電力中央研究所

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電中研ニュース

電中研NEWS No.492
送電線周辺の樹木を管理
-送電設備の安全対策へのドローン活用-

電力流通

発電所で作られた電気は特別高圧架空送電線(送電線)によって遠く離れた場所に送られています。送電線の安全対策のために、送電線と周辺の物体との間には規定の距離(離隔)を確保することが定められています。国土に山地が多い日本では、送電線周辺に樹木が生育していることが多く、成長に伴って枝葉が送電線に接近するため、送電線と樹木の離隔を監視し、状況に応じて伐採等を行う必要があります。当所では、このような安全対策の労力を低減するために、小型の無人航空機(ドローン)を活用して送電線と樹木の離隔を評価し、樹木管理業務を支援する技術を開発しています。

写真

きれいに刈り払われた送電線下

目次

1. 送電線と樹木の離隔を知る

2. ドローン活用の狙い

3. ドローンを活用した離隔評価技術の実用化を目指して

●関連する報告書・論文等

1. 送電線と樹木の離隔を知る

送電線と周辺樹木との離隔評価には、航空機によるレーザー測量が主に用いられています。これは、ヘリコプター等の有人航空機に搭載されたLiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)を用いて上空から地表をレーザーで走査、樹木や送電線から反射される光を計測して、その位置を三次元の位置情報を持つ点の集まり(点群)として構成するリモートセンシングで、送電線と樹木の離隔を広範囲かつ高精度(センチメートル精度)で把握することができます。こうした測量を複数年に亘って実施し、全ての送電線の離隔を把握するのが一般的です。 ただし、送電設備の地上高が低い箇所等では、頻繁にあるいは緊急に離隔を評価する必要に迫られることがあり、航空機レーザー測量が難しいことがあります。こうした場合は、作業員による目測の離隔評価が行われることもあります(図1)。しかし、目測による離隔評価では、樹木が繁茂していると地上からの見通しが悪く、作業員が鉄塔に登って確認する必要があります。また、計測結果もばらつきが生じる傾向があるため、省力化と精度向上が課題となっています。こうしたことから、昇塔せずに離隔を確認できる手法が求められています。

図1

図1 送電線と樹木の離隔評価の方法

2. ドローン活用の狙い

無人航空機であるドローンは、自律飛行や遠隔操作ができることが特徴で、なかでも複数のプロペラで飛行するマルチ回転翼式ドローンは垂直離着陸やホバリングができるため多様な場面で運用できます。当所は、LiDARと同様に点群を取得できる手法として、SfM/MVS(Structure from Motion/Multi-view stereo:以下、SfM)に着目しました。SfMは、移動しながら撮影された複数の写真画像間で同一の撮影対象を特定することで点群を構成する技術(図2)で、1台のカメラがあれば実施できるため、導入コストが低いことが特長です。市販の小型ドローンでも、カメラの方向を制御して機体の動揺の影響を受けず安定して撮影できる機能があり、GNSS(全球測位衛星システム)に対応したプログラミング飛行ができるため、遠隔操縦によって点群取得に必要な撮影飛行が可能です。一方で、ドローンは飛行時間が短く(現状で40分未満)、長距離・長時間の運用が不得手です。このため、当所ではドローンによる写真測量を航空機レーザー測量を補間する技術と位置づけて開発を進めました。

図2

図2 ドローンによるSfMのための空撮の様子
下図は飛行中にインターバル撮影された画像

3. ドローンを活用した離隔評価技術の実用化を目指して

①精度の検証

測量技術としてのSfMは、土木建築部門での実績はあるものの、送電線や樹木等を対象にして精度よく実施できるのかは未確認でした。一般的に、樹高計測の精度は、地上からも航空測量からも概ね0.1m程度とされています。そこで、塔高約30mの訓練用送電設備1径間(約130m、標高差10mの傾斜地)を対象に、小型ドローン(DJI製 Phantom4 pro)を、4高度、6速度で径間上を往復飛行させ(図3、4)、上空から真下に向けたカメラでインターバル撮影することで、画像間の重複率や、被写体位置での画素の大きさを変化させて点群を生成しました。その結果、地上に設置した9つの検証点について、水平方向、垂直方向それぞれで、0.03m、0.12m以下の誤差で計測できることを確認しました。また、地上30mの高さの鉄塔上でも同様の精度が得られたことや、地上から測定した樹高との比較から、この技術は送電線と樹木の離隔評価に十分な精度をもつことを確認しました。

図3

図3 SfMで生成された点群と繰り返し飛行させたドローンの飛行軌跡

図4

図4 ドローンによる撮影の様子

②点群取得のためのノウハウ整理

SfMによって生成した点群では、地面や樹木はよく再現される一方で、空中の送電線は再現されないことがあります(図5)。この問題に対しては送電線位置での画像間の重複率と電線位置の解像度が影響していることを見出し、適切な条件の画像を取得することで、送電線の形状から離隔評価の基準を求めるために十分な範囲の点群が得られることが分かりました。これらの知見を、離隔評価に必要な精度と再現性を備えた点群を取得するノウハウとして取りまとめています。さらに、このノウハウに基づいてドローンの飛行条件を提案するスマートフォンで動作可能なWebアプリを開発し(図6)、現場での利便性を図りました。

図5

図5 送電線の点群(黒点)と近似関数(赤線)
黒点のない区間の点群が再現されていない。

図6

図6 飛行計画支援アプリの画面
支持点高、電線直径、弛度などの入力に対して写真測量に適した撮影条件を提案する。

③離隔評価ワークフローを構築

離隔評価では、ドローンを運用した点群の取得から送電線と樹木の離隔評価までを現地で行う、ワンストップのワークフローを構築する必要があります。このため、ドローンを用いて取得した点群を入力し、樹木との離隔を確認する一連のプログラムを離隔評価ツールとして開発しました。このツールによって、(1)下相の送電線を対象に基準となる仮想送電線を生成、(2)電圧に応じた規定離隔を計算し、評価の支障となる点群を除去(図7)、(3)横風による送電線の動揺を考慮した離隔距離を計算、(4)マップ上で離隔距離を確認することができます(図8)。現場に持ち込んだドローンとモバイルPC等によって、3次元計測による離隔評価がその日のうちに可能となり(図9)、作業員の目測を含めた地上測量の代替とすることで、大幅な労力の低減が期待できます。

図7

図7 仮想送電線と規定離隔モデル
下図は規定離隔より上方の点群を除いた表示

図8

図8 3次元点群上に離隔ヒートマップを表示した例
離隔ヒートマップにより、接近木の状況が立体的に参照できる。(特願2018-029598)

図8

図9 離隔評価ワークフロー(左)と離隔ヒートマップの表示例(右)

今後は、現場への展開を進め、得られた知見のフィードバックにより技術の改良を行うとともに、人工衛星を活用した送電線下の常態監視など新たな業務効率化技術の開発を行っていきます。

●関連する報告書・論文等

担当研究員

中屋 耕/なかや こう
サステナブルシステム研究本部 生物・環境化学研究部門 上席研究員
博士(農学)

2022年3月掲載

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry