電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(218)
センサを取り付けることのできない高温機器の損傷をどうやって計測・推定するか?

火力発電設備の保守に関する規制緩和やIoT技術の発達により、保守のスマート化が志向されている。こうした中で、機器の状態監視技術や異常予知技術の開発に向けて、センサ計測データの活用が進められている。

しかし、火力発電設備において、高温環境下で使用される機器に多くの損傷が生じるものの、こうした高温機器に対しては、常時計測用のセンサを取り付けることが困難な場合が多い。従って、火力発電設備の安定運転や計画外停止抑制のためには、センサを取り付けられない高温機器に対して、ソフトセンサ技術を適用し、損傷に密接に関係する温度や応力・ひずみをリアルタイムで推定することが重要となる。

ソフトセンサとは

ソフトセンサは、リアルタイムで計測できない物理量を、リアルタイムで計測できる他の物理量から推定する手法であり、化学や石油、鉄鋼、半導体、製薬産業等において、製品の品質管理や設備の安定運転を目的に実用化が進められている。リアルタイムで計測可能な物理量を変数xとし、計測困難な物理量を応答yとして、xとyの間で数理モデルfを構築することで、xの計測データからy=f(x)の演算により、yをリアルタイムで推定する。間接的にyを推定するため、直接的に計測するハードセンサに対して、ソフトセンサまたはバーチャルセンサと呼ばれる。

xに各種運転パラメータ、yに温度・応力・ひずみをとれば、機器の損傷劣化状態のリアルタイムモニタリングが可能となる。

火力発電設備に対するソフトセンサ

火力発電設備では、燃焼や伝熱等の複雑な物理現象が介在するため、数理モデルfの構築は容易でない。そこで近年、数値シミュレーションを活用した数理モデルの構築が注目されている。国内では日本機械学会内に研究会が立ち上げられ、また国際学術誌や国際会議の場において、論文が数多く発表されるようになってきている。

数値シミュレーションは複雑な物理現象をコンピュータ上で再現し、変数x(運転パラメータ等)に対応する応答y(温度や応力、ひずみ等)を推定する方法である。これは部品の損傷劣化状態を把握する上で有用であるものの、膨大な計算時間を要するため、そのままではソフトセンサとして用いることができない。そこで各種の回帰手法やニューラルネットワーク等の機械学習手法を用いて、数値シミュレーションの解を学習させることで、数理モデルを構築する技術の研究開発が進められている。電力中央研究所では「高温機器の過渡的な温度・応力・ひずみに対するソフトセンサの開発」に取り組んでいる。図は負荷変化を繰り返した際のガスタービン翼の温度変化の推定をイメージしたもので、任意の運用条件に対応した翼温度変化をリアルタイムで推定することが可能になりつつある。

図

図 タービン翼のリアルタイム温度推定のイメージ

高精度なソフトセンサの開発に向けて

ソフトセンサの開発は、数理モデルの持つ数学的な性質と適用先の物理的な性質が関係する技術分野であり、両者の理解が必要になる。電力中央研究所では物理分野を得意とするエネルギー技術研究所と数理分野を得意とするエネルギーイノベーション創発センターの連携により、高精度なソフトセンサ技術の開発に取り組む。

著者

酒井 英司/さかい えいじ
略歴 電力中央研究所 エネルギー技術研究所 上席研究員。
2007年度入所。専門は数値流体解析・伝熱。博士(工学)。

電気新聞 2020年10月14日掲載

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