
フランス政府は4月23日、「エネルギー利用の電化計画(pland'électrification des usages)」を公表した。建物・運輸・産業その他の三つの軸(Axe)に、横断措置も加えた計22の措置で構成される(表)。各措置は今後、政令の公布、既存制度の運用変更、提案募集といったプロセスを経て具体化される見込みだ。
22の電化推進措置の内容
内容をみると、支援的措置が多い。例えば、建物改修補助金の電化への振り向け(措置6)、走行距離の長い世帯へのEV購入補助金の引き上げ(措置10)、商用EVの購入支援の強化(措置11、12)、助成制度の見直しによるヒートポンプ、電気ボイラー、および機械式蒸気再圧縮への支援強化(措置20)などがある。現在電化に投じられている資金は年間約55億ユーロとの推計だが、2030年までに年間約45億ユーロ上乗せ(省エネ支援や既存改修支援の資金を再配分)し、年間約100億ユーロに拡大する方針だ。
数は少ないものの、化石燃料広告禁止(措置3)や新築建物でのガス利用の廃止(措置5)などの規制的措置も含まれる。化石燃料広告禁止は、21年の気候変動対策・レジリエンス強化法で施行済みだが、対象となる化石燃料のリストを定める政令が未公布で実効性が乏しい状態が続いていた。そのため、本計画では今年末までに政令を公布する方針を示した。新築建物でのガス利用の廃止の前提として、新築建物への温室効果ガスの排出規制により、現時点で新築住宅の主たる熱源にガスを利用するのは困難である。今回の計画では、ガス利用の廃止をさらに厳格化し、補助熱源としての利用やハイブリッドでの利用も含めて禁止する方針だ。住宅は来年1月1日に、商業・業務用建物はその後数年以内に規制を施行し、30年以降、全ての新築建物でガス利用をなくす目標としている。
フランスが電化を進める背景は、電化計画の表題「より安価で、より自立的な、より持続可能なエネルギーへ(Pour uneénergie moins chère, plus souveraine et plus durable)」に表れている。
一つ目の「より安価」は、輸入石油・ガスへの支出(年間600億ユーロ超)を減らし、価格変動で家庭や企業が打撃を受けるリスクを軽減する意味が読み取れる。さらに、電力価格は手頃であるとし、EVやヒートポンプの利用段階の費用が化石燃料利用より低くなる例を示す。
二つ目の「より自立的」では、輸入化石燃料への依存によりフランスの政策選択や経済が海外情勢に左右される状態から脱却することを目指している。フランスでは、24年の本土の最終エネルギー消費量の約58%を化石燃料が占める一方、電力は国内消費量の20%に相当する量を輸出するほど生産に余力がある。計画では、「輸入化石燃料への依存は、わが国の主権を損なうものである」とし、化石燃料の輸入を通じて他地域の危機の影響が国内に波及するうえ、化石燃料を供給する諸外国がこれを対外的圧力の手段として実際に行使していると説明する。繰り返し発生する危機に対する唯一の構造的かつ持続的な対応は「エネルギー利用の電化、すなわち自国で生産するエネルギーを利用すること」だとし、その加速の必要性を述べる。
三つ目の「より持続可能な」は、電力の95%が脱炭素化されていることを生かし、化石燃料から電力への転換で温室効果ガスの排出削減につなげるもので、従来から電化の意義とされてきた。
このように、国産の低炭素電力に余力がある一方で、最終エネルギー消費での輸入化石燃料への依存度が高いというギャップがあることから、エネルギー安全保障(より安価、より自立的)と脱炭素化の両方の文脈で電化を位置付けた。
電化をエネルギー安全保障の文脈から位置付ける動きはEUでも見られる。22年のロシアのウクライナ侵略をきっかけに、電化はロシア産化石燃料依存からの脱却手段としても語られるようになった。さらに今年に入り中東情勢が悪化したことで、輸入化石燃料依存から脱却しようとする意識がより強まった。
4月22日には、欧州委員会が「AccelerateEU——エネルギー同盟の迅速な行動を通じた手頃で安全なエネルギー」と題する文書を公表した。変動の激しい化石燃料市場への依存をさらに低減するための包括的な行動方針で、短期的な消費者・産業保護策と、中長期的なエネルギーシステムの強靱化策を示している。その中には、「現在の危機は、化石燃料価格の急騰や輸入への依存から脱却するため、電化加速の必要性を示すものでもある」とあり、電化をエネルギー安全保障のための手段として位置付けている。
背景にはフランスと類似の構造、つまり低炭素電力の多さと輸入化石燃料への依存がある。24年時点で、EUで発電された電力の約71%がクリーン電源(化石燃料以外)由来である一方、電力は最終エネルギー消費の4分の1未満にとどまる。電化を推進して域内産の低炭素電力の活用を増やすことは、脱炭素化だけでなく家庭や企業をエネルギー価格変動リスクから守ることにもつながる。
電化はフランスのみならずEUにおいても、脱炭素化だけでなくエネ安保のための政策手段として重みを増している。電化の方針がどこまで実効性を持つのか、今後の具体化が注目される。
旬刊 EP REPORT 第2176号(2026年6月1日)掲載
※発行元のエネルギー政策研究会の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。