電力中央研究所

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電気新聞テクノロジー&トレンド

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循環型社会のための未利用バイオマスの活用

地産のバイオマス資源を活用したエネルギー供給システムの構築は、途上国において、より一層重要な意味を持つ。地方電化率の低い途上国で、SDGs(持続可能な開発目標)の一つである「全ての人々にクリーンかつ持続可能なエネルギーへのアクセスを確保する」という目標を実践するためには、そこに暮らす人々の経済的自立についても支援する必要がある。今回は、農業残さを利用した電化の促進と残渣の付加価値化によるBOP(Base of pyramid)ビジネスの構築を目指した、電力中央研究所が取り組む海外プロジェクトの事例を紹介する。

第3回 米ぬかカスケード利用

アフリカの電化促進目指し/農業残さの付加価値化と両立

図

図1

農村経済力を向上
経済成長と人口増加を続けるアフリカ諸国は、近年、潜在的な巨大市場として世界中から注目を集めている。しかし、急速に近代化が進む都市部に比べ、農村部の開発は遅れがちであり、経済格差は拡大しつつある。サブサハラ・アフリカ諸国は最も貧困が深刻化している地域とされるが、アフリカ東部に位置するタンザニアも例外ではない。この国の電力供給能力は低く、都市部の電化率は大幅に上昇してきたが、農村部の電化率は依然として低い水準に留まっている。こうした地域では、例え電力が供給されても、これを購入できる住民は限られている。電化の促進には、農村住民の経済水準の向上が欠かせない。こうした課題を総合的に解決するため、当所と静岡大学、日本大学は、国際協力機構(JICA)および科学技術振興機構(JST)の委託を受け、農業残さの付加価値化と電化促進に向けたプロジェクトに取り組んでいる。

このプロジェクトでは、稲作農家の農業残渣である米ぬかから油を抽出し、ディーゼル発電によって地域の電化を促進するとともに、油を搾った後の脱脂米ぬかについても、付加価値を与え、事業化することを志向している(図1)。タンザニアの農業統計によれば、この国の米の総生産量は年間300万トンを超える。米(玄米)には10%程度のぬかが含まれるが、このぬかには約20%の油分が含まれている。無電化村落で、携帯電話の充電や夜間の照明に利用するには十分な量の油が回収できると見込まれる。日本などでは、米ぬか油は高価な食用油として、また、サプリメントや化粧品などとして広く流通している。もはや、米ぬかは廃棄物では無いと言えよう。途上国においても、より付加価値の高い用途へと米ぬかの利用はシフトしていくと予想される。しかし、米ぬかが大量に廃棄されている現状においては、燃料利用も許容されると考えられる。

プロジェクトでは、米ぬかから効率よく、不純物の少ない油を搾るため、独自の抽出技術の開発に取り組んでいる。超/亜臨界抽出技術を基に、よりタンザニアでの実用に即した緩和な条件下での抽出技術を開発するとともに、現地大学への技術移転を進めている。

養殖魚のえさ製造
もう一つのプロジェクトの柱である農業残さの付加価値化では、農村地域で小規模な養殖事業を行うことを念頭に、地産の原材料を利用した魚のえさの製造に取り組んでいる。タンザニアでは近年、魚の消費量が増加しており、これに伴い、養殖魚の生産も増えている。養殖魚のえさはほとんどが海外からの輸入に頼っているため、養殖事業を行う上での大きな経済的負担となっている。本プロジェクトでは、稲作農家が地産の農業残さを利用し、自前でえさを調達することで、農業従事者による自律的なBOPビジネスの構築を目指している。現在、米ぬかを主原料とするえさの配合法や製造技術を確立するとともに、貯水池を利用した養殖池(写真)での試験養殖に取り組んでいる。

写真

地産地消の循環システム構築に向けて試験養殖に取り組んでいる(写真はタンザニアの養殖池)

食料生産の過程で生じる農業残さのカスケード利用は、地産地消のエネルギー循環システムのモデルとして、広くアフリカや東南アジアの農村地域の発展に寄与すると期待される。

3回にわたり未利用バイオマスの活用に関する電力中央研究所の取り組みを紹介した。脱炭素化やエネルギー・アクセス向上などの社会課題に対し、電力中央研究所は総合力を生かして、今後も貢献していきたい。(この項おわり)

<用語解説>
BOPビジネス:世界中で最も所得の低い層(BOP=Base of pyramid)の生活水準向上に寄与するビジネス

カスケード利用:資源やエネルギーを1回のみ使うのではなく、多段階に有効活用すること

著者

土屋 陽子/つちや ようこ
略歴 電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 上席研究員
1994年入所。専門は工業化学。2008年から、バイオマス生産、燃料変換、環境影響評価、廃棄物利用等、バイオ燃料に関する研究に従事。博士(理学)。

電気新聞 2023年8月7日掲載
電気新聞ウェブサイト 2023年9月29日掲載

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