電力中央研究所

報告書「電力中央研究所報告」は当研究所の研究成果を取りまとめた刊行物として、昭和28年より発行されております。 一部の報告書はPDF形式で全文をダウンロードすることができます。

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

EX24002

タイトル(和文)

原子炉圧力容器鋼の延性脆性遷移温度のばらつきに及ぼすデータサンプリングの影響

タイトル(英文)

Effect of Data Sampling on Variation of Ductile-Brittle Transition Temperature for Reactor Pressure Vessel Steel

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
原子炉圧力容器(RPV)の健全性評価においては、中性子の照射による破壊靭性の低下をシャルピーカーブ(シャルピー吸収エネルギーと温度の関係曲線)の高温側へのシフト量(関連温度移行量、シャルピー吸収エネルギーの41 Jに対応する温度T41Jの照射前後の差)により評価する(図1)。シャルピーカーブには生来的なばらつきのあることが知られており、そのばらつきはT41Jの推定に際して不確かさの要因となる。これに関し、シャルピーカーブを規定するパラメータおよびそのばらつきが既知の場合にT41Jの標準偏差を理論的に導出するモデルが提案され、その妥当性が検証されている注 )。しかし、実際のT41Jの評価では限られたデータセットからシャルピーカーブを同定する必要があって、このプロセスはまた別にT41Jの推定の不確かさの原因となる。

目  的
有限個のデータからシャルピーカーブを推定するとき、データサンプリングの仕方がT41Jの標準偏差にいかなる影響を及ぼすかを明らかにする。併せて、提案したモデルを用いて、T41Jの標準偏差を低く抑えるデータサンプリングの仕方について検討する。

主な成果
1. T41Jのばらつきのモデル
延性脆性遷移温度域のシャルピーカーブが直線に近似できて、シャルピー吸収エネルギーの標準偏差が温度に拠らず一定であるとの仮定の下、不確かさの伝播法則を利用してT41Jの標準偏差を理論的に推定するモデルを提案した(図2)。本モデルは、サンプリングパラメータγが小さいほどT41Jの標準偏差が小さくなることを示している。

2. モンテカルロ解析による検証
データをサンプリングする温度の組み合わせをパラメータとしてT41Jの標準偏差を求めるモンテカルロ解析を行った。温度の組み合わせに応じてT41Jの標準偏差は変化するが、いずれのケースにおいてもモンテカルロ解析の結果はモデルによる推定値によく一致した(図3)。相対偏差は最大で約12%であり、提案モデルの妥当性が確認されたと考える。

3. データサンプリングの仕方がT41Jの標準偏差に及ぼす影響
2つの温度(T1、T2)よりそれぞれ2点、計4点のデータをサンプリングするとき、温度の選び方がγに及ぼす影響について調べた(図4)。T1−T2平面上のγのコンターは原点を通る放射状の直線群で表される。T41Jの標準偏差を最小にする戦略としてはγを0とし、かつその値が温度のわずかな変化に敏感でないことが望ましい。そのためには、延性脆性遷移温度域のなるべく低い温度、およびその温度との平均がT41Jになるような温度、の二温度を狙うのが適切である。

概要 (英文)

In evaluating the structural integrity of reactor pressure vessel steels, T41J (the temperature corresponding to the Charpy absorbed energy of 41 J) serves as an index of fracture toughness. The Charpy curve is known to exhibit inherent variability, leading to uncertainty in estimating T41J. To address this, a model has been proposed and validated to theoretically derive the standard deviation of T41J, given the parameters defining the Charpy curve and their variations. However, the actual evaluation of T41J requires determining the Charpy curve from a limited dataset, which introduces additional uncertainty in estimating T41J. In this study, a model was proposed to estimate the standard deviation of T41J, accounting for the method of sampling, using the law of uncertainty propagation. The validity of the proposed model was confirmed through Monte Carlo analysis. We also explored ways to reduce the standard deviation of T41J caused by data sampling and found that the optimal strategy is to keep the mean of the sampled data close to T41J while sampling across the widest possible range of temperatures.

報告書年度

2024

発行年月

2024/11

報告者

担当氏名所属

三浦 直樹

エネルギートランスフォーメーション研究本部

宮代 聡

エネルギートランスフォーメーション研究本部 材料科学研究部門

信耕 友樹

エネルギートランスフォーメーション研究本部 材料科学研究部門

キーワード

和文英文
シャルピーカーブ Charpy Curve
シャルピー吸収エネルギー Charpy Absorbed Energy
延性脆性遷移温度 Ductile Brittle Transition Temperature
データサンプリング Data Sampling
不確かさ Uncertainty
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