
水力発電は近代文明を支え続ける最も歴史ある発電方式である。安定した再生可能エネルギーとして再評価されているが、河川の位置エネルギーを利用するため設備は広範囲に及び自然環境との関わりが深い。近年は集中豪雨や大規模地震へのレジリエンス(復元力)強化が喫緊の課題となる一方、少子高齢化と労働力不足で日常の維持管理から災害対応まで省力化が不可欠である。国内の水力はダムや取水から発電所まで長大な導水路を持つ水路式が多く、維持管理のための点検範囲が広く、定期点検の負担や災害時の緊急点検での安全リスクを考えると無人化の価値は高い。電力中央研究所では、これらの課題解決の一手段として発展が著しいドローン技術に着目し、独自に機体の研究開発を進めている。
災害時の屋外設備緊急点検では強風や豪雨下においても運航が求められる。導水路トンネルなど閉所の無人点検ではプロペラが生む乱気流が飛行安定性を損ない、精密な撮影や計測を困難にする。一般的な電動マルチプロペラ機はバッテリー駆動ゆえに飛行継続時間や航続距離が短いという深刻な制約を抱えている。さらに日常的にドローンを運用するには周辺騒音の抑制も不可欠である。これらの課題はドローン技術の中核をなす制御技術だけでは解決が困難であり、航空力学・機械工学に基づくさまざまな技術を駆使した飛行性能の根本的改善が必要となる。具体的には可変ピッチプロペラの採用で機体安定性を高め、強風や乱気流の中で失速せず安定した推力を発生するためには低アスペクト比で幅の広いプロペラが有効であることを示してきた。狭隘(きょうあい)空間や建造物に密接した飛行時に生じる不安定化の空気力学的メカニズムの解明も、対策設計に不可欠である。また、飛行時間・航続距離を拡大するため、独自のガソリンエンジンとモーターのハイブリッド駆動機構を開発し、信頼性と耐久性の向上に取り組んでいる。騒音研究ではマルチプロペラの特性がヘリコプターとは大きく異なるため、騒音の発生メカニズムを明らかにするとともに騒音抑制方法の検討や騒音評価手法の構築に取り組んでいる。これらのいずれの技術も小型ドローンだけでなく、今後普及が見込まれる有人電動垂直離着陸機(eVTOL)の運用にも資すると考えている。今後も厳しい環境下で安定かつ長距離飛行が可能な小型ドローンとして実用化し、水力発電に限らず、電力インフラ全般の維持管理に資することを目指して研究開発を進めていく。
可変ピッチプロペラを搭載した全天候型エンジン・モーターハイブリッド動力ドローン
日刊工業新聞(2026年2月19日)掲載
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