電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(236)
アンモニアは石炭の代わりになるのか?

日本国内のCO2総排出量の約4割を占める火力発電に対し、カーボンを含まないアンモニアの燃料利用はCO2排出量削減の有望な手段として期待されている。

昨年末に経済産業省より「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が発表され、その取り組みが急速に活発化している。この戦略では、「燃料アンモニア産業」についてもロードマップが示されており、微粉炭火力でのアンモニア混焼については、今年度から混焼率20%での実機実証が開始される予定である。これと並行してアンモニアの混焼率の向上、専焼に向けた技術開発についても推進される計画となっている。

燃料としてのアンモニア

アンモニアを燃料として見た場合、炭化水素燃料や水素に比べて発熱量が低いため、燃焼性に劣るとされる。しかし、電力中央研究所の試験用微粉炭バーナ(石炭燃焼量:約100㎏/h)においては、バーナの中心部から注入したアンモニアは最大混焼率60%(熱量基準)まで安定して燃焼できることを確認している。

また、アンモニアの化学式がNH3であることからわかるように窒素分を含んでおり、燃焼に伴う酸化反応により大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)に転換された場合、NOx濃度の大幅な増加を招くことになる。微粉炭火力を対象とした低NOx燃焼技術は、重工メーカ各社が長年苦労して培ってきた経緯があり、アンモニア混焼時のNOxの増加は、最大の懸念事項である。

アンモニア混焼時の低NOx対策

石炭にも、約1~2%程度の窒素分が含まれており、燃焼に伴う酸化反応によりNOxが生成する。このため、微粉炭火力では、主に低NOxバーナと二段燃焼法(燃焼用空気の3割程度を火炉の下流側から投入することでバーナ周りを還元雰囲気にして、生成されたNOxを分解する方法)を採用している。しかし、これらを組み合わせた低NOx燃焼においては、NOxの低減に伴い、灰中に残存する未燃分が増加してしまうため、NOxと未燃分の両方の低減が重要となっている。

当研究所が保有する三段の微粉炭バーナを配置した試験炉を用い、バーナ全段からそれぞれ混焼率20%(熱量基準)にてアンモニアを注入した場合、石炭専焼時に対し約2倍のNOx濃度となるため、アンモニア混焼に適した低NOx燃焼技術の開発が不可欠であることがわかった。

そこで、アンモニア注入位置からの火炉内滞留時間を長くし、火炉内で形成される還元領域の効果的な利用を目的として、アンモニアを下段バーナのみから集中して注入する方法を考案した。さらに、アンモニアと微粉炭の混合状態を改善する新規開発のアンモニア注入ノズルの導入と燃焼条件の適正化により、NOxと未燃分については石炭専焼時と同等レベルまで低減できる見込みが得られている。これらの成果により、バーナ全段へのアンモニア供給装置の設置や脱硝装置の追加などは不要になる。

図

図 火炉へのアンモニア注入方法

今後の取り組み

アンモニア混焼率20%を目標とした燃焼技術については、実機適用への見通しが立った段階と言える。

今後、当研究所はアンモニア混焼率の拡大を目指した技術開発を進める計画である。

著者

木本 政義/きもと まさよし
電力中央研究所 エネルギー技術研究所 火力運用保守領域 上席研究員
1988年度入所、専門は燃焼工学、博士(工学)。

電気新聞 2021年6月30日掲載

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