電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
GD24018
タイトル(和文)
過電流制限を模擬した実効値解析用Grid-Formingインバータモデルの提案
タイトル(英文)
Proposal of Grid-Forming Inverters Model with Overcurrent Limitation for Root Mean Square Analysis
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
電力系統の系統安定性を維持する技術の一つとして,Grid-Formingインバータ注1)(GFM)が注目されており,過渡安定性注2)等の評価のための実効値解析用GFMモデルが国内外で提案されている注3)。一方で,GFMに備わる過電流を制限する制御(過電流制限制御)注4)が,過渡安定性に影響を及ぼす可能性がある。しかしながら,現時点で提案されている実効値解析用GFMモデルでは,種々の過電流制限制御の応答を模擬することは困難となっていた注5)。
目 的
代表的な過電流制限制御の2方式を対象に,これらの応答を模擬可能な実効値解析用GFMモデルを提案する。また,瞬時値解析モデルとの比較により妥当性を確認する。
主な成果
1. 代表的な過電流制限制御の応答を模擬可能な実効値解析用GFMモデルの提案
代表的な過電流制限制御であるVirtual Impedance方式注6)(VI方式)とCurrent Limiter方式注7)(CL方式)に着目し,これらの応答を模擬可能な実効値解析用GFMモデル(図1)を提案した。提案モデルの概要は以下の通り。
・実効値解析の時間領域において,基本的にはGFMは電圧源として振る舞い,過電流制限時は電流出力が一定となるため,電圧源と電流源の切り替えによって過電流制限を模擬する注8)。
・過電流制限時の応答を模擬する電流源において,電流の大きさは固定値とする。また,電流位相角については,過電流制限制御のパラメータ(VI方式における仮想インピーダンスのR/X比),GFMから系統側をみたテブナン等価インピーダンス注9)のR/X比等で構成される関係式注10)を用いて,電流位相角を決定する。
2. 瞬時値解析モデルとの応答比較による提案モデルの妥当性確認
提案モデルを電力系統動特性解析プログラム(当所Y法)に試実装し,VI方式やCL方式の制御ロジックをそのまま組み込んだ瞬時値解析モデルと,電圧ステップ変化時および位相跳躍時の応答を比較した。図2に示すように,両モデルの応答は概ね一致し,提案モデルはGFMにおける以下の応答を模擬可能であることを確認した。
・過電流制限の開始および制限の解除
・適用する過電流制限制御の方式やそのパラメータによって変化する出力応答
注1) 電圧源動作に基づく出力応答により,電圧・周波数の維持に貢献する。
注2) ここでは,系統擾乱時に電力系統内の同期機やGFMが同期を維持できるか否かを示す安定性を過渡安定性と称する。
注3) 例えば,Western Electricity Coordinating Council(WECC)の汎用モデルや,国内メーカが提案したモデルなどが挙げられる。
注4) 過電流に伴う機器損傷を防止するための制御であり,大きな電圧低下や位相跳躍に対して動作しやすい。
注5) 過電流制限制御は実効値解析の計算刻み時間(一般に10 ms程度)より短い時間で応答するため,過電流制限制御の制御ロジックを実効値解析モデルにそのまま組み込むことはできない。
注6) VI方式では,ソフトウェア上に設けた仮想的なインピーダンスを制御することでGFMの出力電圧を変化させ,過電流を間接的に制限する。
注7) CL方式では,電流出力の指令値にリミッタを設けて過電流を直接的に制限する。
注8) 注3)で例示した国内メーカによる提案モデルでも,電圧源と電流源の切り替えによって過電流制限が模擬されているが,電流源の位相角の指定・算出方法については明示されていない。
注9) 高調波除去フィルタのコンデンサ端から系統側に電流を注入するとき,その電流変化に対するコンデンサ端の電圧変化の比を表す。
注10)本研究にて,テブナン等価インピーダンスを用いたフェーザ図より考察し,この関係式を導出した。
概要 (英文)
Grid-forming Inverters (GFMs) are considered as a solution to enhance power system stability, and several root mean square (RMS) models of GFM have been proposed to evaluate their performance. However, these models cannot accurately simulate the response of various overcurrent limiting control methods.
In this study, we propose a RMS model of GFM that can simulate the responses of two types of the overcurrent limiting control methods: Virtual Impedance method (VI method) and Current Limiter method (CL method). The outline of the proposed model is as follows.
- The dynamic behavior is represented as a voltage source under normal conditions and as a current source during overcurrent limiting.
- During overcurrent limiting, the magnitude of the current is fixed. The phase angle of the current depends on the R/X ratio of Thevenin equivalent impedance and the virtual impedance in the VI method.
The validity of the response of the proposed model was confirmed by comparing the response of a model built in the electromagnetic transient (EMT) analysis where VI or CL method is implemented.
報告書年度
2024
発行年月
2025/04
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
平川 遼太郎 |
グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門 |
共 |
白崎 圭亮 |
グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門 |
共 |
天野 博之 |
グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
Grid-formingインバータ | Grid-forming inverter |
実効値解析 | Root mean square analysis |
過電流制限 | Overcurrent limiting |
テブナン等価インピーダンス | Thevenin equivalent impedance |