだろうか。
(社会経済研究所 上席研究員 人見 和美)