電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(239)
産業電化の鍵であるヒートポンプはこれから大幅に普及拡大できるか?(その2)

産業用ヒートポンプの普及拡大には「効率的なプロセス統合」と「高温ヒートポンプの導入」の代表的な課題があることを前回紹介した。本稿では、このうちプロセス統合について導入事例を交えて解説する。

プロセス統合によるオール電化事例

ヒートポンプを効率的に産業プロセスに統合した事例として、2019年に新設されたノルウェーの乳製品工場の例を紹介する。乳製品工場では、洗浄や殺菌などの加熱プロセスと建屋の暖房や給湯のために熱供給を行うとともに、製品などの冷却も行う。従来、熱供給ではボイラで120度の蒸気を供給し、必要以上に高い温度で熱供給する一方、冷却には冷凍機を用い、熱供給と冷却を別に行っていた(図)。ヒートポンプは熱をくみ上げる技術であり、加熱と冷却を連携できる。そこで工場新設にあたり、各プロセスの熱需要と排熱を精査し、4つの温度レベルに整理してプロセスに統合した。具体的には、それぞれの温度レベルに蓄熱槽を設け、それらを3つのヒートポンプで結合し、各プロセスの必要温度で熱供給を行う(図)。蓄熱槽は冷却需要と加熱需要の時間的なギャップを解消する。冬期など加熱需要が比較的大きくなる場合、高温の熱供給が不足するのを補う電気ヒータの補助熱源を使用するが、新たな工場ではプロセスやユーティリティからの排熱(未利用熱)を有効活用し、工場からの廃熱の最小化を果たした。

図

このように工場のすべての熱需要をヒートポンプと電気ヒータで賄い、その電源には水力発電比率が極めて高いノルウェーの系統電力に加え、工場建屋の屋上に設置した太陽光パネルによる自家発電も使用し、工場の脱炭素化を達成した。熱需要が100度未満の工場では、ヒートポンプを効果的に活用することでオール電化が可能であることを示しており、日本にとっても参考になる。

事業としてのプロセス統合の担い手

産業用ヒートポンプの導入にあたっては、プロセスの熱需要や排熱を詳細に分析し、ヒートポンプを効率的にプロセスに統合することが求められる。上述の乳製品工場の場合は、ノルウェー産業技術研究所がその役割を担っていたが、普及拡大のためには事業として企業が担っていく必要がある。

例えば、デンマークでは産業用ヒートポンプに関する専門知識を有したコンサルティング会社が登場し、工場データの分析からヒートポンプの選定、導入プロジェクト全体の管理・監督を担っている。オーストリアでは空調関連のエンジニアリング会社が産業用ヒートポンプも扱うようになってきた。一方、フランスではフランス電力とその子会社のDalkia社がコンサルティングとエンジニアリングを担っている。

日本ではヒートポンプ機器メーカがプロセス統合までを担う事例が見られるが、普及拡大のためには工場とメーカの間で活動できるプレイヤが求められる。フランスと同様に、小売電気事業者やその子会社であるエネルギーサービス・ソリューション会社がその役割を担っていくことが期待される。

電力中央研究所では、工場全体での熱の流れを俯瞰し、産業用ヒートポンプを効率的にプロセスに統合するための方法論に関する研究を進め、産業用ヒートポンプの導入拡大に貢献していきたい。

著者

甲斐田 武延/かいだ たけのぶ
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 主任研究員
2011年度入所、専門は熱工学。

電気新聞 2021年8月4日掲載

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