電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(212)
電力分野においてブロックチェーンは普及するか?

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは仮想通貨「ビットコイン」の基盤技術として、ピア・トゥ・ピア(P2P)と呼ばれるネットワーク技術や、ハッシュ値と呼ばれる暗号技術など、既存技術の巧みな組合せにより作られた、新たなデータベース技術である。ブロックチェーンでは、対等の立場でデータを交信するP2Pネットワークに接続された全ての端末で情報を共有する。このため一部の端末に障害が発生してもシステム全体が停止することはなく、高い可用性が確保される。また、前のブロック内に保存された情報のハッシュ値が次のブロックへ組み込まれ、さらにその情報が次のブロックへと連鎖的に組み込まれる。このため、ある一つのブロックの情報を改ざんすると、その先のすべてのブロックのハッシュ値を書き換えない限り、情報とハッシュ値に矛盾が生じてしまう。しかし、次々と生成される新たなブロックを含め、ハッシュ値を書き換えてすべてのブロックを再生成することは事実上不可能なため、高い完全性が確保される。ブロックチェーンに関しては仮想通貨に限らず、様々な分野での活用が検討されている。電力分野においてはプロシューマ同士で直接電力を取引するP2P取引を中心に活用が検討されている。

電力分野における普及の課題

現状のブロックチェーンには法的な課題、保守性・スケーラビリティなどの技術的な課題があり、電力分野において今すぐに本格的な実用化が進むとは考えにくい。例えば、ブロックチェーンを用いて機器毎の消費電力を記録するには、電気計量制度が課題となる。現状では、機器毎の消費電力の計測器に対しても、計量法に基づく型式承認または検定が求められる。

また、ブロックチェーンはメリットとしてデータ改ざんなどに強い頑強性を持つが、この頑強性が実用における保守性の課題となる。ブロックチェーンでは頑強性を維持するため、基本的にはデータの項目追加やバグ修正などは行えず、作り直しが基本となる。異なる種類のブロックチェーンの連携も困難である。さらに実規模でのP2P取引にはスケーラビリティの問題発生が懸念される。スケーラビリティの問題とは、取引量の拡大に伴い、要求時間内にデータを記録したブロックの生成が完了できなくなる問題である。実際、米国LO3 EnergyのP2P取引実証では、このスケーラビリティの問題から、ベースとなるブロックチェーンが変更されている。実証であればブロックチェーンを変更できるが、実用場面では、前述の保守性の問題もあり、変更は容易ではない。データの正当性を担保するコンセンサスアルゴリズムの見直しをはじめ、様々な取組みが行われているが、スケーラビリティの課題解決にはまだ時間を要すると予想される。

活用方策

短期的な活用方策としては、まずは前述の課題が問題とならない使い方を検討するのが適当である。その一例に、データは通常のデータベースに記録し、そのレコードのハッシュ値のみをブロックチェーンに記録することでデータの改ざんを防止する、ハイブリッド型システムがある。このシステムであれば、ブロックチェーンに書き込むデータ量を削減できるので、スケーラビリティの問題を回避できる。さらにデータ項目を追加してもブロックチェーン自体の修正は必要とならないなど、保守性の課題も回避できる。

中期的な活用方策については、課題解決の動向を考慮して検討することになる。例えば、前述の電気計量制度の課題に関しては、分散リソース活用促進の観点から、機器毎の計量器については制度の適用外とする方向で検討が進んでいる。計量法の課題が解決されるならば、例えば「ベーシック電力」のサービスでのブロックチェーンの活用が考えられる。ベーシック電力とは、電力版のベーシックインカムと呼べるサービスで、冷暖房、照明、調理など、健康的な生活を送るために最低限必要となる電力を低廉・安定した料金で提供するサービスである。電力のトレーサビリティと同様に、冷暖房、照明、調理など各機器の消費電力を改ざん不可能な形で記録するのにブロックチェーンの活用が期待できる。

著者

所 健一/ところ けんいち
略歴 電力中央研究所 エネルギーイノベーション創発センター デジタルトランスフォーメーションユニット 上席研究員。
1989年度入所。専門は数理最適化。博士(工学)。

電気新聞 2020年7月22日掲載