電力中央研究所

報告書「電力中央研究所報告」は当研究所の研究成果を取りまとめた刊行物として、昭和28年より発行されております。 一部の報告書はPDF形式で全文をダウンロードすることができます。

※ PDFのファイルサイズが大きい場合には、ダウンロードに時間がかかる場合がございます。 ダウンロードは1回のクリックで開始しますので、ダウンロードが完了するまで、複数回のクリックはなさらないようご注意願います。

電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

L07002

タイトル(和文)

放射線誘発バイスタンダー応答研究の動向とその重要性

タイトル(英文)

Importance and Present State of the Research in Radiation-induced Bystander Response

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

低線量放射線が生物に与える影響は、高線量放射線の場合とは大きく異なることが明らかになりつつある。近年、ICRP 1990年勧告以降の新しいパラダイムとして、放射線によるDNA初期損傷に直線起因しない「非標的効果」が注目されるようになった。バイスタンダー応答は、その最も特徴的な現象であり、放射線が直接ヒットした細胞の周辺に存在する放射線がまったくヒットしなかった細胞に生じる生物応答である。放射線がヒットしなかった細胞にも生物影響が誘導されるのであれば、直線閾値無しモデル(LNTモデル)による低線量域のリスクよりも高くなる(過直線モデル)と推測されることから、低線量放射線のリスクを考える上で極めて重要である。本報告書では、放射線誘発バイスタンダー応答研究および次々に開発されていく生物照射用マイクロビーム装置の現状を調査・整理し、低線量放射線のリスク評価における問題点を明らかにし、その解決のための方向性を示す。
主な成果として、バイスタンダー応答に関する既往研究を調査し、その現状と課題を明らかにした。
(1) 主に低線量のα線を用いた研究を元に、バイスタンダー応答が誘導されれば、LNTモデルによる低線量域のリスクよりも高くなると考えられているが、その反面、適応応答を誘導して細胞生存率を向上させることも明らかになっている。低線量のX線、γ線での結果が明らかでなく、線量評価方法も未確立である。
(2)バイスタンダー応答の伝達方法には、ギャップ結合などの隣接細胞間での伝達と、活性酸素種、サイトカイン・増殖因子、NOラジカルなどによる分泌性因子による伝達が見出されている。しかしながら、バイスタンダー応答の根本的な原因となる分子機構と、細胞・組織による応答の違いなどが未だに解明されていない。
(3)ICRPの2007年勧告では、バイスタンダー応答等における知見は、放射線防護の目的で取り入れるには不十分であり、ヒトの疫学研究に含まれているはずであるという理由から、リスク評価体系に取り入れられなかった。一方、関連する学術論文数は2000年以降著しく増加し、現在最も注目されている課題の一つとなっている。
以上を踏まえ、今後バイスタンダー応答によるリスクを正しく評価するための方策を検討し、以下が必要であることを明らかにした。
・細胞集団の一部や細胞内の一部分のみ、マイクロビーム等により照射された場合の結果とブロードビームでの結果を対比するための線量評価方法の確立
・低線量のX線、γ線でのバイスタンダー応答の検証
・バイスタンダー応答の根本的な原因となる分子機構(DNA損傷等)の解明
・生物種、組織間等でのバイスタンダー応答の相違の解明
当センターでは、平成18年度に低線量X線によるバイスタンダー応答の解明を目的とし、世界初の共焦点レーザー顕微鏡一体型マイクロビームX線照射システムを導入した。今後の課題として、マイクロビームと低線量率長期照射設備を用い、低線量・低線量率放射線に対する生物応答におけるバイスタンダー応答の役割を、分子機構に基づいて明らかにすることにより、低線量放射線リスクの適切な評価に資する。

概要 (英文)

Recently, accumulating evidences have reported non-targeted effects, which are not a direct effect of the initial damage produced in cellular DNA. Radiation-induced bystander responses (RIBR) are the most important non-targeted effect, which are defined as cellular responses which have not been directly induced by radiation but are induced in the neighborhood cells of the directly irradiated. Here the importance and current issues of RIBR in the low dose radiation risk assessment were reported through the summary of present topics of RIBR and microbeam probes of radiation responses. Non-targeted effects include adaptive responses, low dose hypersensitivity, genomic instability, gene expression, inverse dose rate effect and bystander responses, which have common features that saturate with increasing dose. The accumulating evidence of the results obtained using alpha-particles suggests that a linear extrapolation of risks from high to low doses would underestimate the risks at low doses. However, in the 2007 recommendations of the ICRP, it has been concluded that knowledge of the roles of bystander cell signaling in the genesis of radiation-induced health effects is insufficiently well developed for radiological protection purposes. Now the study of RIBR is considered that one of the most important study to clear the mechanisms of the effect of low dose radiation. RIBR is mainly mediated by cell-to-cell communication via gap-junction and/or secreted factors, i.e., ROS, cytokines and growth factors and NO radicals, and is transferred at least up to 7.5 mm away from targeted cells. RIBR contributes to the induction of radiation adaptive responses. To elucidate the mechanisms of RIBR many microbeam irradiation devices are in operation or underdeveloped. Our experimental plans and the problems of the study of RIBR are also shown in this report.

報告書年度

2007

発行年月

2008/06

報告者

担当氏名所属

冨田 雅典

原子力技術研究所 放射線安全研究センター

キーワード

和文英文
バイスタンダー応答 bystander response
マイクロビーム microbeam
低線量放射線 low dose radiation
適応応答 adaptive response
放射線感受性 radiation sensitivity
Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry