電力中央研究所

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電気新聞テクノロジー&トレンド

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産業用ヒートポンプの普及拡大に向けて

本連載では、電力中央研究所、日本エレクトロヒートセンター、ヒートポンプ・蓄熱センターの3者で、全4回にわたって産業用ヒートポンプの導入状況やポテンシャルを紹介するとともに、普及への障壁を解消するための施策について考察する。第2回では産業用ヒートポンプの種類とその普及状況、普及における課題について解説する。

第2回 産業用ヒートポンプ普及への課題

検討に時間要する熱源転換/相互協力で導入効果創出
ヒートポンプは、家庭や事務所で多く使われているが、工場においても利用用途は多く存在する。空調、給湯はもちろんのこと、生産プロセスにおける加温・保温・洗浄のほか、一部の殺菌などに利用する100度未満の温水や、乾燥工程などに利用される熱風、100度以上の加熱や蒸留・濃縮工程などに利用する蒸気など、様々な用途で産業用ヒートポンプが活躍している。

日本エレクトロヒートセンター(JEHC)では産業用ヒートポンプの普及拡大に向け、2018年から導入量の調査を毎年実施している。図は業務用給湯ヒートポンプ、循環加温ヒートポンプ、水熱源ヒートポンプ、熱風ヒートポンプ+蒸気ヒートポンプ及び蒸気再圧縮システムの導入台数の推移を示したものである。総導入台数は23年時点で延べ4050台(空冷ヒートポンプチラーを除く)。脱炭素化に向け、注目を集める産業用ヒートポンプだが、近年の導入数は残念ながら鈍化傾向である。

図

水熱源として3種
産業用ヒートポンプは熱を作る手段として、空気から熱を取り出す「空気熱源」と、水から熱を取り出す「水熱源」に大別される。ここでは空気熱源に比べ高温帯かつ大容量の熱を作り出せる、水を熱源とするヒートポンプ(3種類)を紹介する。

まず、導入割合も高い水熱源ヒートポンプは、温水を生成する際に熱源として水を使う(水から熱を取り出す)が、この使われた水は冷たくなることから冷却工程に利用でき、1台で温水と冷水が同時に取り出せる優れものである。工場では使われずに捨てられている熱も大量に存在していることが分かっている。例えばクーリングタワーからの廃熱をうまく活用すれば、高い省エネ効果が発揮されることから、大企業を中心として活用が検討されている。

2つめの循環加温ヒートポンプも製造業に多くある保温や加温工程において、高い省エネ効果を発揮する。使われた温水を再加温し循環することは、水資源のムダを無くすことにもつながる。

3つめは乾燥工程などに利用される熱風ヒートポンプ。空気・水それぞれを熱源とするものがあり、利用用途に応じて使い分ける。水を熱源とする場合は冷水としての利用も可能である。

どのヒートポンプも導入効果を確実にするためには時間ごとの熱量把握が重要である。これまで利用されていた化石燃料との併用利用(ハイブリッド)も、熱需要への変動対応や導入費用の低減などの効果を高める方法であり、重要なポイントである。

経営者の理解が鍵
2010年頃までは、メーカーと電力会社が共同で様々な種類のヒートポンプを開発し、提案や普及活動も積極的に行われていた。しかしながら、近年は電力会社を取り巻く環境が大きく変化したことなどもあり、顧客への提案頻度は少なくなっている。工場・プロセスの熱源を化石燃料から転換するには、検討に非常に多くの手間と時間がかかる。産業用ヒートポンプの知識に加え、生産プロセスの理解も必要である。顧客(現場の設備担当)、メーカー、エンジニアリング企業、エネルギー事業者など相互の協力が不可欠である。過去の導入事例では、知恵を出し合い検討することで、それぞれの役割が機能し大きな導入効果を生み出してきた。素晴らしい成果には、活動を理解し、評価する経営者の存在があることは言うまでもない。工場の脱炭素化に向けて、経営者に産業用ヒートポンプのポテンシャルを理解頂き、強いリーダシップのもと、多くの導入検討がされることを期待する。

JEHCでは産業用ヒートポンプの認知度拡大、提案人材の育成と拡大、導入費用に関する支援(補助事業)について、関係団体や政府と課題を議論し対策強化を実施している。熱源の転換は非常に難しいことから、導入事例を多く取材しホームページにて公開しているので、ぜひ参照を頂きたい。

著者

渡邉 規寛/わたなべ のりひろ
略歴 一般社団法人 日本エレクトロヒートセンター(JEHC)企画部 部長
1996年東京電力入社。火力発電所での運転業務、設備更新・管理などの経験をもとに2001年に営業部門へ転換。以降、製造現場の省エネルギー提案に従事。22年7月からJEHCにて産業分野の電化における対応(政策対応、セミナー講師など)を実施している。

電気新聞 2024年11月18日掲載
電気新聞ウェブサイト 2024年12月13日掲載

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