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電気新聞テクノロジー&トレンド

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「食の脱炭素」へ 電中研の挑戦

人間は生命維持のために食品から栄養摂取するが、他の動物とは異なり、消化吸収や味を良くするために調理をする。今回と次回は調理に関する話題として、厨房に焦点を当てる。電化厨房は燃焼排ガスが無く、機器からの発熱が少ないなどの特長がある。しかし、一般的な電化厨房でも燃焼厨房と同等の換気量にすることが多いため、空調エネルギーの削減に活かせてこなかった。今回は電化厨房の特長を活かした省エネルギーの可能性について述べる。

第2回「業務用電化厨房①」

「3C+P」が利点
電化厨房のメリットは、「3C+P」と表現されることがある。具体的には、機器からの発熱が少なく厨房内の温度上昇がしにくい(Cool)、燃焼排ガスがなく清掃性が高い(Clean)、温度や調理時間の設定や管理がしやすい(Controllable)、調理手順のマニュアル化がしやすく生産性の向上(Productivity)が図れることである。

厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」をはじめ、厨房内の温湿度の推奨範囲は、温度25℃以下、湿度80%以下とされていることが多い。食品衛生性や労働安全性の確保から示されたものと考えられる。電化厨房は機器からの発熱が少なく、これを実現しやすい。また、2021年6月1日から、原則として食品等事業者は一般衛生管理に加えてHACCP(ハサップ:Hazard Analysis and Critical Control Point)に沿った衛生管理をすることが制度化されている。HACCPは食品衛生管理の国際的な手法で、食材や冷蔵庫内温度等の適正な管理・記録が求められている。電化厨房は、電気制御を利用しているため、加熱調理の加減を温度と時間によってデータ化して管理することが容易である。HACCPとの親和性も高い。近年では、厨房施設内の機器の運転情報を一元的に集約して、保管や配信を可能とするIoTシステムの運営がなされている事例がある。電化厨房の優位性は一層高まると言えよう。

図

図1 排気フードの有効開口面

電化厨房では調理に伴う燃焼がないため建築基準法上の火気使用室に該当しない。機器からの発熱も少ない。この二点から、換気量の低減可能性が以前から指摘されていた。他方、業務用電化厨房の従来の換気設計は、国土交通省監修の「建築設備設計基準(通称:茶本)」に基づくことが多い。特に、官庁施設の基本的な性能水準の確保を目的として、延べ面積1万平方メートル以下の一般事務所庁舎の実施設計に使い、加えて民間施設でも広く活用されている。業務用電化厨房では、排気フードの有効開口面(図1)の風速(面風速)が0.3m/s以上となる換気量が一般的である。しかし、この換気量は燃焼厨房と同じで、電化厨房の長所が生かされてこなかった。

住宅居室の約100倍
業務用厨房の換気量は住宅居室に比べて約100倍に及び、年間を通じて空調することが多い。換気量が大きいなかで、導入外気を厨房の設定温度に達するためには、空調エネルギー消費が大きくなる。換気量低減は、空調の省エネルギーに寄与する(図2)。他方、換気量を下げ過ぎると結露が生じるなどして、衛生管理上の問題となりうる。そのため、業務用電化厨房に相応しい換気量を明らかにすることが重要となる。

図

図2 業務用電化厨房の換気量低減による省エネルギー

次回は業務用電化厨房の省エネルギー化を目指して、換気設計指針の確立に向けた、過去10年以上に及ぶ電中研の取り組みを紹介する。

著者

岩松 俊哉/いわまつ としや
略歴 電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 上席研究員(現在、企画グループ 上席)
2010年入所。専門は建築環境学。建築における温熱環境や換気、省エネルギーに関する研究などに従事。博士(環境情報学)。

電気新聞 2022年4月18日掲載
電気新聞ウェブサイト 2022年7月1日掲載

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