社会経済研究所

社会経済研究所 コラム

PDF版 2026年1月13日

EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の最新動向(1)―対象品目拡大の提案

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 上野貴弘

 EUは今年から、炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism, CBAM)を本格実施する。CBAMは、輸入品の生産時の排出量に課金する関税的な措置である i)。EU域内の排出事業者は排出量取引制度(EU ETS)の下で炭素コストを負うが、CBAMは輸入品にも同等のコストを課し、域内品と輸入品の炭素コスト差を埋めることを狙う。

 しかし、今のところ、埋め合わせは完全ではない。というのも、CBAMの輸入課金の対象は主に鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料(アンモニア、硝酸カリウムを含む)、水素といった素材であるが、これらを加工・合成して部品や完成品として輸入すれば、課金対象から外れるためである。特に、鉄とアルミは用途が非常に広いことから、川上の鉄鋼製品のみをCBAMの対象とする限り、川下製品の輸入という迂回行為が蔓延する可能性が高い。こうしたリスクを回避するためには、川下製品にもCBAMを適用する必要がある。ii)

 この問題構造を踏まえ、EUの行政機関である欧州委員会は2025年12月17日に、鉄鋼とアルミニウムを素材として使用する107品目の「複合金属製品」(combined metal products)を、2028年からCBAMの対象とすることを提案した(European Commission 2025a, b)iii) 。本稿は、これら追加提案品目の特徴を、各品目の日本からEUへの輸出額を考慮しながら解説するものであるiv)

1. 選定基準と類型

 欧州委員会は、従来の対象品目である鉄鋼、アルミニウム、セメント、アンモニア・肥料、水素のうち、鉄鋼とアルミニウムの川下製品をCBAMの対象として追加することを提案した。セメントの川下製品(レンガ、コンクリート等)が対象となっていないのは、そうした製品は長距離輸送が困難であり、輸入量が小さいためである。他方、アンモニア・肥料と水素の川下製品が対象となっていないのは、別の理由による。これらの川下製品は化学品であるが、他の化学品(特に有機化学品やポリマー)は生産プロセスが複雑で、品目も多様であることから、今のところCBAMの対象となっていない。アンモニア・肥料と水素の川下製品だけを先行させると、その製品に含まれる他の化学品原料の排出量は課金されないことになり、制度全体の内部一貫性を保てないことから、今回は追加見合わせとなった(European Commission 2025c)。

 鉄鋼とアルミニウムの川下製品は多種多様であるが、今回選ばれた107品目は、貿易集約度、製品の付加価値に対する炭素コストの割合、当該製品の全輸入の排出規模などを考慮して絞り込まれたものである。対象品目はEUの関税品目分類(Combined Nomenclature、略称CN)で指定されており、今回の追加提案では、機械類(第84類、第85類)、鉄軌道以外の車両(主に自動車)とその部品(第87類)、測定機器・医療機器(第90類)、家具・寝具・照明器具(第94類)などに属する品目の一部が指定されている。また、107品目のうち33品目は鉄・アルミ以外の素材で作られている場合があり、課金対象となるのは、鉄・アルミを含む場合のみと明記された(European Commission 2025b)。表1に、追加提案品目のうち、2024年のEUの輸入額が大きいものを例示した。

表1 追加提案品目のうち、2024年のEUの輸入額が大きいもの

CNコード 品目の概要 2024年の
EUの輸入額
(百万€)
9018 90 84 その他の機器(医療用等)(鉄またはアルミニウムを含むもの) 7,810
8704 21 貨物自動車(総重量5t以下、8704 21 39および8704 21 99を除く。ディーゼルエンジン) 6,174
8708 40 変速機およびその部品(自動車用のもの) 5,015
9403 20 その他の金属製家具(鉄またはアルミニウムを含むもの) 3,542
8708 70 車輪およびその部分品・附属品(自動車用のもの) 2,166
8708 80 懸架装置およびその部品(ショックアブソーバーを含む)(自動車用のもの) 2,155

注)9018 90 84と9403 20は全輸入のうち、「鉄またはアルミニウムを含むもの」にのみCBAMを課すことが提案されているが、貿易統計上、含むものと含まないものが区別されていないため、表中の2024年の輸入額は材料を問わず全輸入の金額となっている。表2、表3、図1も同様。

