
当研究所の経営層による寄稿やインタビュー記事等を紹介しています。
電力中央研究所 理事長 平岩 芳朗
生成AI(人工知能)が急速に社会に組み込まれつつある。AI大国米国はAIを重要な国家戦略技術に位置づけ、米中のAI覇権競争が進む。旺盛なAI需要を背景に大手テックの巨額投資によりAIの物理インフラである大規模DCの建設が相次ぐ。キャンパスと呼ばれる広大な敷地に建設される大規模なDCには、電力需要が数百万キロワット(数ギガワット)級のものもある。
2024年の設置済みDC容量は、米国が5千万キロワット超と断トツであり、我が国より一桁大きい。DCに常時から、学習や大量のデータから価値ある情報を掘り出すマイニングをさせておき、データ通信や計算処理の時間(遅延)が問題とならないケースでは、我が国から海外のDCを利用したAI活用は可能である。
他方、以下の背景から我が国のDC建設も着実に進むと考える。データが安全保障や組織の機密に係る場合、自国の自らの管理が届き、他者からクローズされたDCでAIを活用し、アウトプットもそのDCに留めるニーズがある。データ主権(またはソブリンAI)といわれるもので、世の中のデータの大半はこの種に属すといわれ、そのAI活用は今後飛躍的に拡大していく可能性がある。
仏ルコルニュ首相は、政府独自の生成AIを活用し、機密データを国内で管理するなどAI分野の主権確保の意思表明をしている。我が国ではものづくり基盤の強みを生かし、現場データを守りつつ利活用する国産のフィジカルAI基盤の構築を目指し、企業連合の研究開発が、国の支援のもと始動した。
工場や医療の現場でフィジカルAIを導入する場合、低遅延が求められ、データを取得しデータの処理結果をフィードバックする現場の近くにコンテナ型DCが設置されるケースや、ユーザー側の機能を絞ったエッジコンピューティングまで、将来のDCの利用形態は多様化と多層化が進むものと思われる。
さらに、バックアップ用も含めると、海外のAI活用向けのDCを国情の比較的安定した我が国に設置するケースも想定される。
現在、我が国のDC建設は数十万キロワット級までが進んでいるが、今後さらに拡大すると考えられる。
以下、大規模DCの建設と系統接続が急増する米国など海外事例から、我が国も参考とし得る課題や対応事例について概説する。
大規模DCの系統接続の特徴は、DCの稼働開始ニーズが2~3年であるのに対し、大規模需要の系統増強には10年以上を要する場合もあるという、時間軸のギャップが大きいことである。
大手テックがAI覇権に向けて大規模DCの早期稼働を競う米国では、DC事業者が自ら電源を確保したり、大規模電源の隣接地にDCを建設する動きがある。必要な供給力を確保できるまでガスタービン発電などオンサイト電源を稼働してDCの早期稼働を目指すケースもあるが、地域住民からは排ガスなどの環境面の懸念が指摘されている。
DC事業者が、安定した脱炭素電源である原子力発電をPPAで確保する動きもある。マイクロソフトはコンステレーション・エナジーとスリーマイル島原発1号機を再稼働させ20年間の電力供給を受ける契約を締結している。
米国では大規模DCの建設において、地域住民から、大気汚染やDCの冷却に用いる地下水の減少などの環境面の影響や、系統増強費用などが一般需要家に転嫁されるのではないかといった懸念が示されている。
我が国においても、急増する系統接続申請の課題に対し接続ルールの変更が開始されつつあるが、海外事例から今後参考となり得るルールや技術的対応を概説したい。
系統接続が先着優先のルールのもとではDC事業者が早期の系統アクセスの権利を求めて、DCの実現性に関し十分な検討がなされないまま系統接続申請がなされる懸念がある。これらも含め、すべての申請を真の需要として対応すると、過剰な設備投資となり得る。
米国や英国では接続申請時に高額の保証金を徴収し、建設予定地の所有権などの確保を義務付けるなど、接続申請への対応を「申請の早い者から」から「準備ができた者から(First Ready First Served)」に移行したり、手続きの進行中でもマイルストーンを達成できない計画を強制的に解約する動きがある。
系統混雑時などの調整力提供を前提に優先的な接続枠を与えたり、ノンファーム接続や高速しゃ断器と大容量蓄電池などの組み合わせによるN-1電制を需要側にも適用することは、DCの早期稼働を促す有効な手段となり得る。
