電力中央研究所

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

SE21002

タイトル(和文)

需給調整市場における相場操縦の内容の考察―英国での事例の検討―

タイトル(英文)

Consideration of the nature of market manipulation in Balancing Energy Market - Review of Cases in the United Kingdom -

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
日本では、調整力の広域的な調達と運用を通じ、需給調整の一層の効率化を図ることを目的に、2021年4月に需給調整市場が創設された。
適正な電力取引に対する指針(適正取引ガイドライン)では、需給調整市場において相場操縦となる行為として、①「市場相場を変動させることを目的として市場相場に重大な影響をもたらす取引を実行すること又は実行しないこと」とともに、②「市場相場を変動させることを目的として需給調整市場の需給・価格について誤解を生じさせるような情報を広めること」を規定している。しかし、電力・ガス取引監視等委員会制度設計検討部会での検討の主な対象が「需給調整市場での価格規律と監視のあり方」であったこともあり、②についての検討は、①と比べ、必ずしも十分になされていたとは言えない。
目  的
英国での需給調整を行うための仕組みであるBalancing Mechanism (BM)において相場操縦を行ったとして、2020年から2021年にかけ、英国の電力市場規制機関であるOfgemが公表した、3つの事例(表)について検討する。それを通じ、需給調整市場において相場操縦行為として規制されるべき行為の内容、特に入札価格をつり上げる行為や、それを目的とした売り惜しみといった行為以外で、どのような行為が相場操縦に該当するとされるのかという点について明らかにする。
主な成果
本章で検討した3つの事例では、市場参加者が価格以外のパラメータ(発電計画値であるPhysical Notification (PN)、発電ユニットが安定して系統の電力を投入できる最低出力であるStable Export Limit (SEL)、発電ユニットが指令を受けて、非ゼロレベルで運転できるようになるまでの最小時間であるMinimun Non Zero Time (MNZT))について「正確ではない値」を提出したことが問題とされた(表)。
規制当局であるOfgemは、これらの行為を欧州エネルギー市場における不公正取引規制であるREMIT (Regulation on Wholesale Energy Market Integrity and Transparency)が定める相場操縦の類型のうち、「卸売エネルギー商品の価格を人為的に維持する又は維持しようとすること」ではなく、「市場において虚偽又は誤ったシグナルを与える架空の手段又はその他の形態の欺瞞若しくは策略を用いること」あるいは「卸売エネルギー商品の供給、需要、価格に関し、その情報が虚偽又は誤ったものであると知っていたか、知りうべき状態であったにもかかわらず、虚偽又は誤ったシグナルを与えること」に該当するとした。すなわち、「正確でない値」が、虚偽または誤ったシグナルを与えることが問題とされた。
「正確ではない値」は、SELやMNZTのようなDynamic Parameterについては、ユニットの真の運転特性の現状又は期待される状況を合理的に反映していないものであり、より大きな利益を得ようといった取引上の理由をこれらのパラメーターに反映させることは認められないとされた。一方PNについては、取引上の理由からの値の設定は認められる余地があるが、それゆえに意図的に誤った情報を提出する行為は、市場の健全性に対する悪性が高いと評価された。
日本の電力市場における不公正取引の規制は、REMITの規制の体系を参考としたものとなっている。英国のBMと日本の需給調整市場は、その構造や仕組みが異なる点もあり、英国の議論を直接日本に当てはまることはできない。しかし、いかなる行為が「市場の需給・価格について誤解を生じさせるような情報」に当たるのかという点を検討する上では、参考となりうる。
今後の展開
需給調整市場を始めとして、日本での電力市場が拡大していく中、市場の健全性を確保するための規制のあり方について引き続き検討していく。

概要 (英文)

In Japan, balancing energy market was partially introduced in April 2021. Discussions on market manipulation in wholesale electricity markets, including balancing energy market, have mostly focused on price positioning, while other violations have not been sufficiently discussed. In this report, we examine cases in the UK's Balancing Mechanism in which requirements other than price manipulation have been found to constitute market positioning, and discusses what kinds of activities are considered to constitute market manipulation. In these cases, the submission of inaccurate values for parameters other than price by market participants is considered to be market manipulation when the market participants enter into any transaction or issue any order to trade in wholesale energy products which gives, or disseminate including the internet, or by any other means, which gives, or is likely to give, false or misleading signals as to the supply of, demand for, or price of wholesale energy products, including the dissemination of rumours and false or misleading news, where the disseminating person knew, or ought to have known, that the information was false or misleading. For the Dynamic Parameter, which indicates the technical characteristics of the generating unit, a value that does not reasonably reflect the current or expected status of the true operating characteristics of the unit is considered to be an inaccurate value. However, it is not easy to determine from the outside whether the submitted values truly reflect the status of the operating characteristics.

報告書年度

2021

発行年月

2022/03

報告者

担当氏名所属

丸山 真弘

社会経済研究所

キーワード

和文英文
需給調整市場 Balancing Energy Market
バランシングメカニズム Balancing Mechanism
英国 the United Kingdom
相場操縦 Market Manipulation
REMIT REMIT
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