社会経済研究所

社会経済研究所 コラム

PDF版 2026年1月8日

米国の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)からの「脱退」について

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 上野貴弘

 米国のドナルド・トランプ大統領は2026年1月7日(現地時間)に、66の国際組織・条約から脱退することを指示する覚書に署名した。その脱退対象には、国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change, UNFCCC)が含まれている。本稿では、この覚書の内容と影響について、この時点では不明確な側面(特に「脱退」の意味合い)も含めて速報的に解説する。

(1) 大統領覚書の記載について

 トランプ大統領は2025年2月4日に「国連機関からの脱退、国連機関への拠出停止、全ての国際機関への米国の支援の見直し(Withdrawing the United States from and Ending Funding to Certain United Nations Organizations and Reviewing United States Support to All International Organizations)」に関する大統領令に署名し、どの組織・条約から脱退するかを検討してきた。そして、2026年1月7日に「米国の国益に反する国際組織、協定、条約からの脱退(Withdrawing the United States from International Organizations, Conventions, and Treaties that Are Contrary to the Interests of the United States)」に関する大統領覚書に署名し、UNFCCCを含む66の国際組織や条約から脱退するように関係省庁に指示した。
 論点になるのは、この覚書において、「国連組織(United Nations entities)に対しては、脱退は参加と拠出の停止を意味する」と書かれていることである。もし、UNFCCCが国連組織とみなされれば、正式な脱退手続きを取るのではなく、締約国会議(COP)などへの参加停止や条約事務局への拠出停止に留まることになる。実は2025年のトランプ政権の発足後、米国は既にCOPを含むUNFCCC会合への参加と条約事務局への拠出を停止しており、これだけであるならば、追加的な影響はない。他方、国連組織ではなく、条約とみなすのであれば、脱退手続きを正式に進めることになる。
 どちらを意図するのかははっきりしないが、今回の大統領覚書では、UNFCCCを"United Nations (UN) Organizations"に分類しており、これだけをみる限りは、参加と拠出の停止のみに留まるように見える。ただ、国連組織については参加と拠出の停止に留めるとする意図は、多くの国連組織は国連の内部組織であって、選択的に脱退することはできないためかもしれず、そうだとすれば、選択的に脱退可能なUNFCCCについては、やはり脱退手続きを進める意図があるのではないかとも捉えられる。なお、大統領覚書で国連組織として列挙された組織の大半は国連の内部機関や部署である。また、国連のウェブサイト上の“UN System”の説明では、UNFCCCは関連組織(related organizations)と位置付けられている。

(2) 脱退手続きを進める場合について

 このように、本稿執筆時点では真意は不明であるが、脱退手続きを進める場合、最初のステップは条約の寄託者である国連事務総長への通告であり、通告がなされた場合、その情報は寄託者通告のウェブサイトに掲載される。したがって、米国が脱退手続きを開始したかどうかは、このウェブサイトを確認すればわかる。
 仮に脱退を通告した場合、条約の第25条の規定にしたがい、寄託者の通告受領から1年後に脱退は効力を持つ。ただ、米国の国内法上は、大統領の権限でUNFCCCから脱退できるのかという論点がある(※以下の記載は上野(2024, 2025)に基づく)。UNFCCCは合衆国憲法の規定にしたがい、上院の助言と同意(※出席議員の3分の2以上の賛成が必要。以下では助言と同意のことを承認と表現する)を得て、当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領が批准した条約である。上院が承認した条約の脱退に際しては上院の承認が必要との説があり(Koh 2018)、これにしたがえば、大統領の権限だけではUNFCCCを脱退できないとなる。他方で、憲法が規定しているのは批准のみであり、脱退は規定していないことから、大統領の権限で脱退可能との説も根強い(Bradley 2014, Galbraith 2020)。トランプ大統領が上院の承認を得ずに脱退手続きを進めた場合、脱退に対し法的に異を唱える人(たとえば民主党の上院議員)が訴訟に持ち込む可能性がある。しかし、訴訟になっても、即座に脱退手続きが止まるわけではなく、現在の最高裁はかなり保守的であるので、脱退を違憲と判断しない可能性は十分にある。
 さらに見極めが難しいのは、脱退した条約に将来の大統領が復帰する際に再度の上院承認が必要なのかどうかである。この点について、最初に批准した際の上院承認が引き続き有効で、再承認は不要との主張があり(Galbraith 2020)、将来の大統領(特に民主党の大統領)がUNFCCC復帰を望む場合、1992年の上院承認が引き続き有効と捉え、まずは大統領権限だけで復帰するのだろう。しかし、復帰に異を唱える人(たとえば共和党の上院議員)が訴訟に持ち込む可能性が高い。この場合も、訴訟になったからといって、復帰手続きが即座に止まるわけではないが、最高裁が現在のまま保守的であれば、復帰を違憲と判断する可能性はある。そうなったときには、再度の上院承認が必要となるが、現在の共和党は1992年当時の共和党よりもかなり保守的であり、承認に必要な3分の2の賛成を得られるかは微妙であろう。たとえば、定数100の上院で共和党と民主党の議席数が50対50の場合、民主党の全議員が復帰に賛成であっても、共和党からも17名の賛成が必要となるが、この賛成票を得るのは容易ではない。
 UNFCCCに復帰できない場合、パリ協定はUNFCCCの締約国のみが締結できるとの規定を置いていることから、パリ協定にも復帰できないことになる。これまでオバマ大統領がパリ協定を締結し、トランプ大統領が脱退し、バイデン大統領が復帰して、トランプ大統領が再脱退してきたが、これらはいずれも大統領権限によるものであった。パリ協定は米国の国内法上は、上院の承認が不要な行政協定と位置付けられているためである。つまり、通常であれば、将来の大統領はバイデン大統領がそうしたように大統領の権限でパリ協定に復帰できるが、UNFCCCに復帰できないとなると、パリ協定側の規定があるため、協定にも復帰できなくなる。

(3) 脱退手続きを進める場合の国際的な影響

 米国は2025年からCOPなどUNFCCCの会合への参加を止めており、これに加えて、形式的に条約を脱退しても、短期的な追加影響は小さい。
 しかし、(2)で述べたように、正式に脱退する場合、将来の政権交代時のUNFCCCやパリ協定への復帰が難しくなる、あるいは復帰しても、その判断が訴訟によって覆るリスクが長期間にわたって残る。仮に2028年の大統領選挙で民主党候補が勝利し、翌2029年1月20日の就任日に復帰を通告し、それに対する訴訟の終結に1年を要したとすれば、帰結が判明するのは2030年頃となる。大統領選挙で共和党候補が勝利すれば、さらに4年間、脱退の状態が続いたうえに、その後にも復帰できないリスクが残り続けるかもしれない。
 このように全員参加が回復しないかもしれないとのリスクが残ることで、気候変動の国際協調の機運が徐々に低下するおそれがある。仮に米国の復帰の蓋然性が低くなった場合には、海洋法条約や生物多様性条約のように、米国が締結していない多国間条約を参考に、米国抜きの国際協調のあり方や米国が条約の外側から協調する方法を考える必要があるのかもしれない。ただ、これらの条約が扱う課題と気候変動対策は問題構造が異なるため、その具体的な姿を想像することは現時点では難しい。

参考文献

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