原子力技術研究所 放射線安全研究センター

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【放射線ホルミシス効果に関する当センターの見解】

1990年代から2000年代前半にかけて、当所では放射線ホルミシス効果の検証を目的として実施したプロジェクトを実施しておりましたが、現在のホルミシス効果に対する当所の見解は「放射線ホルミシス効果に関する当センターの見解」の通りであり、ホルミシス効果を人に対する低線量放射線の影響として一般化し、放射線リスクの評価に取り入れることは難しいと考えております。

放射線Q&A

私たちは日常生活でどの位の量の放射線を浴びているのか?

放射線にはアルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線があるというが、それぞれ何が違うのか?

原爆症のニュース等から、多量の放射線を浴びると危険であることはわかるが、少量でも放射線を浴びると危険なのか?

食物に放射性物質が入っているが、人体に影響はないのか?

以前、病院でCTスキャンをやったが、人体に影響はないのか?LNT仮説が正しいならがんに罹り易くなるのではないか?

放射線は体内に蓄積されるのか?

発芽抑止に放射線を照射されたジャガイモを食べても、体に悪影響はないのか?

「少量の放射線を浴びると逆に体にいい効果がある」と聞いたことがあるが、具体的にはどのようなものか?

普段、原子力発電所からどの程度の放射線が外に出ているのか?

原子力発電所から出る放射線と、X線検査で浴びる放射線では違いがあるのか?



私たちは日常生活でどの位の量の放射線を浴びているのか?

私たちは、普段の日常生活でも、ごく少量の放射線を浴びています。これは「自然放射線」と呼ばれるもので、その線量は地域により異なります。また、エックス線検査などの医療診断で放射線を浴びることがあります。このような、私たちが日常生活で受ける放射線の量をまとめたものが図1です。
尚、図1にあるように、放射線の人体への影響を考える場合には、「一度にどれだけ被ばくしたか」(線量)だけでなく、「その量をどのくらいの時間をかけて被ばくしたか」(線量率)についても考慮する必要があります。

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放射線にはアルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線があるというが、それぞれ何が違うのか?

アルファ線は、放射性物質が放出するアルファ粒子の流れで、ヘリウム(He-4)の原子核がその正体です。プラスの電気を持ち、ベータ線の7千倍以上の重さがあります。アルファ線はほかの放射線(ベータ線など)に比べると物を突き抜ける力は弱く、薄い紙一枚でストップしてしまいますが、その間に遮った物質に全エネルギーを与えるので、放射線としての作用は大きいです。
ベータ線はアルファ線と同様に放射性物質から放出される粒子で、原子核の中から放出される電子1個がその正体です。マイナスの電気を持ち、アルファ線よりも非常に軽いです。アルファ線に比べて物質に及ぼす作用は小さいですが、透過力は大きく、空気中で数十センチから数メートル飛びます。
ガンマ線は励起状態にある原子核がより安定な状態に移るとき、または粒子が消滅するときに生ずる電磁波です。放送や通信に使われる電波と同じく空間を伝わって広がっていくとともに、物質の中を比較的よく通り抜けていきます。
また、エックス線も放射線ですが同じく電磁波です。(図2) また、中性子線も放射線ですが、これは、原子核を構成している粒子の一つである中性子が原子核から出てくるもので、原子炉の中でウランなどの原子核が核分裂すると中性子が出てきます。

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原爆症のニュース等から、多量の放射線を浴びると危険であることはわかるが、少量でも放射線を浴びると危険なのか?

当センターでは、少ない線量の放射線の生体への影響について研究しています。それは少ない線量の放射線でも何らかの生体への影響があるからです。しかし、人間の体の異常や病気を引き起こす要因は放射線だけではありません。食べ物、大気中の物質、ウィルスなど、その要因にはさまざまなものがあり、放射線はその中の一つです。さらに、地震、台風などの天災、交通事故など、私たちの生活はさまざまなリスクにさらされています。リスクの認知の仕方(どのような要因のリスクをどの程度危険と感じるか)は人それぞれに異なります。一般的に「放射線」は、原爆、原子力発電所の大事故などの悲惨なシーンを想起させるため、客観的・科学的に評価されたリスク要因間の比較よりも、人々のリスク認知において、他のリスク要因よりもより「危険」と認知される程度が強いといえます。しかし、実際の放射線影響は、広島・長崎の原爆被爆者12万人を戦後50年以上調査しても100ミリシーベルト(注)以下の低線量域においては明確なデータは得られておらず、十分にわかっていません。
一方、中国とインドにおける自然放射線レベルの高い地域に住む住民の調査をしたところ年間5〜15ミリシーベルト程度の放射線を受けてもリスクが上昇しないことが示される結果が得られています。
上記やその他のこれまでの種々の研究から、少ない線量(200ミリシーベルト以下)の放射線を浴びることのリスクは、客観的・科学的に見て心配するような大きさではないといえます。
(注)シーベルト:放射線の線量の大きさを示す単位の一つで、主として人体への影響を考える場合に用いられます。

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食物に放射性物質が入っているが、人体に影響はないのか?

私たちの体の中には食物などを通じて吸収されたいろいろな放射性物質があり、それらからも放射線を受けています。その主なものは、カリウムや鉛、ポロニウムなどです。これらの放射性物質による被ばく線量は平均的日本人で1年間に約0.41ミリシーベルトです。この値は自然から受ける放射線量の世界平均2.4ミリシーベルトに比べても十分に小さく、人体に影響があるとはいえません。

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以前、病院でCTスキャンをやったが、人体に影響はないのか?LNT仮説が正しいならがんに罹り易くなるのではないか?

LNT仮説(しきい値無しの直線仮説)とは、放射線を利用する際に放射線のリスクをできるだけ軽減するための安全側の考え方で、これに基づいて現在の放射線防護基準の法令が定められています。(図3
しかし、実際の放射線影響は、広島・長崎の原爆被爆者12万人を戦後50年以上調査しても100ミリシーベルト以下の低線量域においては明確なデータは得られておらず、十分にわかっていません。
一方、中国とインドにおける自然放射線レベルの高い地域に住む住民の調査をしたところ年間5〜15ミリシーベルト程度の放射線を受けてもリスクが上昇しないことが示される結果が得られています。
いずれにしても一回のCTスキャン検査で受ける6〜7ミリシーベルト程度の低線量放射線のリスクは身の回りの他のリスクと比べても極めて低いと考えられるため、発がんを気にする必要はありません。

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放射線は体内に蓄積されるのか?

放射線そのものは体内には蓄積されません。健康診断などでレントゲン撮影をした後、身体に放射線が残って何らかの害が生ずる、ということはありません。

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発芽抑止に放射線を照射されたジャガイモを食べても、体に悪影響はないのか?

ジャガイモは収穫後2〜3ヶ月を過ぎると発芽してしまうため、3月〜4月に出荷するジャガイモの一部に放射線を当てて芽止めをしています。エックス線検査などで放射線を浴びても人体に残らないのと同様に、放射線を食品に照射しても放射線は残りません。したがって、それを食べても体に影響はありません。

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「少量の放射線を浴びると逆に体にいい効果がある」と聞いたことがあるが、具体的にはどのようなものか?

一般に「放射線ホルミシス」と呼ばれています。元々は米国ミズーリ大学教授のトーマス・D・ラッキー博士が1982年に提唱したものです。これは「少しの放射線は、免疫機能の向上などをもたらし、身体のあらゆる活動を活性化し、病気を治したり、病気にかからない強い身体にしたり、老化を抑えて若々しい体を保つなど、さまざまな体によい影響を及ぼす」というもので、放射線は少しでも有害であるとする社会通念や放射線防護の規制概念とは全く異なる画期的なものでした。その後世界中で放射線ホルミシスに関する研究が行われています。効能としては、関節リウマチ・腰痛・神経痛・喘息・がん再発防止・がん治療向上・糖尿病等に有効とされています。しかし、この放射線ホルミシス効果については現在もさまざまな研究や議論が行われている最中で、定説はありません。尚、現在のホルミシス効果に対する当所の見解は「放射線ホルミシス効果に関する当センターの見解」の通りであり、ホルミシス効果を人に対する低線量放射線の影響として一般化し、放射線リスクの評価に取り入れることは難しいと考えております。

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普段、原子力発電所からどの程度の放射線が外に出ているのか?

原子力発電所から受ける放射線の量は、自然放射線による線量(年間世界平均2.4ミリシーベルト)よりもはるかに低く(図1)、国内における自然放射線の地域差よりも少ないことから、原子力発電所による影響はほとんどないものと考えられます。

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原子力発電所から出る放射線と、X線検査で浴びる放射線では違いがあるのか?

自然放射線と人為的な放射線の区別は、放射線の発生源が自然のものか人為的なものかということだけで、放射線の性質に違いがあるわけではありません。

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図1

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図2

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図3

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