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フランス医学・科学アカデミーが低線量放射線による発がんと線量効果関係に関する見解を発表

フランス医学アカデミーとフランス科学アカデミーは共同で、低線量電離放射線による発がん影響の評価と線量効果関係について、報告書「低線量電離放射線による発がん効果の評価と線量効果関係(LA RELATION DOSE-EFFET ET L'ESTIMATION DES EFFETS CANCEROGENES DES FAIBLES DOSES DE RAYONNEMENTS IONISANTS)」をとりまとめました。本報告書は、2005年3月に英語版、4月にフランス語がウェブサイトで公表され、7月に図書として刊行されました。


本報告は、最新の研究成果を収集・分析した結果として、現在の放射線防護の考え方の基礎となっているLNT(しきい値無し直線)仮説を、100mSv以下の低線量域でのリスク評価に用いることに対して疑問を投げかけている点で注目されます。以下に本報告書の概要を紹介します。


  • 200mSvから5,000mSvの電離放射線による発がんのリスクは、数多くの疫学データに基づくものである。この線量範囲では、LNT仮説は、線量と発がん影響との関係をよく表すことができる。

  • 100mSv以下の低線量域では、リスクが増加したとしてもごくわずかであるため、疫学により統計的に有意なリスクを検出することは難しいのが現状である。このため、現時点においては、200〜3,000mSvで観察された発がん影響から外挿すること(LNT仮説を適用すること)が、低線量放射線(<100mSv)のリスクを評価する唯一の手法となっている。

  • 一方、近年の放射線生物学の進展により、以下のような新しいデータが示されてきている。これらは、低線量放射線の影響が少ないことやしきい値の存在を示唆するものであり、数十mSvより低い線量の範囲でLNT仮説を適用することの妥当性について疑問を呈している。

    1. 放射線の影響は単に細胞に蓄積するのではなく、傷ついた細胞の除去、DNA修復システムの活性化、放射線感受性の変化等が起こり、結果として線量や線量率によって影響は違ってくる。
    2. 放射線発がんのメカニズムは、LNT仮説の基礎となっている比較的単純なモデルでは説明できず、細胞間の相互作用が関係するより複雑なものに置き換えられている。この発がんプロセスは生体が持つ防御機能により抑制され、特にがん化した細胞が正常な細胞に囲まれている場合(低線量放射線のように損傷が集中しないような場合)により大きな効果が期待できる。
    3. 免疫監視システムにより、がん化した細胞のクローンが除去され、発がんが抑えられる。

  • これらのデータからすぐにしきい値のレベルを決めることはできないが、少なくとも低線量や極低線量のリスクを外挿して評価するためにLNT仮説を用いることには、注意を払う必要がある。

  • LNT仮説は、約10mSvを超える線量の放射線防護規則を定めるためには、実用的で便利なツールになりうるが、現在の生物学的概念知識に立脚しているとは言えない。200mSvを越える線量でしか検証されていない経験的な関係を使用することは、リスクの過大評価になり、病人に有用な情報を提供できるかもしれない検査を放棄させることになりかねない。また、放射線防護に関して、誤った結論に導く可能性もある。


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