電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
GD24010
タイトル(和文)
DC潮流計算の位相情報を用いたリニューアル版CPATのAC潮流計算における電圧初期値設定方法の改良
タイトル(英文)
An Improvement of Voltage Initial Value Setting Method in AC Load Flow Calculation of CPAT Renewal Version Using Phase Angle Information from DC Load Flow Calculation
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
潮流計算は電力系統の電圧・潮流を評価するため様々な場面で活用される。再生可能エネルギー電源(再エネ)の導入拡大により、同期発電機の並列台数が減少し電圧が変動しやすい系統状況になると、潮流計算も収束しづらくなる。当所では電力系統統合解析ツールCPATのリニューアル版のAC潮流計算(AC法)としてLFAを開発しており注1) 、その数値解法としてニュートン・ラフソン法(NR法)を用いている。LFAでは収束計算の電圧初期値設定方法としてフラットスタート注2)を用いているが、その収束改善のためには、良い初期値の設定が必要となる。
目 的
DC潮流計算(DC法)注3)を用いて最終解に近い初期値を設定する方法を考案し、LFAに実装する。試算系統モデルを用いて収束回数の低減効果について検証する。
主な成果
1. DC法の位相情報を用いたLFAの電圧初期値設定方法の改良と実装
LFAの電圧初期値設定方法の改良として、DC法から概略的に得られる各ノードの位相(DC位相)を設定する方法(提案方法1)と、予め想定した複数の位相情報からDC位相に最も近接する値を選択する方法(提案方法2:マルチスタート)を考案し注4)、LFAに実装した(図1、図2)。このとき、DC位相をLFAの最終解の位相に近づけるため、DC法では送電損失を考慮した。DC法は実装が容易であるため、提案方法は収束回数の改善策として導入しやすい方法である。
2. 試算系統モデルを用いたLFAの電圧初期値設定方法の性能検証
電気学会標準モデル、実規模相当系統モデル注5)を用いて検証を行い、次の結果を得た。
① 送電損失を考慮することで、LFAとDC法の位相の誤差を低減できること(図3)
② 提案方法1、提案方法2を用いて電圧初期値の位相を設定することで、LFAの収束回数を従来方法よりも低減できること(表1)
特に、提案方法1は真値を初期位相として設定した場合の収束回数に近い結果が得られた。このときのLFAの収束過程の電圧分布を図4(a)、図4(b)に示す。従来方法(フラットスタート)の場合、初期解と最終解の乖離が大きいため、収束までに計算回数を要するが、DC位相を利用することで最終解に近い初期解から収束計算を開始でき、収束回数を低減できる。以上より、DC法を利用したLFAの電圧初期値設定方法に関する有効性が検証できた。
注1)野本悟史、小関英雄. 潮流計算プログラムLoad Flow Analyzerの開発-L法の課題を踏まえた解析機能の拡張-. 電力中央研究所 研究報告 GD23015. 2024
注2)NR法は初期値に依存しやすいが、その初期値(各ノードの電圧位相)は事前に決められないため、一般的には0位相を初期値として設定する方法(フラットスタート)が用いられる。
注3)DC 法は電力系統を近似模擬した潮流計算方法である。AC法で扱う非線形方程式を線形近似表現することで高速に計算できる。概略の位相・潮流を得ることができるが、精緻な電圧・潮流結果は得ることができない。
注4)提案方法1は電圧の大きさと全ノードのDC位相を用いるため、LFA初回時にノード間の電圧差と位相差による電力・電流ミスマッチとヤコビアンが値(以下、初期偏差)をもつ。フラットスタートは全て0位相のため電圧のみが初期偏差に影響する。提案方法2は中間的な方法で同一初期位相を用いるノードでは位相差による初期偏差が発生しない。NR法は初期値依存性が強いため、初期偏差の影響度合いが異なる2️種の方法を提案した。
注5)ノード数620、ブランチ数759の一般送配電事業者における実規模相当の系統データ。
概要 (英文)
A load flow calculation is used to evaluate voltage and power flow in various situations. In the future, as the number of synchronous generators in parallel operation decreases in the grid, the voltage will be more likely to fluctuate, and the load flow calculation will be more difficult to converge.
We are developing the load flow analyzer (LFA) of CPAT-R, a renewal version of the power system analysis tools, and the LFA uses the Newton-Raphson method as a numerical calculation technique. Since the Newton-Raphson method is sensitive to initial values, it is possible to improve convergence performance by providing good initial values. Therefore, to reduce the number of convergence iterations, we improved the voltage initial value setting method in LFA using the phase angle obtained by the DC Load Flow Calculation (DC method). Two initial value setting methods are proposed: one uses the approximate DC angle obtained by the DC method, and the other uses multiple pre-assumed initial points. In the latter method, each node's initial point is used as the closest point to the DC phase angle.
The effectiveness of these proposed methods was confirmed using the IEE Japan standard model and a real-scale power system model. It was confirmed that both methods could reduce the number of convergence iterations compared to the conventional flat start method.
報告書年度
2024
発行年月
2025/03
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
小関 英雄 |
グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門 |
共 |
野本 悟史 |
グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
CPAT | CRIEPI's Power System Analysis Tools |
AC潮流計算 | AC Load Flow Calculation |
ニュートン・ラフソン法 | Newton-Raphson Method |
DC潮流計算 | DC Load Flow Calculation |
送電系統 | Transmission System |