電力中央研究所

報告書「電力中央研究所報告」は当研究所の研究成果を取りまとめた刊行物として、昭和28年より発行されております。 一部の報告書はPDF形式で全文をダウンロードすることができます。

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

GD24006

タイトル(和文)

発電機固定子巻線の絶縁破壊電圧推定手法の改良-撤去固定子巻線のサンプリング試験結果評価方法-

タイトル(英文)

Improving Method for Estimating Dielectric Breakdown Voltage of Power Generator Stator Windings- A Method for Evaluating Test Results of Sampled Coils -

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
発電機固定子の絶縁診断では、部分放電試験を行い、最大放電電荷量から絶縁破壊電圧を推定している。この手法の高精度化のため、当所では、撤去固定子巻線に対する試験を実施し、最大放電電荷量と絶縁破壊電圧データの蓄積を継続している。しかし、巻線注1)状態で絶縁破壊試験を成功させることが困難注2)な場合が多く、この場合は巻線から10本程度注3)のコイルを無作為抽出してサンプルとし、各コイル試料の最大放電電荷量と絶縁破壊電圧を測定するサンプリング試験を行っている。サンプリング試験結果から3σ法注4)により巻線データ注5)を推定し、巻線状態で測定できた巻線データと合わせて、最大放電電荷量と絶縁破壊電圧の回帰分析を行っている[1]。3σ法では、サンプルの平均値と標準偏差を用いるが、サンプルサイズ(コイル試料数)が小さいと特に標準偏差の推定誤差が大きく、その精度が低いことが課題であった。
目  的
3σ法を用いず、サンプリング試験結果の極値(コイルの最大放電電荷量の最大値、絶縁破壊電圧の最小値)から巻線データを推定する方法を提案する。また提案手法を3σ法と比較し、その優位性を示す。
主な成果
1. サンプリング試験結果の極値から巻線データの回帰直線を導出する手法の提案
固定子巻線をコイルの無限母集合から無作為抽出された数百本のサンプルの一種とみなし、巻線状態での巻線データの測定とサンプリング試験とはサンプルサイズのみが異なるとする考え方を考案した。この考え方に基づき巻線データとサンプリング試験結果の極値とから導出した回帰直線の差を統計学的に評価し、サンプリング試験結果の回帰直線と巻線データの回帰直線とが同じになるよう、両者の差を補正する補正項∆Y注6)を導出した( 図1 )。これにより、これまでに蓄積したサンプリング試験結果の極値から巻線の最大放電電荷量と絶縁破壊電圧の回帰直線の導出を可能とした。
2. 提案手法と従来手法(3σ法)との比較
最大放電電荷量と絶縁破壊電圧の真の回帰直線を仮定し、モンテカルロシミュレーションにより、提案手法と3σ法とで求めた最大放電電荷量と絶縁破壊電圧の回帰直線を比較した(図2)。その結果、通常の試験で採用するサンプルサイズにおいて、3σ法よりも提案手法で求めた回帰直線の方が真の回帰直線との乖離度が低く、提案手法の方が精度よく回帰直線を推定できると期待できることを示した。

注1)重ね巻の場合、六角形の辺を1周したような形状の「コイル」が、鉄心に設けられた溝に複数本入れられ、三相回路を成すように接続された状態を「巻線」と呼ぶ。
注2)絶縁破壊電圧が高い場合には、主絶縁層で絶縁破壊する前に、鉄心端から沿面放電が発生・進展し接続部などの弱点箇所との間で沿面閃絡するか、課電装置の過電流抑制リレー(OCR)が動作して試験終了することが多い。
注3)サンプリング試験で無作為に抽出する試料の個数は「サンプルサイズ」または「標本の大きさ」と統計学では呼ばれる。本報告では、巻線もサンプルの一種ではあるがサンプリング試験のサンプルと区別し、巻線を構成するコイルからその一部を無作為に複数個抽出した部分集合を「サンプル」と呼び、サンプルを構成する各コイルを「試料」と呼ぶこととする。
注4)サンプルの平均値と標準偏差を用いて、平均値±3×標準偏差をそれぞれ巻線の最大値、最小値と推定する。
注5)巻線状態では各コイルの最大放電電荷量の最大値と各コイルの絶縁破壊電圧の最小値のみが測定可能であり、 これらを合わせて巻線データと呼ぶこととする。絶縁破壊電圧が低い巻線では実際に巻線状態で測定できたデータもある。
注6)本来であればサンプリング試験における各コイルの最大放電電荷量の最大値から巻線の最大放電電荷量、すなわち巻線に含まれる全コイルの最大放電電荷量の最大値を推定するための補正項(∆X)も使って巻線データを推定すべきであるが、本報告は巻線データの回帰直線を求めることを目的としているため、∆Xの影響も考慮に入れて絶縁破壊電圧のみを補正する補正項(∆Y)を導出した。このため、本報告の提案手法で補正されたサンプリング試験結果は対象巻線の巻線データを推定したものではないが、巻線データと同列に扱う。

参考文献:
[1] R&D NEWS KANSAI Vol.475-6.「発電機固定子巻線取替え基準見直しに関する研究」(2013.09)

概要 (英文)

Estimating the dielectric breakdown voltage is essential to determine the replacement of power-generator winding. An estimation method from partial discharge measurement is widely employed in electric power companies in Japan. This method utilizes a regression line between dielectric breakdown voltage and the largest repeatedly occurring partial discharge magnitude (Qmax). Gathering these data is essential to improve the regression line; however, successful dielectric breakdown tests of full winding are rare because surface breakdown occurs in most cases. Therefore, partial discharge measurement and dielectric breakdown test of coils sampled from stator winding are conducted. The so-called 3-sigma method is employed to estimate dielectric breakdown voltage and Qmax of the winding from the test results of the sampled coils. However, the accuracy of this method is insufficient. This report proposes a new method to handle the test results of sampled coils based on a new concept that a winding composed of several hundreds of coils is also a sampled coil from the infinite population of coils. The proposed method utilizes the lowest dielectric breakdown voltage and the largest Qmax in the test results of the sampled coil to obtain the regression line.

報告書年度

2024

発行年月

2025/01

報告者

担当氏名所属

金神 雅樹

グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門

中村 信

グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門

倉石 隆志

グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門

宮嵜 悟

グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門

キーワード

和文英文
最大放電電荷量 Largest repeatedly occurring partial discharge magnitude
絶縁破壊電圧 Dielectric breakdown voltage
絶縁診断 Dielectric insulation diagnosis
標本調査 Sampling survey
発電機 Power generator
Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry