電力中央研究所

一覧に戻る

経営層からのメッセージ
経営層からの発信

当研究所の経営層による寄稿やインタビュー記事等を紹介しています。

月刊 経団連

S+3Eの追求に向けた
電力システムの合理的な設備形成とその運用

電力中央研究所 理事長 平岩 芳朗

大量の再生可能エネルギーを電力システムに受け入れるために

 エネルギー安全保障の重要性が高まるとともに、電力需要の増加が見込まれる中、長期的なエネルギー安定供給と脱炭素化の両立が重要課題であり、原子力や再生可能エネルギー(再エネ)などエネルギー安全保障に寄与する脱炭素電源の最大限の活用が不可欠である。

 エネルギー政策に関する一般の関心は供給力確保や電源構成にあるが、大量の変動性再エネを電力システムに受け入れて運用していくためには、電力システム全体を俯瞰した合理的かつ計画的な電力ネットワークの設備形成と運用技術、制度設計などが肝要である。

 電力システムは、周波数を一定に維持するために瞬時瞬時の需給バランスを維持する必要があり、この役割を一般送配電事業者が担っている。変動性再エネの大量導入による大幅な出力変動や予測誤差を逆調整またはバックアップする電源などの確保と運用が必須となる。

 また、大規模事故時に周波数が低下し、発電機が連鎖停止することで大規模停電が発生する。これを回避するためには、変動性再エネや蓄電池などの非同期電源の大量導入に際し、火力発電などの同期電源が提供してきた慣性力や同期化力などの系統安定化機能の技術開発と検証が鍵となる。こうした調整力と慣性力などの確保は、欧州のように電力系統やガスパイプラインが他国と連系していないわが国の電力システムにおいて、特に重要である。

図1

系統安定化機能の価値やコストを適切に評価すべき

 供給力確保に加え、再エネのバックアップ電源や調整力や慣性力などの確保の点でも、火力発電の役割は大きい。電力自由化に加え、再エネ大量導入によりその稼働率が低下する中で、脱炭素化を進めつつ火力発電の必要容量を確保するためには、調整力や慣性力などの価値を市場や制度で適切に評価する必要がある。変動性再エネを電力システムに受け入れるために必要なこれらのコスト(統合コスト)について、エネルギーミックスの検討において適切に算定し評価することが求められる。

 調整力確保において、分散型エネルギー資源(DER(注))のフレキシビリティを活用することも大切である。蓄電池やエコキュートなどの蓄エネルギー機器の性能向上と低コスト化や、デマンドレスポンスを含めこれらを有効に活用するための料金メニューや運用技術が重要となる。

 風力発電などが大量導入されたドイツでは、冬季を中心に一帯の風力発電などの出力低下が1~2週間程度継続し、ガス火力の発電量が大幅に増加する事象が発生しており、再エネ大量導入時には、相当のバックアップ電源や需要対策、長周期蓄エネルギーと、kWh面での燃料調達の柔軟性が必要となる。

(注)分散型エネルギー資源(DER):エネルギーの利用者(需要家)などが所有するエネルギー源。一般企業や家庭に設置された太陽光発電システムや蓄電池、電気自動車などの設備が含まれる

送配電設備の形成と運用において考慮すべき課題

 送配電設備の形成に当たっては、運用の高度化による既設設備のさらなる有効活用を進める必要がある。加えて、マスタープランを含めた増強計画において、電源と需要の適切な立地誘導を図り、増強設備の稼働率を高め、規模を適正化したうえで、調整力などの確保や高経年設備の更新を含めた投資や費用の回収予見性を確保する制度設計が重要である。

 また、再エネの有効利用のため、ヒートポンプの昼間シフトなどの需要側フレキシビリティを高め、産業プロセスなどの電化や、将来的には余剰電力による水電気分解による水素製造などにより電力需要を創出していく必要がある。

 高経年化が進む送配電設備を更新し、次世代電力ネットワークを構築し運用するには、送配電費用を需要者負担の公平性を確保しつつ、適正に回収しなければならない。一方、再エネや蓄電池を設置し、自家消費が増え、系統電力の使用量が減少する需要者の増加が想定される。こうした需要者も、電力系統と接続することで周波数や電圧などの品質が確保された電気を使用できる「接続する価値」を享受している。また、単身や2人世帯など使用電力量が少ない需要者は6割を超える。

 現在の託送料金の費用構造は、おおむね固定費などが9割、可変費が1割であるのに対し、料金構成はおおむね基本(kW)料金3割、従量(kWh)料金7割と従量料金への依存が大きいため、託送料金の構成を費用構造に近づけ、基本料金比率を高め、従量料金比率を下げていく必要がある。なお、低所得世帯への配慮は、使用電力量による判別が困難なため、料金とは別に政策的に扱われるべきと考える。

脱炭素化に向けて社会システム変革の全体像や負担増への理解醸成を

 将来的には、電力システムに再エネや蓄電池など多数のDERが接続され、アグリゲータなど多様な事業者の電力需給調整への参画が想定される。電力システムは多くのプレーヤーが活用する共通基盤である。このため、全てのプレーヤーが、安定的な電力システムを支える一員との自覚と責任を持ち、ルールを遵守し、送配電事業者などと協力していくことが重要である。

 脱炭素化には、脱炭素電源、次世代電力ネットワーク、エネルギーや社会システム全体の変革など、広範な技術開発が不可欠である。電力中央研究所としても研究面で最大限の努力をしていくが、膨大な投資が必要となる。資金調達策は議論されつつあるが、最終的に国民や産業界の負担増も考えられる。風力発電などを積極的に開発し、原子力発電を廃止したドイツは、ガスパイプラインの停止によるエネルギー価格高騰などを受け、生産拠点の国外移転が進んでいる。

 GXやエネルギー政策が目指す社会の姿に、国民や産業界が価値を認識し、費用負担を受容できるか、アフォーダブルかという視点を含め、S+3Eの追求に向けた姿を世の中に示し、国民の理解を得つつ進めることが重要である。

月刊 経団連 2025年2月号掲載

※発行元の一般社団法人 日本経済団体連合会の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。
月刊 経団連 2025年2月号はこちらからご覧いただけます。

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry