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世界経済の展望

1. はじめに

 日本は世界とともにあり、国際経済の動向は日本経済に大きな影響を与える。特に、冷戦後、急速に進展した世界経済のグローバル化や中国を中心とした発展途上国の急速な工業化は、海外生産や輸出入、さらには経済成長や産業構造に影響を及ぼす。今後の世界経済情勢がどうなるかについて、当所が行った2025年までの展望結果を紹介する。

2. 中国経済の成長力:楽観論 VS. 悲観論

 冷戦後の世界経済においては、市場経済化や情報技術(IT)革命などを背景にグローバル化が急速に進展した。そのなかで、アジア諸国は積極的に外国資本を受けいれ工業化を進め高成長を遂げた。

 そうした中で、中国は平均7〜8%という高成長を続けている。2002年の中国の国内総生産(GDP)は10兆元の大台を突破し、実質GDP成長率も7.9%を記録した。1人当たりのGDPも、961ドルと1,000ドルの大台も間近である。江沢民前総書記は「GDPを2020年までに2000年の4倍にする」と宣言したが、これは今後20年間のGDPの成長目標を7%強とすることに等しい。

 果たして中国の高成長持続が可能かどうかについては、1994年にクルーグマンの「アジアの成長まぼろし論」を契機に論議を呼んだ。高成長の長期持続は無理とみる「悲観論」の論拠の一つが、戦後の欧州や日本、さらに韓国、台湾といった国々でみられた高成長期後の成長減速である(図1参照)。これらの国ではほぼ例外なく、20年程度の経済の高成長期を経て米国の所得水準に近づくにつれて成長減速を経験した。特に、日本や韓国では、経済の離陸期(復興期)に成長が加速し、その後低下に向かう「逆U字型成長パターン」が明瞭に観察される。過去20年間年率9%に及ぶ飛躍的な高成長を遂げた中国においても、今後は同じような成長減速に見舞われる可能性は否定できない。


(出所) グローニンゲン大学開発センター(GGDC)データより加工
図1 1人当たりGDP対米比と成長率の関係
(1950〜1998年間の5ヵ年毎の平均値)

3. 展望結果

 今回の世界経済展望では、条件付収束モデルと呼ばれる新古典派成長モデルを使った。このモデルは、経済発展が続くにつれてやがて資本蓄積に伴う収穫逓減が働き、経済成長率は徐々に低下していくとの考え方に立っている。このモデルに基づき、1960〜1998年間の61カ国の1人当たりGDP成長率を決める要因として、初期所得水準、物的・人的資本投資率、労働力人口比率(働く人の割合の指標)、輸出率などを取り上げた。初期所得水準の低い国ほど、また、投資率、労働力人口比率、輸出率が高い国ほど、経済成長率は高くなる。

 展望結果によれば、世界全体(61カ国、1998年の世界GDPの95%を占める)の実質GDPは、1973年〜1998年間では年率3.1%の成長であったが、今後2025年までの期間では、年率2.4%と0.7%ポイント程低下する。実額(90年価格、購買力平価ベース)では、1998年の31兆ドルが2025年ではその約1.9倍の59兆ドルに達する(表1参照)。

表1 世界経済の成長展望

 地域別にみると、OECD諸国は平均1.3%成長に対して、非OECD諸国は3.6%と3倍近いスピードで成長を遂げる。ただし、両地域間の成長率格差の6割は人口の成長格差によるものであり、1人当たりGDP成長率ではあまり差が開かない。その結果、2025年には、非OECD諸国のGDPシェアは6割近くと過半を占めるに至る。特に、アジア諸国(中国、アジアNIES4、ASEAN4、南アジア)の対世界シェアは1998年の29%から2025年頃には43%に上昇し、OECD諸国に匹敵する経済圏に発展する。そのなかで、中国の対世界シェアは、21%に達し、米国(16%)を上回る世界最大の経済大国となる(図2参照)。ただし、成長率は、中国当局の目標とする7%より低い4%程度と予想される。仮に、他の国の予測値が変わらずに中国が7%成長を達成するとすれば、2025年の中国のシェアは35%にも達する。中国の成長が減速するのは、資本蓄積に伴う収穫逓減、生産年齢人口比の低下という人口転換等による。


図2 実質GDPの規模とシェア
  (1990年購買力平価基準)

 1人当たりGDPでみると、中国の所得水準は8,300ドルに達し、ブラジルを上回る中所得国への仲間入りが予想される。また、アジアNIES4の1人当たりGDPは2025年に2万5千ドル弱に達し、EU諸国と肩を並べる。マレーシアやタイの所得水準も2025年には1万ドルを突破する。しかし、南アジア諸国の所得水準はなかなか改善されず、インドの1人当たりGDPのレベルは2025年時点でも4,000ドルに留まる。

4. まとめ

 世界の実質GDP成長率はこれまでの25年間と比べて今後20数年間ではほとんどの国や地域で低下する。その主な要因は人口や労働力の伸びの低下に求められる。しかし、世界全体では実質成長率は2%台半ばの伸びとなり、世界経済は堅調に推移すると予想される。そのなかで、アジア経済の成長率は、2.5%(NIES4)〜4%程度(中国、ASEAN4、南アジア)と低成長となるが、世界経済の重心は、欧米から中国を初めとするアジアに移る。

(社会経済研究所 上席研究員 桜井紀久)

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