出典:European Commission (2025b)、EU貿易統計に基づき筆者作成

2. 追加品目がEUの輸入額に占める割合

 続いて、CBAMがEUの輸入をどの程度、カバーするのかを見ていく。表2は、対象品目の2024年の輸入額とEUの全輸入額に占める割合を示したものである。対象品目は、@従来品目のうち比率が大きい鉄鋼(第72類)・鉄鋼製品(第73類)、A従来品目のその他の類型(アルミニウム、肥料、セメント、水素)、B追加提案品目に分類してある。この表から読み取れるのは、EU側から見ると、従来品目の輸入額の方が追加提案品目よりも大きいということである。

表2 対象品目の2024年の輸入額とEUの全輸入額に占める割合

  2024年のEUの
輸入額(百万€)
EUの全輸入額に
占める割合
従来品目(鉄鋼・鉄鋼製品) 68,563 2.8%
従来品目(その他) 35,072 1.4%
追加提案品目(複合金属製品) 62,723 2.6%
合計 166,358 6.8%

注)2024年のEUの全輸入額は2,449,627百万ユーロである。今回の提案では、鉄鋼製品の追加もあるが、これらの輸入額(8,700百万ユーロ)は「従来品目(鉄鋼・鉄鋼製品)」に含めている。表3も同様。

出典:EU貿易統計に基づき筆者作成

 ところが、日本からの輸入額に絞ると状況が一変する(表3)。日本からの全輸入額に占める割合は、従来品目は2.9%であるが、追加提案品目は5.0%であり、後者の方が大きい。日本はサプライチェーンの裾野が広く、CBAMの対象が川下に広がれば、影響が増幅しやすい。今回の追加提案は、世界全体と比べて、日本への影響が相対的に大きいと言える。

表3 対象品目の日本からの2024年の輸入額とEUの全輸入額に占める割合

  2024年の輸入額
(百万€)
日本からの全輸入額に占める割合
従来品目(鉄鋼・鉄鋼製品) 1,744 2.7%
従来品目(その他) 136 0.2%
追加提案品目(複合金属製品) 3,216 5.0%
合計 5,096 7.9%

注)2024年のEUの全輸入額は64,185百万ユーロである。

出典:EU貿易統計に基づき筆者作成

3. 日本からの輸入額が大きい追加品目

 続いて、具体的な影響が及びうる業種を特定するため、追加提案された複合金属製品のうち、日本からの輸入額が大きいものを見ていく。図1に示すパレート図は、107品目を日本からの輸入額(2024年、左軸)が大きい順に左から右へと並べ、曲線(右軸)で累積の比率を表したものである v) 。一目瞭然なのは、「8708 40」の品目コードで表される「変速機とその部品(自動車用のもの)」の割合が圧倒的に大きく、これだけで追加提案品目の全輸入の半分以上を占めることである。

 その他の品目の輸入額は、いずれも変速機とその部品の1割以下であるが、そのなかでも日本からの輸入額が比較的大きいのは、金額が大きい順に、「その他のガスまたは煙の分析用機器」(9027 10 90)、「インダクタ」(8504 50 00)、「その他の持ち上げ用・荷扱い用・積み込み用または荷卸し用の機械」(8428 90)、「その他の医療用機器」(9018 90 84)、「燃料、潤滑油または冷却媒体の圧送用ポンプ」(内燃機関用のもの)(8413 30)、「クレーン・ブルドーザー・掘削機の部品」(8431 49)、「貨物自動車(総重量5t以下)」(8704 31)である(※いずれもカッコ内は各品目のコード)。「その他のガスまたは煙の分析用機器」には自動車用の排ガス測定機器が多く含まれていることを踏まえると、自動車関連が多いが、重機、電子部品、医療機器も含まれており、日本の製造業の裾野が広いことを見て取れる。

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図 追加提案された複合金属製品の日本からの輸入額(左軸)と累積の輸入割合(右軸)

注)品目コードの前に“ex”が付いているものは、当該コードの輸入品のうち、一定の条件(たとえば「鉄またはアルミニウムを含むもの」など)を満たすものがCBAMの対象となる。

出典:EU貿易統計に基づき筆者作成

 表4は少し視点を変えて、EUの総輸入額に対する日本からの輸入額の比率が大きい追加提案品目、いわば日本への依存度が高い製品を列挙したものである。やはり自動車関連が多いが、「産業用ロボット」や医療用の「金属製の管状の針」など、高性能・高品質な製品が求められる分野における日本のプレゼンスの高さがうかがえる。

