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電気新聞テクノロジー&トレンド

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光で電気を送る「光給電技術」

レーザーなどの光エネルギーを遠隔地で電力として用いる光給電は、磁界や電界、電波を用いた非接触給電と比較すると長距離化が可能という特徴がある。第1回と第2回では、技術の概要や、研究開発のトレンド、宇宙、水中、医療などを含む幅広いアプリケーションでの利用の可能性を紹介した。最終回となる第3回では、電力業界での活用という視点で研究開発事例や今後の見通しを紹介する。

第3回 電力業界での光給電技術の活用に向けて

絶縁確保しながら電力供給可能/設備の耐雷性能が大幅向上

特徴活かした開発
電力業界での光給電の利用を考えると、光源側と受光素子側で電気絶縁を確保しながら電力供給が可能という特徴と、雷サージや開閉サージの電磁誘導を受けにくいという特徴は魅力的である。光給電は、数百メートルを超える空間伝送や、10キロメートルを超える光ファイバーでの伝送なども可能であり、高電圧が印加された箇所に取り付けた装置に対して十分安全な場所から電力供給が可能である。今回は、電力業界での活用に向けて、前述のような特徴を活かした研究開発として、現在進められている、図1に示した事例を紹介する。

図

(1)「送電線・配電線のセンシング」は、光給電で電気絶縁を確保しつつ電力供給を行い、電流や電圧などを測定するセンサーを動作させるシステムであり、設備の新設の多い海外を中心に研究開発が進められている。当所では、送電線に沿って敷設されている光ファイバー(OPGW=Optical ground wire)を光給電の伝送路として用い、鉄塔周辺のセンシングを行うシステムの研究開発を進めている。多様なセンサーを用いることで、気温、降雨、風速、降水量、加速度(振動や傾き)などのさまざまな情報を収集できる。

(2)「風力発電の羽根のモニタリング」は、風車の羽根の内部にひずみセンサーや角速度センサーを取り付け、運転状態を遠隔からモニタリングするシステムであり、欧州で実証試験が進められている。3枚の風車の羽根の内部に取り付けたセンサーモジュールの電源供給に光ファイバー給電が利用されており、羽根への落雷があった際にもサージ電流を原因とする故障が発生しないセンシングシステムの実現が可能となる。

(3)「無線設備の耐雷性能向上」は、電力設備の遠隔監視制御などの通信で用いられているマイクロ波無線設備の耐雷性能向上を目指した研究であり、当所で実施している。アンテナと無線機の接続を金属製の導波管や同軸ケーブルから電気絶縁に優れた光ファイバーに置き換えることで、アンテナ側から無線機へのサージ電流の流入を防ぐことができる。光ファイバー給電を用いることで、アンテナ近傍に配置する通信装置全体を等電位とすることができる。図2に示すアンテナ直撃雷を想定したインパルス実験により、アンテナ側通信装置は故障することなく良好な通信状態が維持できることを確認している。

図

(4)「光ファイバー通信と無線通信を融合した高信頼通信ネットワーク」は、光ファイバーネットワークに接続されたリモートアンテナが送電鉄塔などに取り付けられ、光ファイバーと広帯域の無線をシームレスに接続する、高信頼で広帯域な通信ネットワークの構想である。当所が「TOWER LINK」と命名し研究を開始させている。リモートアンテナの電源として、光ファイバー給電や光空間給電を選択肢とすることで、通信ネットワークのレジリエンス強化などが期待できる。

汎用的電源の未来
近年、米国で光給電のベンチャー企業が登場するなど、光給電の普及への期待は高まりつつある。技術が進展することで、安全性や信頼性が向上し、コスト低下が一層進み、汎用的な電源として受け入れられていく未来に向けて、読者の皆さまと一緒に光給電技術を育てていくことができれば望外の喜びである。

連載の最後に光給電の技術が整っていくことを祈りながら、新春らしくなぞかけを整えさせて頂こうと思う。

「光給電」とかけて「コロナウイルス対策」ととく。そのこころは「コウゲン(光源、抗原)を調べ、デンセン(電線、伝染)を減らします」。どうもありがとうございました。

著者

池田 研介/いけだ けんすけ
略歴 電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 上席研究員
広報グループサイエンスコミュニケーター(兼務)
2006年入所。専門は光ファイバー通信、光給電、無線通信など。2023年4月に開催された、光給電の国際会議「OWPT2023」ではプログラム委員長を務めた。光ファイバー給電を用いた電気絶縁可能なアンテナシステムの研究では、2022年度電子情報通信学会通信ソサイエティ優秀論文賞を受賞。毎年発刊される電気新聞ジュニアムック「かがく探究ヒントBook」では子ども向けの実験工作コーナーを監修。博士(工学)。

電気新聞 2024年1月15日掲載
電気新聞ウェブサイト 2024年2月16日掲載

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