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電気新聞テクノロジー&トレンド

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活用が期待される二次電池とは

第3回「導入が進む大容量蓄電池システム」

低炭素社会の実現には、電化推進と電源のゼロエミッション化が不可欠である。電源のゼロエミッション化のために再生可能エネルギーの大量導入が進められている。しかし、太陽光発電(PV)や風力発電(WF)は、不安定な電源であり系統安定化が必要である。また、海岸・山間へき地へ設置されるため、遠距離送電が多くなる。このため系統安定化や送電線の高効率利用を図る手段として、リチウムイオン電池(LiB)などの大容量蓄電池システムが活用されるようになった。今後さらにPV、WFが大量に導入されるに従い、蓄電池の役割は大きくなる。

わが国でも、低炭素社会実現に向けて、震災後のFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)導入の効果もあり、予想よりも10年程早くPV導入が進んでいる。大型PVは、ゼロエミッション電源でありながら、比較的設置が容易なため、ゴルフ場跡地や田畑の跡地、用水地などに導入されている。WFも主に北海道や東北地方で、徐々にではあるが設置が進んでいる。特に大規模な洋上風力の計画が多い。

しかし、これらの電源は、「お天気任せ、風任せ」の発電で、その時の天候状況により発電量は変動する。需要の有無にはお構いなしに、発電したり、止まったりする、自分勝手な電源である。これらの不安定な電源を連系する系統の安定化のために、電力貯蔵システムが活用されている(表1)。

表1 系統連系時の電力貯蔵システムの役割

表1

これまでは、揚水発電が大容量の電力貯蔵に使われてきた。電力需要の少ない夜間に水を上池に組み上げて、必要な時に、上池から放水して発電する。エネルギー効率は70%の電力貯蔵システムである。しかし、現在、自然環境などの立地条件が整わないため、新規の建設計画はない。

電力貯蔵技術では、この70%の効率が基準となる。蓄電池システムでは、電池の充電放電効率と電力変換器(交直・直交の往復)の効率とを掛け合わせた値になるため、70%以上を達成するには、それぞれで90%以上が必要となる。そのため、効率が高く、瞬時に大きな出力が出せるLiBなどの二次電池が選択されている。

系統の周波数・電圧調整に、数万キロワット級の蓄電池システムが、北海道、東北、九州に導入されている。北海道・南早来には系統安定化と余剰電力吸収にレドックスフロー電池(RF)が、東北・西仙台と南相馬には系統安定化にLiBが、九州・豊前には余剰電力吸収にナトリウム/硫黄電池(Na/S)が容量数万kWのシステムで設置されている(表2、図1)。

表2 実用化されている蓄電池の種類

表2
図1

図1 日本国内の主な1000kW級の蓄電池システム導入事例

一方、現在、北海道の60万kW・大規模WFの出力平滑化用に、24万kW/72万kWhの、世界最大の蓄電池システムの建設も進んでいる。南相馬変電所の18倍の電力貯蔵容量である。系統安定化には、エネルギー貯蔵容量に加えて、大きな出力も求められる。しかし、充電により余剰電力吸収もできるものの、火力発電と比べると、現状の出力は小さく、持続性もなく、系統安定化に十分とは言えない。

一方、離島でもPVやWFと蓄電池システムを組み合わせたマイクログリッドを構築している。隠岐諸島では、PVとWFを積極的に設置し、電力貯蔵にNa/S電池を、負荷追従にLiBをハイブリッド利用して、ディーゼル火力発電の稼働を抑制し、離島での自立運用をしている。

大容量蓄電池システムの導入が全世界で進められ、効率や寿命の観点からLiBが多く選択されている。しかし、LiBは可燃性の有機電解液を利用しているため、国内設置では所定容量を超えると危険物取扱所として広い離隔距離が要求される。そのため、設置には広大な面積の占有敷地が必要となる。

日本電気協会では、安全な運用の要件をまとめた電力貯蔵用電池規程を制定している。現時点まで、国内では発生していないが、韓国や米国で火災事故が数例、起きている。数十年の長期間の運用を目指し、燃えない電池の開発など、より安全な蓄電システムの構築が求められている。

著者

池谷 知彦/いけや ともひこ
略歴 電力中央研究所 企画グループ 兼務 エネルギーイノベーション創発センター、材料科学研究所 特任役員
1989年入所。専門は二次電池、電力貯蔵システム、電気自動車、電気利用など。工学博士。

電気新聞 2020年7月6日掲載
電気新聞ウェブサイト2020年9月18日掲載

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