電力中央研究所

報告書「電力中央研究所報告」は当研究所の研究成果を取りまとめた刊行物として、昭和28年より発行されております。 一部の報告書はPDF形式で全文をダウンロードすることができます。

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

EX23008

タイトル(和文)

乾湿繰返し環境下における鋼心アルミより線の異種金属接触腐食挙動

タイトル(英文)

Galvanic corrosion behavior of ACSR conductors in cyclic wet-dry environment

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
当所では、架空送電設備の高経年化に伴う保守管理を支援する研究を進めている[1]。腐食による送電線の経年劣化を予測して点検補修の優先順位を判断するためには、送電線の立地環境と腐食速度との関係を整理する必要がある。送電線のうち鋼心アルミより線(ACSR)は、特に高経年化が懸念されている。ACSRは亜鉛めっきで保護された鋼線の周りに、アルミ線をより合わせた構造である。ACSRに海塩が付着すると、湿度に応じて海塩が吸湿と乾燥を繰返し、腐食が進行する。腐食で亜鉛めっき層が消失すると、亜鉛の代わりにアルミ線が鋼線を保護するため、ACSR内層のアルミ線が優先的に腐食する。このように異なる金属が接触して生じる腐食は異種金属接触腐食注1)と呼ばれ、金属単体の腐食よりも速く進行することがある。ACSRの腐食を予測するためには、海塩が吸湿と乾燥を繰返す環境における異種金属接触腐食の進行状況を把握する必要がある。
目  的
ACSRに生じる異種金属接触腐食を連続的に検出できる測定系を構築し、乾湿繰返し環境下におけるアルミ線の異種金属接触腐食挙動を把握する。
主な成果
1. 乾湿繰返し環境下でACSRに生じる異種金属接触腐食を検出する測定系の構築
乾湿繰返し環境下でACSRの内部に生じる異種金属接触腐食を、検出できる測定系を構築した。既往の研究を参考に、本測定系ではACSRの亜鉛めっき鋼線とアルミ線とを不織布で隔てた試料注2)を用い、異種金属接触腐食を生じる電流(ガルバニック電流)を電流計で測定する仕組みとした(図1)。海塩を付着させた本試料を乾湿繰返し環境中で保持する測定系において、ガルバニック電流を連続的に測定した(図2)。
2. 乾湿繰返し環境下におけるアルミ線の異種金属接触腐食挙動
乾湿繰返し数が増加すると、ガルバニック電流は亜鉛が溶解する方向からアルミニウムが溶解する方向へ変化した。さらにアルミニウムの溶解は、時間とともに増大した(図2)。代表的な乾湿繰返しの周期(サイクル)で、アルミニウムが溶解するガルバニック電流をみると、その電流は湿度が上昇する過程で75-90%、湿度が下降する過程で40-50%の湿度でピークを示した(図3)。海塩の主成分であるNaClの潮解湿度は75%、風解湿度は46%注3)であり、このピーク挙動は、NaClの吸湿と乾燥に対応すると考えられる。
今後の展開
腐食試験による送電線の劣化データを継続して蓄積するとともに、撤去電線の腐食状況とも比較し、送電線の腐食メカニズムの解明を目指す。

注1) 腐食環境で異なる金属を接触させると金属間に電流が流れ、卑な金属の腐食が加速される現象である。この電流をガルバニック電流と呼ぶ
注2) E. Håkansson, et al. Galvanic Corrosion of High Temperature Low Sag Aluminum Conductor Composite Core and Conventional Aluminum Conductor Steel Reinforced Overhead High Voltage Conductors. IEEE Transactions on Reliability. 2015, 64(3), p.928-934.
注3) 潮解湿度とは、物質が空気中の水蒸気を吸湿して、水溶液となる湿度のしきい値である。風解湿度とはその逆の湿度であり、水溶液の水分が蒸発し、乾燥する湿度のしきい値である。

関連報告書:
[1]H21001「腐食に対する送電用鉄塔の健全性診断技術 –腐食量推定手法および検査・診断技術の個別機能と具体例– 」(2021.09)

概要 (英文)

Aluminum conductor steel reinforced (ACSR) conductors are commonly used in overhead transmission lines. The ACSR conductors are composed of aluminum strands and galvanized steel strands. Galvanic corrosion between the aluminum strands and the galvanized steel strands is a concern when the zinc coating of the galvanizes steel strands is damaged. In this study, a galvanic current measuring system was developed to investigate the galvanic corrosion of ACSR conductors in cyclic wet-dry environment. To measure the galvanic current, aluminum strands and galvanized steel strands in the ACSR sample were separated by nonwoven fabric sheets. The fabric allowed the galvanic current to flow through a zero-shunt ammeter in an external circuit. The sample was exposed to humidity cycle condition at 50 oC and the galvanic current was measured. The result showed that aluminum strands changed from cathode to anode as time elapsed. The galvanic current due to aluminum dissolution increased with time. Aluminum dissolution current showed peak values around 75-90% and 40-50% relative humidity while aluminum dissolution current was mainly observed. These humidity values agree with the deliquescence and efflorescence humidities of NaCl.

報告書年度

2023

発行年月

2024/05

報告者

担当氏名所属

中尾 和貴

エネルギートランスフォーメーション研究本部 エネルギー化学研究部門

谷 純一

エネルギートランスフォーメーション研究本部 エネルギー化学研究部門

キーワード

和文英文
架空送電線 Overhead transmission lines
海塩 Sea salt
異種金属接触腐食 Galvanic corrosion
アルミニウム Aluminum
亜鉛めっき鋼 Galvanized steel
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