経済社会研究所

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No.38 論文要旨

わが国における高レベル放射性廃棄物処分の法的側面に関する一考察 (1.1 MB)

Some Legal Aspects on High Level Radioactive Waste Disposal in Japan

[キーワード]
高レベル放射性廃棄物、原子炉等規制法、原子力損害賠償法

田辺 朋行

わが国では高レベル放射性廃棄物処分についてその研究・実施体制を整備することが緊急の課題とされている。この点について、従来より実施主体のあり方を巡る議論はなされてきたが、処分をどのような規制スキームの下で実施すれば良いか、については必ずしも十分に考察されてこなかった。
そこで、本研究では、高レベル廃棄物処分の法的側面について次の考察を加えた。まず、わが国の現行処分法制を分析し、そこでは高レベル廃棄物処分が必ずしも明確に規定されていないことを明らかにした。
次に、高レベル廃棄物処分法制のあり方に関してどのような法的選択肢が考えられるか、について、(1)原子炉等規制法適用の側面、(2)原子力損害賠償法適用の側面及び(3)政令改正による事業化の側面から、それらを6つの選択肢に整理し、そのそれぞれに対して、(1)廃棄物埋設事業の根拠規定との関係、(2)高レベル廃棄物処分が他の原子力事業行為に比べて“特殊”であるかどうか、(3)既存の原子力法体系との整合性、(4)国民の合意形成、の観点から考察を加えた。
そして、以上の考察から、本研究では、高レベル廃棄物処分を、政令改正を通じた原子炉等規制法上の事業として実施するのではなく、別立法に基づく事業として実施し?事業継続中に生じた原子力損害については現行原子力損害賠償法に基づく賠償処理を行うが、処分場が閉鎖され事業が終了した後に生じた損害については、別立法に基づく賠償処理を行うことが、現実的な処分法制の選択肢の一つとして検討に値することを示した。

巨大システム技術の継承に関する理論的考察 −高速炉開発への応用− (1.0 MB)

Theoretical Discussion on Maintaining Technological Capability of Large Complex System - Its Application to Fast Reactor Development -

[キーワード]
技術継承、巨大システム技術、高速炉、研究開発

鈴木 達治郎

高速増殖炉(Fast Breeder Reactor:FBR)のような巨大システム技術の研究開発は、長期のリードタイムが必要であり、しかも商業化の時期が不確実なため、次世代への技術継承が大きな課題なっている。
しかしながら、技術継承に必要な条件(規模、費用、内容など)は、これまであまり明確にされてこなかった。本論文は、技術継承の概念とその条件を、技術移転や技術進歩の理論、ならびに原子力以外の巨大技術開発例から明確化し、今後の高速炉開発戦略構築に貢献することを目的としたものである。
本論文では、技術継承を「知識(ノウハウ)の継承」「技術革新能力の継承」「生産基盤の継承」の3段階に分類して定義し、各段階での技術継承の条件を明らかにした。まず「知識の継承」では「暗黙知(tacit knowledge)」の役割が極めて重要であることがわかった。つぎに、「技術革新能力の継承」では「技術選択肢」を生み出す能力として「技術準備能力」という概念を定義し、その確保のためには「古くなった知識の放棄(unlearning)」も重要であることを明らかにした。
最後に、「生産基盤の確保」では必要な開発コストが極めて大きくなるため、コストとのトレードオフの重要性を指摘し、「プロトタイプ・プラス」という概念が有効であるとの結論に達した。これらの分析結果を踏まえて、高速炉開発については、「多重技術選択肢開発戦略」を提案。巨大な設備投資を最小化し、さらに将来の選択肢をできるだけ広く確保する形で、次世代への技術継承を確実にする方法を明らかにした。

原子力施設運営における安全文化の醸成に関する考察 (1.0 MB)

Examination on Establishment of Safety Culture for Operating Nuclear Facilities

[キーワード]
原子力施設、安全文化、組織文化

谷口 武俊

原子力施設を安全に運営していくには、技術的対応に加え、それを運営管理する組織のパフォーマンスが重要である。本稿では、電気事業における原子力発電の導入・発展期を支えた自発的協働型マネジメントシステムを組織科学的および行動心理学的観点から分析するとともに、今後の原子力発電を担う若い組織構成員の価値観や心理特性に関する調査結果を踏まえ、第二の安全原則といわれる安全文化を組織のなかでどのよう醸成・確立していくかについて、個の尊重と組織との統合化、人材育成そして組織的学習の観点から今後の課題を論じる。

超々臨界圧微粉炭火力の導入によるCO2削減効果 (637 KB)