表4 EUの総輸入額に対する日本からの輸入額の比率が大きい追加提案品目

CNコード 品目の概要 EUの輸入総額
(百万€)
日本からの輸入額
(百万€)
日本の割合
8408 20 51 車両用ディーゼルエンジン(出力が50kW以下のもの) 21 13 62%
8704 31 貨物自動車(総重量5t以下、ガソリンエンジン、8704 31 39と8704 31 99を除く) 202 106 52%
8428 70 00 産業用ロボット 163 59 36%
9027 10 90 その他のガスまたは煙の分析用機器(鉄またはアルミニウムを含むもの) 467 161 35%
8708 40 変速機とその部品(自動車用のもの) 5,015 1,706 34%
9018 32 10 金属製の管状の針 362 78 22%
8430 69 00 その他の機械(自走式でないもの) 41 7.4 18%
8428 33 00 連続作動式のエレベーターおよびコンベヤ(貨物用、ベルト式のもの) 294 37 13%
8413 30 燃料、潤滑油または冷却媒体の圧送用ポンプ(内燃機関用のもの) 1,068 119 11%

出典:EU貿易統計に基づき筆者作成

4. 複合金属製品の体化排出量の計算方法

 CBAMは輸入する対象製品の排出量に対し、当該製品の素材・部品も対象製品であるならば、その生産時の排出量もサプライチェーンを遡って積算した排出量に基づき課金するが、複合金属製品では、この排出量の大半は素材として用いる鉄鋼・アルミニウムの生産時の排出量である。外部から調達した素材を加工して製品に仕上げるプロセスからの排出量も存在するが、その排出量はそもそもEU ETSの対象ではなかったり、対象であっても素材の生産時排出量よりは圧倒的に小さかったりするためだ。

 そのため、サプライヤーを遡って排出量データを収集する必要があるが、対象製品の供給事業者はサプライヤーという他社から排出量の実測データを得られない可能性がある。そのため、ルール上、サプライヤーが提供する実測値ではなく、欧州委員会が用意する「デフォルト値」を用いることも認められている。デフォルト値は「国別・品目別の平均排出原単位」として設定されるが、実際の輸入品の排出量がこの平均よりも大きい可能性があるため、制度の環境十全性を確保すべく、一定のマークアップ分を上乗せする。2025年12月に欧州委員会が公表したデフォルト値に関する実施規則では、鉄鋼とアルミニウムについては、2026年は10%分、2027年は20%分、2028年以降は30%分のマークアップを上乗せする方針が示された(European Commission 2025d)。マークアップ分まで考慮すると、排出原単位が平均よりも相当に悪くない限り、デフォルト値ではなく、実測値を用いた方がCBAMの負担は小さくなるということである vi)

 しかし、複合金属製品の場合、製品が複雑になり部品点数が増えるほど、遡るサプライヤーの範囲が広くなり、データ収集が実務的に困難になる。したがって、実測値ではなく、デフォルト値を使うことが現実的な選択肢となるが、このようなケースにおいても、デフォルト値にマークアップ分を上乗せすると、過度に懲罰的となりかねない。そのため、欧州委員会は12月17日の品目追加提案において、サプライチェーンが複雑な川下製品にはマークアップを適用しないことを提案した(European Commission 2025a)。CBAMの適用範囲が川下に広がるにつれて、デフォルト値に基づく排出量算定が広まるものと予想される。

5. 今後の見通し

 今後は、立法府(欧州議会、理事会)での審議が行われる。審議時期は未定であるが、複合金属へのCBAM課金を2028年に開始するには、速やかな審議と合意が必要となるであろう。対象品目の追加はCBAMに対する他国、特に中国やインドなどの反発を一層強める可能性が高く、そうした国々による対抗措置を招くおそれもある。

参考文献

  • i)厳密にいえば、EU ETSのオークション価格と連動するCBAM証書の納付義務を課す。
  • ii)この問題について、上野(2024)の第3章を参照。
  • iii)後述するように、対象品目はEUの関税品目分類で指定されている。同分類は、最大8桁であるところ、一部の追加提案品目は8桁ではなく、4桁や6桁で指定されている。この場合、それより下の枝番の品目は全てカバーされることになるが、枝番を別々のものとしてカウントすると約180品目となる。
  • iv)本稿は、欧州委員会の提案を速報的に解説するものであり、今後、必要に応じて修正する可能性がある。
  • v)日本からEUへの品目別輸出額は日本の貿易統計でも取得できる。しかし、両者を比較すると数値にずれがあること、品目コードの7桁目以降は日本とEUで異なっていること、追加品目はEU側の品目コードで指定されていることを踏まえ、本稿では、EUの貿易統計の数値を用いている。
  • vi)欧州委員会は2025年12月にデフォルト値の実施規則に加えて、排出量算定方法の実施規則も公表している。これらについては、別途のコラムで解説する。

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