電力中央研究所

報告書「電力中央研究所報告」は当研究所の研究成果を取りまとめた刊行物として、昭和28年より発行されております。 一部の報告書はPDF形式で全文をダウンロードすることができます。

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

Y20004

タイトル(和文)

わが国の電力先物市場におけるリスクプレミアムの実証分析

タイトル(英文)

Empirical analysis of risk premium in the Japanese electricity futures market

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
電力スポット市場のボラティリティ増加に伴い、リスクヘッジの必要性が高まっており、その一手段として電力先物の活用が期待される。諸外国では、電力先物のリスクプレミアムが正となる傾向が知られているが、その要因については不明な点も多い。市場参加者がリスクプレミアムについての理論的な背景を理解し、さらに実証的な分析を通じた裏付けを得ることで、わが国の電力先物市場の効率的活用が促される期待がある。

目  的
先行研究サーベイに基づき、リスクプレミアムの定義と意味を明確化するとともに、諸外国の電力先物市場において、一般的に正のリスクプレミアムの存在が確認されていることの理論的背景を探る。また、TOCOM(東京商品取引所)の電力先物市場におけるリスクプレミアムを実際に測定し、需給構造の経年変化といったファンダメンタルズに基づく解釈を与えるなど、実務での活用に向けた示唆を得る。

主な成果
1. 先行研究を踏まえた電力先物リスクプレミアムに関する理論的背景の整理
先行研究を踏まえ、「先物価格」と「スポット価格の期待値」の差分で定義されるリスクプレミアムが、①「リスク引受けの対価」と②「先物市場の非効率性」の2つの要素から構成されることを明確に示した上で、先物市場の流動性が高まるにつれて、後者の要素が縮小し、前者の要素に収束していくことの論理的背景を示した。さらに、電力先物市場においては、一般的に、発電設備を持たない買い手(小売電気事業者)の方が市場リスクに対する柔軟性を持たないため、売り手(発電事業者)よりもリスク回避性向が高く、ゆえに正のリスクプレミアムが存在する傾向があることを、具体的な事例を用いて明らかにした。
2. TOCOMの電力先物市場におけるリスクプレミアムの実証分析
(i) TOCOMの電力先物市場には、総じて有意な正のプレミアムがあることを示し、諸外国市場と同様に買い手のリスク回避性向が高い市場環境となっていることを確認した。(ii) 東エリアよりも西エリアで、需要期よりも中間期の限月で、リスクプレミアムが大きくなっている傾向を捉え(図1)、太陽光発電由来の価格変動に連動したリスクプレミアムが、特に西エリアに存在する可能性を示した。ただし、需要期に観測された負のリスクプレミアムは、諸外国を対象とした先行研究に照らすと一般的ではないことから、TOCOMの電力先物市場が効率的ではなく、それゆえに当該期間を含めて実勢価格を反映していない可能性があることも指摘した。 (iii) 各商品ともに、市場開始直後よりもリスクプレミアムの大きさが縮小傾向にあることを明らかにし(図2)、先物市場の非効率性が上場直後よりは改善されてきている可能性があることなどの示唆を得た。
3. スポット価格のファンダメンタル分析と先物リスクプレミアムに対する示唆
リスクプレミアムの測定に必要となるスポット価格の予測に際しては、太陽光発電の導入拡大等に伴う需給構造の変化を模擬できるようなモデルを構築した。その推定結果から、スポット価格に対する気温感応度の大きさが経年的に拡大傾向にあること(図3)、予測モデルの当てはまりや燃料価格の感応度が縮小傾向にあることなどを明らかにした。これらの結果からは、長期予測が困難である気象条件との連動性が強まるに従い、スポット価格の予測が難しくなってきていることが示唆され、先物を用いたヘッジニーズが高まっていくことが想定される。すなわち、成果1の理論整理で述べた①「リスク引受けの対価」に由来して本来的に存在する正のプレミアムが今後増大していく一方で、②「先物市場の非効率性」に起因するプレミアムについては、成果2-(iii)で述べたように解消していくことが推察できる。

概要 (英文)

As one year has passed since the start of the Japanese electricity futures market, this report analyzes its risk premium. After discussing the logical background of the components of the risk premium based on the survey of previous researches, we analyze the risk premium using the data in the electricity futures market of Tokyo Commodity Exchange (TOCOM) and provide the interpretation from multiple perspectives.
The empirical results demonstrated that TOCOM's electricity futures have a significant positive risk premium overall, similar to the results observed in the electricity markets of many countries, and the risk premium has relatively shrinked since the start of futures market trading as corresponding to the improvement of inefficiencies. The risk premium tends to be higher in the west area than in the east and in spring/fall than in summer/winter, which may suggest the existence of a risk premium that responds to price fluctuations caused by photovoltaic power generation. However, the negative risk premium was observed around summer, which may stem from the fact that the TOCOM's futures market remains inefficient and does not reflect prevailing prices.
For the spot price forecast, which is needed to measure the risk premium, we built a model focused on representing changes in the supply and demand structure in recent years, and the estimation results revealed that the amplitude of temperature sensitivity to spot prices is increasing year by year. Evidently, it is becoming more difficult to predict spot prices as the influence of weather conditions becomes stronger, suggesting that the premium as compensation for bearing the spot price risk may increase in the future.

報告書年度

2020

発行年月

2021/03

報告者

担当氏名所属

松本 拓史

社会経済研究所 事業制度・経済分析領域

遠藤 操

社会経済研究所 事業制度・経済分析領域

キーワード

和文英文
電力先物市場 Electricity futures market
リスクプレミアム Risk premium
市場の非効率性 Market inefficiency
スポット価格予測 Spot price forecasting
気温感応度 Temperature sensitivity
Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry