原子力技術研究所 放射線安全研究センター

HOME > トピックス > 低線量放射線の発がんリスクに関連する報道について

低線量放射線の発がんリスクに関連する報道について

本年6月末に、米国科学アカデミー(NAS)および世界保健機関(WHO)から、低線量放射線の影響に関する報告・論文が相次いで発表され、新聞等で報道されるなど関心を集めています。当センターは、低線量放射線の生体への影響について研究を行っている立場から、これらの論文や新聞記事についてコメントさせていただきます。


1. 米国科学アカデミーの報告について

米国科学アカデミーの電離性放射線の生物影響に関する委員会(Committees on the Biological Effects of Ionizing Radiation、BEIR)が、このたび、低線量放射線の健康リスクに関する報告書を発表しました。

この報告書は新聞報道等でも取り上げられ、本年7月1日付の東京新聞では、「放射線被ばくは低線量でも発がんリスクがあり、職業上の被ばく限度である5年間で100ミリシーベルト(mSv)の被ばくでも約1%の人が放射線に起因するがんになる」と紹介されました。 BEIR報告書

  • 報告書は「疫学的な情報からは、固形がんで100mSv、白血病で200mSvよりも低い線量域での影響(リスク)を評価することは困難である」と述べています。報道で紹介された、「100mSvの被ばくで約1%の人ががんになる」という数字は、放射線はどんなに低い線量でも健康に害を与え、その影響は線量に比例するという「仮定」(LNT仮説)に基づいて試算されたものです。

  • この仮定そのものは、これまでも放射線防護のための実際的な考え方として用いられており、従来はがん死亡率として1000mSvの被ばくで100人に5人(100mSvでは100人に0.5人)という数字が使われていました(BEIRの1990年報告)。今回の報告では「100人に1人」となっており、一見すると大きくなったように見えますが、こちらはがん発症率で表されており、直接比べることはできません。報告書には「がんにかかった場合に死に至る割合は約半分」と述べられていますので、がん死亡率にすると「100人に約0.5人」となり、今回の報告で従来の数字が大きく変わったわけではありません。

  • これらの数字はいずれもLNT仮説に基づいて計算されたものであり、実際の影響を正しく表しているとは限りません。当センターの研究では、これまでにLNT仮説では説明できない事例が数多く見つかっています(*)。また、当センターを含めた国内外の研究成果をとりまとめた「線量・線量率マップ」(**)からは、放射線は一度に被ばくした場合と、少量ずつ時間をかけて被ばくした場合とでは影響が異なることも明らかになっています。このことは、放射線作業従事者が少量の放射線を何度も被ばくするような場合には、LNT仮説から予想されるよりも実際のリスクはずっと小さくなることを示唆しています。

  • 当センターは、これからも低線量の放射線が生体に与える影響を明らかにするための研究を続け、正しい情報の発信に努めてまいります。


2. 世界保健機関の論文について

WHO(世界保健機関)に設置されているIARC(国際がん研究機関)は、このたび、15ヶ国の原子力発電所等放射線作業者における外部放射線被ばく健康影響についての疫学解析結果をBritish Medical Journal (BMJ)誌上に論文発表しました。

この論文の内容は新聞等で報道され、本年6月26日付の読売新聞夕刊では、「国際基準で許容される上限(5年間で100mSv)で被ばくした場合、がんによる死亡率が約10%増加すると推計できることが分かった」と紹介されました。


  • 厚生労働省の「人口動態統計」によれば、日本人の約30%はがんでなくなります。報道にある「がん死亡率が約10%増加」とは、これが10%増えて40%になるのではなく、30%の10%、すなわち3%増えて約33%になることを示していますので注意が必要です。

  • 「がん死亡率が約10%増加」という数字は、従来と比較して3倍ほど大きくなっていますが、統計的に見ると有意な差ではありません。また、データの取り扱い方法などに関して問題点も指摘されており、専門家による今後の検討が待たれるところです。

  • この論文については、国内の調査を実施した(財)放射線影響協会が詳しい解説と見解をホームページ上に発表しております。興味をお持ちの方はそちらをご覧下さい。

    (財)放射線影響協会

このページのTOPへ

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry