電力中央研究所

報告書「電力中央研究所報告」は当研究所の研究成果を取りまとめた刊行物として、昭和28年より発行されております。 一部の報告書はPDF形式で全文をダウンロードすることができます。

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

GD23024

タイトル(和文)

長寿命設備の故障リスク評価に向けた故障統計解析手法の検討 ~ 二項分布に基づく誤差評価と区間推定 ~

タイトル(英文)

Study of statistical failure rate analysis for failure risk evaluation of long life equipment - Error estimation based on binomial distribution and interval estimation -

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背景
現代社会において電力流通設備は最重要な社会インフラのひとつであり、維持管理コストと想定リスクの評価に基づく合理的な保全が求められている。日本においては2023年からの新託送料金制度にて設備の故障リスク評価に基づく設備更新計画立案のためのガイドラインが採用されたが注1)、その際各種設備の故障率評価を今後さらに精緻化するため、日本の設備実態調査を進めることが提言されている。長期間にわたる運用が期待できる電力流通設備の故障特性を把握するためには実フィールドでの運用実績データ注2)を活用した統計解析が必要だが、低故障率で幅広い経年分布を持つ設備群が対象となるため、そこから得られるデータの特徴に合わせた適切な解析手法を選択せねばならない。
目的
低故障率で幅広い経年分布を持つ設備群を対象に、その運用中に得られると想定される故障発生データを用いて故障率特性を推定する手法を提案する。
主な成果
従来行われてきた累積ハザード法注3)による故障統計解析において、確率的事象である故障発生のばらつきが解析結果に大きく影響すること、またばらつくことで生じている誤差注4)の評価方法が必ずしも適切でないことを明らかにし、以下を提案した。
1. 誤差評価改善法の提案
累積ハザード法では、各経年での累積ハザードを両対数グラフ上で最小二乗法により直線回帰するが、本報告書で解析対象とするデータのように無視できない誤差が含まれうる場合は適切とは言えない。そこで故障発生のばらつき度合いを経年別に二項分布から推定し注5)(図1)、グラフ上で対数変換される影響も考慮した上で重み付け回帰分析を行う手法を提案した。
一例として、経年が浅い少数の設備の一つに故障が発生した場合の影響を確認した。このような場合、累積ハザード法では図2(a)のように経年の浅いプロットに過剰に影響された回帰を行う一方、本提案手法では各プロットの重みが加味されて図2(b)のように回帰された結果、図3のように推定故障率特性に差異が生じることを明らかにした。
2. 誤差発生をふまえた故障率-経年特性推定手法の提案
故障データには二項分布上のばらつきに応じて必ず誤差が含まれる。リスクマネジメントの観点では故障率の過小評価は避けるべきで、このばらつきをふまえた安全側の評価が必要である。誤差の出方は設備数経年分布と故障率に依存するため、評価対象設備群に対して運用実績データから推定される故障率を用いた故障発生シミュレーション注6)を複数回行い、そのばらつきから安全側の推定故障率特性を得る手法を提案した(図4)。
注1)OCCTO, 高経年化設備更新ガイドラインの策定および公表について, https://www.occto.or.jp/kouikikeitou/guidelines/20211217_guideline.html , (参照 2024-02-06)
注2)稼働中設備の台数経年分布と故障した設備の経年情報。これを複数年にわたり調査し、経年ごとに稼働数と故障数を整理して分析する。経年ごとに稼働数は異なり、一般に経年の浅い範囲と高経年の範囲では特に少なくなる。
注3)故障特性を経年の関数としてワイブル分布関数にフィッティングする手法の一つ。各経年での推定故障率(経年別の故障数/稼働数)を経年の浅い順に累積した値(累積ハザード)を対数グラフにプロットして直線回帰を行う。
注4)ある経年における故障率に対し、確率的に発生する故障の数は整数値であり、それを設備数で割った値は故障率の近似値、すなわち誤差を含むもの、と考えられる。
注5)稼働数と故障数が与えられたときに想定される故障率は、二項分布から求められる図1のような尤度関数に従う。この分散は各経年での稼働数および故障数、そして故障率の最尤推定値から求められる。
注6)経年分布のある設備群に対し、経年で決まる故障率の値に対する乱数の値により故障発生有無を決める[1]。
関連報告書:
[1]GD21025「長寿命設備を想定した運用実績に基づく故障統計解析手法の検討」(2022.05)

概要 (英文)

In developed countries, the maintenance of ageing electrical power equipment is an important issue, and rational measures are being taken using asset management techniques. Rational maintenance and renewal planning based on risk analysis is required, and to perform such risk analysis, it is necessary to accurately estimate the failure rate according to the age of the equipment to be evaluated. One of the methods for understanding ageing characteristics is statistical analysis of equipment operating data such as failures and operating records. However, there are some points to consider when applying this method to equipment that can be operated for a long period of time, has a wide age distribution and is expected to have high reliability through preventive maintenance. Generally, failure statistical analysis involves linear regression, which assumes errors of equal variance in the observed data. However, this approach may have some problem when non-negligible errors are present. It is required regression analysis with appropriate weights and the estimation of appropriate prediction intervals.
In this report, the utilization of variance in binomial distributions and prediction interval estimation by failure occurrence simulation have been proposed, and the safety side estimation method for the failure rate is realized.

報告書年度

2023

発行年月

2024/06

報告者

担当氏名所属

高橋 紹大

グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門

キーワード

和文英文
故障統計解析 failure data analysis
電力流通設備 transmission and distribution equipment
運用実績 operational data
二項分布 binomial distribution
アセットマネジメント asset management
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