一方、調整力確保のためにオンサイト発電機を常時稼働することは環境規制との整合や地域住民の受容性が課題となる。また、系統混雑時などの対策として、どのDCからどの程度負荷を抑制するかという優先順位や免責規定に関する法的整理なども必要となろう。
FERC(米国連邦エネルギー規制委員会)は26年6月、PJMやCAISOなど管轄下の6つの系統運用者に対し、自身の系統接続ルールにおいて、DCの系統接続に要する増強費用(これをどのように特定するかも課題であるが)を一般需要家に転嫁しない方策となっていることを60日以内に証明することを命じた。
プロジェクトが計画どおり進まない場合や、DCの稼働率が高まらない場合の最低料金制は、設備増強費用の座礁化を避けるために用いられている。
大規模DCのワークロード処理や、DC事業者によるオンサイト電源などの運用の結果、系統需要が乱高下する懸念がある。ワット・ビット連携はグリッド運用の安定化への寄与が期待される一方で、系統運用者がDC内の電力需要に係るこれらの運用の動きが見えないと、系統需要の予測が困難化し、LFC(周波数制御)運用や必要予備力の確保といった実運用の困難化が懸念される。アイルランドでは、大規模DCに自ら電源保有を求め、保有電源を卸電力市場に参加させるなど、系統運用者から見える形にする動きがある。
我が国は需給バランスを30分単位の電力量で管理しているが、大規模DCはビット情報の移動で数十万キロワット級の負荷が瞬時に変化し、国家間や広域エリア間で移動し得るという、これまでの大規模負荷にない特徴を有する。
DCの運用方法はDC運用者の機微情報と思われる一方、DCの運用による予期せぬワークロードシフトは地域間連系線などに予期せぬ潮流変化をもたらすため、DCの需要状況の変化やシフト計画をリアルタイムも含めて系統運用者と共有する、広域的な仕組みが構築できるかが課題となる。
DCは大規模な電力負荷が比較的安定して予測可能であるという従来の前提に挑戦している。大規模なAI学習の開始・終了時やバッチ処理の切替え時に、DCにおける数千台のGPUが同時に状態遷移することで、数十万キロワット級の矩形波状の短周期の負荷変動が生じる。これにより、系統周波数やフリッカ現象のような系統電圧の乱れが懸念される。
またDC内部の膨大なインバーターや電源回路から発生する高調波による周辺の一般需要家や精密機械への波及も防ぐ必要がある。このため系統側対策に加え、DC事業者にもグリッドコードで一定の電力品質を維持する設備の設置の義務付けが必要と思われる。
1拠点で数十万キロワット、海外では100万キロワット級のDCの建設も相次ぐ。生成AI用DCには非常に高価な高性能半導体が大量に搭載されており、系統電圧などの変動時に、DC事業者は速やかにDCを電力系統から切り離し、高価な半導体を守りたいとのインセンティブが働く。
一方、系統事故による電圧変動などにより大規模DC負荷(複数のDCの場合もあり得る)が瞬時に系統離脱すると、周波数上昇や電圧変動が生じる。周波数や電圧の調整機能で吸収しきれない場合、保護装置の動作により電源などが連鎖的に脱落し、最悪の場合、大規模停電につながる懸念がある。
予兆は既に数例発生している。本稿執筆中の7月22日、多くのDCが集積する米国バージニア州北部の送電線故障を起因に、複数のDCが連鎖的に系統離脱しバックアップ電源に切り替わり、PJM管内で過去最大の約380万キロワット(総需要の約3%)の負荷脱落となった。PJM管内で広域的な電圧・周波数変動が生じ、系統安定化に10分程度を要している。
米国では大規模負荷にNERC(北米電力信頼度協議会)への登録を求め、電圧や周波数の一定範囲の変動に対し系統連系維持能力を求める動きがある。大規模負荷脱落(周波数上昇)に対する瞬時調整力の確保など、新たな運用規程が必要と思われる。大規模な計算負荷は単なる電力系統に接続する需要ではなく、積極的な信頼性への参加者になりつつある。
現状、系統運用者はDCの電力需要面の運用状況は想定できず、DC事業者は系統運用上の課題は分かりにくい。DC事業者と系統運用者など一般送配電事業者が、お互いのニーズや課題意識、運用の考え方を理解し、電力の安定供給とデジタル成長を両立させる解決策を見出していく必要がある。電力中央研究所としても貢献してまいりたい。
電気新聞 2026年9月7日掲載
※発行元の一般社団法人 日本電気協会新聞部(電気新聞)の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。