当研究所の経営層による寄稿やインタビュー記事等を紹介しています。
電力中央研究所 理事長 平岩 芳朗
一般送配電事業者の供給区域(エリア)をまたぎ、全国でより効率的な発電機等から供給力や調整力を調達し再生可能エネルギーも活用する。こうした広域的運用を推進するルールや仕組みが整備され、周波数変換設備(FC)をはじめ地域間連系線の増強工事が進められている。
鉄道は相互乗り入れにより利便性が高まる一方で、一カ所のトラブルで広範囲な運行影響が散見されるが、必需品である電気は広域的運用の中で不具合が生じたとしても、その影響を極力抑えることが重要である。
新たな市場設計や運用ルールの導入により、広域的運用に係る様々なシステム開発が並行的・継続的に行われている。今後は調整力確保や混雑管理など実需給に近い断面のシステム処理が多くなるため、システムが正しく機能するよう必要な開発期間を確保し、事前の検証と習熟を確実に行うことがより重要となる。
また全国の一般送配電事業者が共同で構築中の次期中央給電指令所システムでは、系列二重化と設置拠点の広域分散と共に、稀頻度事象対応として必要最低限のバックアップ装置が各エリアに保有される。
連系線を最大限活用した広域ブロック単位の予備率管理による電力需給運用が2024年度に開始された。エリア単位の予備率管理による運用では、単一エリアの需給逼迫時に他エリアからの融通送電が期待できたが、仮に実需給の広域予備率が安定供給に最低限必要な3%のブロック内で、あるエリアで大規模な供給支障事故が発生した場合、広域予備率は連系線の最大限の活用は考慮済みであり、基本的にブロック外からの融通送電で改善できない。このためブロック単位で需要抑制が必要となる状況もあり得る。
需給逼迫時は余裕をもって早めに段階的に周知する必要があるため、例えば前日段階であらゆる供給力対策を実施しても広域予備率が5%を下回る場合、資源エネルギー庁から電力需給逼迫注意報が発令され、生活や経済活動に支障のない範囲で最大限の節電協力を促すこととなる。
例えば、大地震で多数の電源が故障停止し大規模停電が発生した際に、発電事業者が停電解消に協力するため独自の判断で最大限発電すると、その電気を送るルートの送電線が1回線故障していれば容量超過で新たな故障になりかねない。このため地域の系統運用者が需給と送配電網の全体の状況を把握し、復旧方針を立て、復旧操作を行う。多数の電気供給事業者や需要者と状況を確認し、指示を出す。こうした統制機能が不可欠である。
電気の保安面でもルール順守は非常に重要である。例えば、特別高圧の需要者が受電設備の点検のため構内を作業停止し、復旧前に構内のアースを外すという基本ルールを守らないと、送電線の加圧時に地絡故障が生じ、広範囲の需要者に支障が出る。
電力系統の運用や作業停止に伴う電力設備の運転(操作や停止を含む)等の指令(給電指令)の順守は非常に重要である。電力広域的運営推進機関の送配電等業務指針は、平常時と異常時の給電指令、および一般送配電事業者と給電指令の受令者があらかじめ給電指令の内容や対象とする電力設備の範囲、発受令の体制等を定めた給電申合書を締結することを規定している。『給電指令』の語感は厳しいが、その順守が電気保安と社会全体の安定供給に不可欠であることの裏返しと考えている。
災害や事故時の電力系統の早期復旧や故障の未然防止において、地域の系統運用者は情報収集および関係各所との間を調整する要となる。大雨洪水警報の発表時にダムの流入量が規定値を上回ると予想される場合など、気象やダムの状況により、揚水発電や揚水が実施できないケースもある。また発雷時、当該地域の送電線の潮流を事前に抑制して送電線故障の影響を抑える対策を行うこともある。
こうした地域の電力設備や運用制約のほか地域社会と気象や地形の特徴を理解し、電気供給事業者や需要者と実務の接点を持つ系統運用者の役割は大きい。
広域的運用と地域の系統運用、分散型エネルギーリソースが多数接続する需要地系統など電力システムの運用が多層化していく中、各層の系統運用と情報を適切に連携する必要がある。フレキシビリティを供給するアグリゲーターと系統運用者との連携も、事業者相互の理解と知見を深め、系統の潮流抑制など、目的と適用範囲に応じた費用対効果の高い仕組みの構築が期待される。
電気新聞 2024年11月6日掲載
※発行元の一般社団法人 日本電気協会新聞部(電気新聞)の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。