Effect of Ultra Super Critical Coal-fired Technology on Reduction of CO2 Emission

−社会基盤技術の環境性評価手法の開発−

[キーワード]
ライフサイクル分析、産業連関表、石炭火力、USC、二酸化炭素

本藤 祐樹 / 内山 洋司

本研究では、これから導入が期待される超々臨界圧微粉炭火力(USC)が従来型石炭火力と比較してどの程度の炭酸ガス(CO2)削減効果があるかをライフサイクルの観点から定量的に明らかにしている。
USCは、従来型と比較して高温高圧の蒸気を利用して高効率の発電を可能としているため、発電時の石炭燃焼に伴うCO2排出量は効率改善分だけ減少する。その一方で、USCはボイラーやタービンなどに従来型より高温高圧に耐えられる材料を用いる必要がある。より優れた材料を用いることにより、間接的にCO2排出量が増加する可能性も考えられる。
本研究では、第1に、発電技術のライフサイクルにわたる環境影響物質の排出量を既往の手法より客観的かつ高い精度で推定できる手法を開発した。この手法は、プロセスを追った詳細な分析が可能であるという積み上げ法の長所、そして、間接的な排出を整合的に考慮出来るという産業連関分析法の長所を活かしたものである。
第2に、この手法を用いて、間接的な影響を含めたUSCのCO2削減効果を明らかにした。様々な間接効果によるCO2排出量の増加は、発電用燃料減少に伴う排出量減少と比べて極めて小さく、ライフサイクルで見た場合3.4%のCO2削減効果があることがわかった。CO2削減の観点からは超々臨界圧発電は有効な技術であることが定量的に示された。

公正報酬率規制下の要素投入構造 −電気事業を対象とした実証分析の展望− (756 KB)

Input Choices under Rate of Return Regulation -An Overview of Empirical Studies-

[キーワード]
アヴァーチジョンソン効果、公正報酬率規制、電気事業、資本費用

服部  徹

本論文は、公正報酬率規制下にある独占企業は生産活動において資本を過剰に投入するような資源配分を行うという、いわゆるアヴァーチ・ジョンソン効果が電気事業において現実に存在するのかどうかを検証したこれまでの実証研究のサーベイである。米国や日本における実証分析では、分析手法やモデルの違いによって結果が分かれており、はっきりした結論は出されていない。今後の課題として、理論モデルの再検討とともに、推計対象の拡大や資本データの整備などを考えていく必要がある。

住宅用太陽光発電システム設置者の日独比較 (611 KB)

A Comparison of Photovoltaic Systems User in Japan with in Germany

[キーワード]
太陽光発電、住宅用、社会属性、価値意識、ドイツ

井内 正直

平成6年度通産省モニター事業によって住宅用太陽光発電システムを設置した消費者を対象とするアンケート調査を実施した。1990年よりドイツでも同様な事業(1,000ルーフPVプラン)が実施され、フラウンフォーファー研究所が設置者の社会属性、システム導入のプロセス等について調査・分析を行っている。
これらの調査結果をもとに、ほぼ同時期に住宅用太陽光発電システムを設置した我が国とドイツの設置者の社会属性、価値意識、システム評価等を比較し、両者の共通点及び相違点を分析した。
その結果、我が国に比較してドイツでは、30〜40歳台の比較的若い設置者が多いこと、学校の教員が約2割を占めること、環境保護運動等への積極的参加が目立つこと、家庭での新・省エネ機器の導入が積極的であること等が明らかとなった。

リスクプレミアムを考慮した為替レート予測の試み (486 KB)

A Forecast of the Exchange Rate with a Function including Risk Premium

[キーワード]
為替レート、為替レート予測、リスクプレミアム

義村 政治 / 門多 治

為替レート関数を用いた為替レート予測は、学界の標準理論であるポートフォリオ・アプローチ(PA)を用いたものが主流である。電中研モデルにおける従来型の為替レート関数は、アセット・アプローチに基づく自己回帰型の定式化を採用していたが、名目為替レートと実質為替レートの区別、リスク・プレミアムの取り扱いについて理論的根拠が希簿であった。
本論では、金利平価、購買力平価、リスク・プレミアムを3本の柱として為替レートが内生的に決定されるPAアプローチを用いて、従来型モデルの再検討を行うとともに、リスク・プレミアムの構成要素として累積経常収支だけでなく為替変動リスク(ヴォラティリティー)や危険回避度なども織り込んだ為替レート関数をマクロ時系列データから推計し、97年度予測を試みた。
その結果、為替レートは円安気味に推移するとの予測結果を得た。

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