電力中央研究所

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電気新聞テクノロジー&トレンド

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持続可能社会における電化の役割

日本のCO₂排出量の20%を運輸部門が排出している。ガソリン自動車から電気自動車(EV)にシフトすることで排出量は大幅に削減できる。一方、系統安定化の面では、EV搭載電池の蓄電池利用や充電制御により、余剰電力の吸収や電力供給にも活用できる。EVの導入拡大は、運輸部門からのCO₂排出削減と再生可能エネの利用拡大への寄与が可能だ。さらには、将来技術として、自動運転をはじめ、IOTやMaaS、CASEなどによる他分野との連携で、新たな生活環境が拡がる。

第2回「モビリティの電化」

内燃機関の自動車から電動駆動のEVにシフトすることで、モビリティ分野のCO₂排出量を大幅に削減できる。さらに、EVを低・ゼロ炭素電源で充電すれば、相乗効果で、さらなる削減が可能だ。しかし、搭載する二次電池に充電できるエネルギーは、ガソリン燃料に比べ、重量密度で20分の1に過ぎない。二次電池の更なる高性能化が不可欠である。2019年のノーベル賞受賞も記憶に新しいリチウムイオン電池(LiB)は、二次電池の代表格だ。1991年に実用化された後、近年、高性能化が急速に進んできている。2005年以降には、LiBを搭載したEVの市販が始まり、現状では、国内に20万台以上のEV・ハイブリッド(HEV)自動車が走行している。

EVからのCO₂排出量は、充電する電気の発電設備の排出原単位に依存し、ゼロ炭素電源で充電すれば、排出量はゼロにもなる。しかし、排出原単位が大きくなると、HEVの方がCO₂排出量は小さくなる(図1)。CO₂排出量の削減を進めるには、電源の排出原単位の改善と二次電池と車両性能の向上によるEVの技術進展が不可欠だ。

図

図1 EVのCO₂排出変化

一方、充電スタンドも、急速が8千カ所、普通が2万カ所以上にまで整備が進んでいる。当所は、充電インフラ整備のために、普通充電器の設置指針や、交通シミュレーター(EV-Olyenter)を開発して、配置導入指針を提案してきた。現在、国内に保有する約6千万台の全車両がEVに代替しても、走行距離が大幅に変動しなければ、現在の電力需要(kWh )は3~10%程度の需要増に留まる。しかし、充電が特定の時間帯に集中すれば、電力需要にピーク(kW)が生じる懸念はある。充電集中を避ける制御や誘導が、電力インフラ整備に負担を掛けないためにも必要だ。充電時間の短縮を望んで、より大きな容量の100~350kW超急速充電器を導入する要望もあるが、まずは3~6kWの普通充電や小容量(kW)での充電を基本とした充電運用が望まれる。

EVには16~60kWh程度の二次電池が搭載されている。LiBは断続的に充放電しても特性に影響はなく、自由に充電制御が可能であるため、瞬時、かつ適宜に運用するVPPやDRなどでの活用が期待される。例えば、充電時間のシフトや放電による電力供給ができる(図2)。当所では、前述の交通シミュレータを活用して、EVの駐車位置や電池残量を試算して、系統安定化に寄与する充電・放電制御での運用方法の研究を進めている。数百万台のEVをアグリゲーションできれば、VPPやDRに活用が可能だ。

図

図2 V1GV2G 2日間のEV充電を制御してPV余剰の吸収と夕方の需要対応のDRに活用
(左:充電のみの制御、右:蓄電池として利用した充放電でのDR)

しかし、EVの保有台数は十万台程度にとどまっており、まずは普及拡大を加速することが重要だ。その方策としてEVの通勤車両としての利用があげられる。通勤車両は、勤務時間帯は駐車場に停車しており、事業所での負荷平準化やバックアップ電源などにも活用できる。工場や事業所などなら、構内設置の太陽光発電の余剰電力吸収にも活用できる。勤務地に充電インフラを整備し、EV通勤によるCO₂排出量削減を進めたい。さらには、将来技術として、自動運転をはじめとしたIOTやMaaS、CASEなどによる他分野との連携により、新たな経済・生活活動が広がることが期待される。

著者

池谷 知彦/いけや ともひこ
略歴 電力中央研究所 材料科学研究所 兼務 エネルギーイノベーション創発センター研究参事
1989年入所。工学博士、専門は二次電池、電力貯蔵システム、電気自動車、電気利用技術。

電気新聞 2020年1月27日掲載
電気新聞ウェブサイト 2020年4月3日掲載

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