電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(210)
再生可能エネ主体系統の安定性確保に向けた課題とは?(その3)

現在の電力系統は、火力・原子力発電機などの同期発電機(以下、発電機)が主体であることを前提に構成・運用されている。これに対して、太陽光発電、風力発電に代表される再生可能エネの多くは、変換器を介して系統に連系される。このため、再生可能エネが増加すると系統に並列される発電機が減少し、やがては変換器主体の系統に近づいていくことが想定される。今回は、このように変換器が主体となった系統で予想される課題について現在の変換器技術の面から解説する。

制御技術から見た課題

現在の変換器は、電力系統側の電圧の大きさ、位相を検出し、これをもとに所望の有効電力、無効電力となる電流を系統に注入するような制御方式が採られている。この制御では、変換器から注入した電流によって系統側の電圧はあまり変化しない、すなわち連系する系統の電圧維持能力が高いことを前提としている。系統の電圧維持能力が低い地点に電流を注入する場合、変換器制御の応答速度や方式によっては系統側の電圧が不安定となり、安定な運転を行うことはできない。この制御方式は電流を制御対象としているため電流制御型と呼ばれ、変換器単体では安定運転が困難である。また、系統側で維持される電圧に追従するような動作となるため、系統追従型(Grid Following)変換器と呼ばれることもある。現在の系統の電圧維持能力は、大量の無効電力を瞬時に供給または吸収可能な発電機に依るところが大きく、系統に並列される発電機が減少して変換器主体系統に近づくと、系統の各地点における電圧維持能力は低下していく。このような系統においては、現状の制御方式では安定運転が困難となることが懸念される。

過電流耐量から見た課題

発電機は系統事故中に大量の無効電力を供給することで事故中の電圧維持に貢献している。これに対し変換器は定格電流を大きく超える電流は流せないため、系統事故時に発電機ほどの事故電流を供給できず、また、事故様相によっては変換器停止に至る。このため、変換器による電圧維持能力は発電機よりも限定的となる。系統事故時に発電機と変換器から出力される電流のイメージを図に示す。

図

図 系統事故時に発電機と変換器から出力される電流の例

系統事故を検出する保護リレーには系統事故時に発電機から事故点に大量の電流が流れ込むことを利用する方式がある。このため変換器主体系統では、①事故時の電圧低下範囲・低下幅が拡大する、②保護リレーが事故検出できなくなる、などの問題が懸念される。

将来の展望

現在の変換器技術から見た課題について述べた。現在の電力系統や変換器の安定運転は、発電機の系統電圧を維持する能力に負うところが大きく、これらの課題を解決するために変換器が主体となって安定運転を維持することができる制御の開発が望まれる。このような制御を備えた変換器は系統形成型(Grid Forming)変換器または自立型変換器と呼ばれ、近年盛んに研究・開発が行われている。しかしながら、変換器が主体となる系統では、制御だけでなく過電流耐量などのハードウェアに由来する問題も存在するため、ソフトとハード両面での解決が重要である。

著者

菊間 俊明/きくま としあき
電力中央研究所 システム技術研究所 電力システム領域 主任研究員。
2007年度入所。専門は電力用パワーエレクトロニクスの制御・解析。

電気新聞 2020年6月24日掲載

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