
脱炭素化の進展に伴い、太陽光発電や蓄電池などの分散型電源が電力系統に数多く接続されるようになり、新たな変圧器を系統に接続する機会も増えている。変圧器を系統に投入すると、その定格電流を大きく上回る電流(励磁突入電流と呼ばれる)が瞬間的に流れ、接続点や周辺の電圧が一時的に低下することがある。こうした瞬時電圧低下は、工場の生産設備や情報機器など、電圧変動に敏感な機器に影響を及ぼす恐れがある。また、突入電流は保護リレーの不要動作を引き起こし、安定した電力供給の妨げとなる場合もある。このため、系統連系の検討においては、変圧器投入時の影響を事前に把握することが重要である。
従来、この検討には、電力系統の過渡現象を詳細に模擬可能な瞬時値解析と呼ばれる専門的なシミュレーションが用いられてきた。瞬時値解析では高精度な評価が可能である一方、モデル作成やパラメーター換算などに専門知識やノウハウを要し、日常的な検討業務で誰もが容易に扱えるとは限らなかった。そこで電力中央研究所は、変圧器投入時の複雑な非線形現象を、現実的な仮定に基づいて数式で表現する手法を考案した。さらに、この手法を実装した変圧器励磁突入電流・電圧低下率計算ツール「TRA次郎」を開発し、ウェブアプリとして公開した。
TRA次郎は、専用ソフトを端末にインストールすることなく、ウェブブラウザーから利用できる。利用者は、変圧器の定格容量や電圧、インピーダンス、励磁特性、結線などの条件を入力するだけで、突入電流や電圧低下率をグラフや数値として確認できる。現在公開中のバージョンでは、一般的な電力用変圧器で用いられる主要な結線に対応しており、電力会社や発電事業者などの技術者が、簡単な操作で変圧器投入時の影響を実用上十分な精度で把握できる。これにより、これまで専門家に限られていた変圧器投入時の過渡現象解析を、より多くの実務者が手軽に実施できるようになった。
TRA次郎は、変圧器投入時の電力品質上のリスクを事前に評価し、対策の要否などを的確に検討するための支援ツールである。今後は、突入電流の抑制対策評価機能の追加やスコット結線など特殊結線への対応などを進め、実務者の解析作業をより強力にサポートできるよう改良を進めていく予定である。
電力中央研究所では今後も、研究成果の創出とその実用化を通じて、電力品質の維持・向上に必要な各種業務の高度化・効率化と、電力安定供給の維持に貢献していく。
日刊工業新聞(2026年5月28日)掲載
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