電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(214)
何故電力流通設備の経年劣化評価に実規模課電試験が必要なのか?

電力流通設備の絶縁性能と経済性

電力流通設備では効率の良い送電のため、基幹系統は500kVや275kVという高電圧で送電されている。このような高電圧を使用する系統では、事故発生による影響が広く及ぶため、経済性と高い信頼性を加味した合理的な設備設計、特に電気絶縁性能に関する設計が求められる。

電気絶縁を保つ材料として、碍子装置に用いられる磁器やシリコーンゴム、ガス絶縁機器に用いられるSF6ガスやエポキシ樹脂、変圧器に用いられる紙や油、地中線に用いられる架橋ポリエチレンなどがあり、磁器やSF6ガスを除き、多くは有機物である。有機物は、経年による緩やかな劣化が避けがたく、絶縁性能の低下につながる。一方で、絶縁性能が低下したと想定される高経年の電力流通設備を取り替えるには、予算、計画策定期間と労力が必要になる。したがって、残存絶縁性能を的確に推定できれば電力流通設備の運用期間延伸などを柔軟に選択でき、供給支障を避けつつ電力流通設備の取替時期の最適化、すなわち設備投資の最適化が可能となる。

電力流通設備の劣化要因・絶縁性能調査

実系統で長期間運用された電力流通設備には、運用状況に応じた緩やかな劣化が想定されるため、これらの残存絶縁性能や劣化メカニズムを調査すること、そして調査結果を多数集約して統計的に評価することで劣化メカニズムに立脚した絶縁性能の低下傾向が解明可能である。しかし、これらは運転時の電気ストレス(電圧)に対して大きな裕度を持たせて設計されているため、運転時に絶縁破壊事故に至るものは少ない。そのため、残存絶縁性能や劣化メカニズムの調査には高い電圧をかけて絶縁性能の指標となる各種の現象を調査する必要がある。すなわち、大型の実規模試験設備が必要となる。

送電CVケーブルに対する取組

当所では、様々な高経年電力流通設備の絶縁性能評価と劣化メカニズム解明を進めている。以下に、代表的な電力流通設備の一つである66kV級CVケーブルに対する研究を紹介する。

CVケーブルでは絶縁性能が低下して絶縁破壊が発生すると、絶縁体(架橋ポリエチレン)が劣化要因と共に局所的に溶損し、穿孔が生じる。ここで、絶縁破壊の直前には微小な放電(部分放電、数百μA〜数十mAのパルス電流を伴う)が発生する。当所では、CVケーブル供試体に交流高電圧をかけながら部分放電を測定し、部分放電の発生と同時に電圧印加を瞬時に停止させる「絶縁破壊前駆遮断試験」(以下、前駆遮断試験)を実施している。この試験では絶縁破壊電圧値に加え、部分放電の発生要因、すなわち劣化要因の把握も可能である。

撤去された高経年CVケーブルに対する前駆遮断試験より、ほとんどの供試体の劣化要因が「水トリー」であることが確認されている。これは、絶縁体中に含まれる数μm〜数十μmの「異物」や「気泡」に、絶縁体中に存在する微量の水分が引き寄せられて粒子となり、粒子が長さ数百μm〜数mmの針やしだれ柳の形に連なる現象である。極めて微細な劣化現象であるものの、絶縁性能を新品時の半分〜2割程度に低減させることが多い。ただし、新品時の絶縁性能はケーブル運用時の電気ストレスの10倍以上あるため、多くの場合、水トリーが発生してもある程度の裕度は確保できる。水トリーは数十年にわたるケーブルの運用に伴って緩やかに進展するため、実験室内での劣化模擬試験だけではなく、実物である撤去ケーブルでの劣化状況の評価が重要である。

CVケーブルを寿命限界まで利用するには?

布設環境など、種々の条件ごとにCVケーブルの絶縁性能の低下様相を統計的に評価することで、絶縁性能が低下しやすい条件などを把握できる可能性があり、取替計画の一層の適正化につながると思われる。この検討では、劣化メカニズムの解明と共に不偏的なデータ収集と評価が重要である。このため、製造者や運用者ではなく中立的機関による客観的評価が求められる。中立的機関による実設備の劣化調査結果は事業者による社内外への強力な説明根拠となる。

著者

高橋 俊裕/たかはし としひろ
略歴 電力中央研究所 電力技術研究所 固体絶縁・劣化現象領域 上席研究員。
2001年度入所。専門は高電圧工学・絶縁診断。博士(工学)。

電気新聞 2020年8月19日掲載

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